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フランとの再会

 ハンクの進行方向は民家のある辺りから針葉樹の広がるところに向かっていた。

 俺の知識ではホワイトウルフの習性は分からないので、ついていくしかなかった。


 途中まで足元は歩きやすい砂利道だったが、森へ入ると細いわだちになった。

 夜の森は暗さが増して、一人ではなかなか足を踏み入れにくいと思った。


 二人で歩き続けると、ハンクがふいに立ち止まった。


「……どうしました?」


「おれたち以外に誰かいるな」


 ハンクがそう言った後、少し離れたところで、ホーリーライトの光が浮かんだ。

 俺たちがその場にとどまると、淡い光が徐々に近づいてきた。


「――遅くに失礼しますわ。地元の方ですの?」


「あれっ、フラン?」


 光に照らされて、フランの白い顔が浮かび上がった。

 彼女は軽装の上に紺色の外套を羽織っている。


「あら、店主にハンクですわね。もしかして、ホワイトウルフですの?」


「そっちもホワイトウルフか。奇遇だな」


「わたくしはギルドの仕事で来ていますの。家畜を襲う可能性がないかについての調査ですわ」


 フランは荷物の中から依頼内容が書かれているらしき紙を取り出した。


「そういえば、フランはどこのギルド所属でしたっけ?」


「わたくしはデュラス公国の小都市のギルド所属ですわ。バラムよりもこちらの方がレンソール高原に近いですわね」


 レンソール高原はランス国内ではあるのだが、北の端の方にあるため、デュラスの方が近かった。  


「ところでフラン。何か目ぼしい痕跡は見つかったか」


「いいえ、まだですわ。声のする方へ行っても逃げられるだけなので、こうして森を調べていますの」


「そうか、ホワイトウルフは警戒心が強いからな」


 ハンクとフランの話に耳を傾けているが、ハイレベルで会話に入りこめない。

 これだけ暗い状況で、正確に位置を割り出せるのはすごいと思った。


「ところで、あなたたちの目的は何ですの?」


「ああっ、チーズのためだ」


「はっ、チーズ……ですの?」


 フランは虚を突かれたように困惑したような顔になった。


「アデルおすすめのチーズがあって、そこの生産者がホワイトウルフのことで困っているんです」


「えっ、お姉さまも来ているのかしら?」

 

「あっ、そうですね……来てますね」


 アデルがいることをフランに伝えたら、アデルが怒りそうな気がした。

 とはいえ、嘘をつくのも抵抗がある。


 話の流れがややこしくなりかけたところで、ハンクが口を開いた。


「とりあえず、逃げられる限界まで近づいてみようぜ」


「そうですわね。Sランク冒険者の実力を見せてほしいですわ」


「早速、行ってみるか」


 ハンクは森の中を歩き出した。

 フランがその後に続き、俺は彼女の後ろを歩いた。


 話している時には気づかなかったが、また遠吠えが聞こえている。


「……いますね」


「ああっ、離れていれば、遠吠えを続けるみたいだ」


 暗闇に包まれた木々の間を三人で進む。

 ここは地元の人たちが通る道のようで、多少歩きやすいことは幸いだった。


 いくらか移動したところで、再びハンクが立ち止まった。


「……足元が見えづらくなるが、ホーリーライトを消すぞ」


「はい」


「分かりましたわ」


 ほぼ同時に三人分の明かりがなくなると、一気に真っ暗になった。


「もう少し先に出たら、ホワイトウルフがいるはずだ。ここからは静かに頼む」


 俺は言葉を返さずに頷いた。


 視界にかろうじて捉えられるハンクとフランの影が、前方をゆっくりと進む。 

 暗闇で足元が確かめづらいため、二人の動きをなぞって慎重に歩いていく。


 やがて、先の方で森が開けていた。

 その向こうからホワイトウルフの鳴き声が聞こえてくる。


「この先にいるはずだ。かがんだまま進むぞ」


 ハンクは小声で言うと、姿勢を低くしてさらに進んでいった。

 フランが同じような体勢になり、俺も真似るように膝を曲げた。


 音を立てないように注意しながら、一歩ずつ前へと進む。

 

 先に森を出たハンクに追いつくと、かろうじて目視できる動きで横に並ぶように示していた。

 彼の左側にフランが行ったので、俺は右側に並んだ。


 夜空には三日月が浮かび、無数の星々が輝いていた。

 月明かりがそこまで明るくないので、ホワイトウルフに姿を見られる可能性は低いと思った。


「……暗闇で姿は見えなくても、鳴き声は聞こえますわね」


「たしかにどこかにいそうな気配がします」


「さすがに二人には見えねえか。おれはどうにか輪郭を捉えた」


 一体、どういう目をしているのだと思ったが、口にはしなかった。

 俺の目には夜闇に包まれた森と丘しか見えていない。


「位置が分かるなら、捕まえたりできそうですか」


「気配を遮断して近づいたとして、確率は半々だな。風下から近づければいいが、風向きが変わって、匂いに気づかれたらアウトだ」


「ホワイトウルフに気づかれないなんて、人間離れしていますわ」


「こう見えて、人間だぜ。そこんとこ忘れてほしくねえな」


 ハンクは声を抑えたまま言うと、静かに後退を始めた。 

  

「戻りますか?」


「だいたいの位置は分かったからな。ちょっと様子を見てくる」


 彼がそう言うのなら、八、九割の確率で成功しそうな気がする。

 

 俺はフランが後ろに下がったのを確認してから、自分も後ろに戻った。


フランは作者的にお気に入りな登場人物の一人です。

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