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調査開始

「本来ならランス王国以外の人を助ける義務はないけれど、他ならぬマルクくんの頼みとあれば協力するよ」


「私もクリストフに同じです。マルク殿がこちらの店主を助けたいのなら、手助けさせてください」


 リリアとクリストフに期待していたが、予想通りの答えで安心した。

 一方、ラーニャからの返事はまだだった。

 押し黙ったままで彼女の真意は分からない。

 俺は沈黙に耐えかねて声をかける。


「……ラーニャさん、ごめんなさい。エスタンブルクに向かうのが遅くなってしまって」


「いや、それは関係ない。それよりこの宿の食事は美味だった。ダークエルフの里には一宿一飯の恩義という言葉がある。恩に報わねば一族の名が廃ってしまう」


「じゃあ、もしかして……」


「ああ、私も手伝おう」


 ラーニャの表情は固いままなのだが、はっきりとした声だった。

 打ち解けるのにもう少し時間はかかるとしても、彼女が義理堅いところがあると知った。


「ううっ、皆ざん、ありがとうございまず」


 仲間たちが協力を申し出たのを受けて、マリオは鼻水と涙を垂らしていた。

 すぐに本人もそれに気づき、自分のハンカチで顔を拭った。


「俺も仲間の安全に責任が持てないので、状況次第では調べるだけになるかもしれません」


 冒険者の時の名残で、思わず可能と不可能の境界線を伝えてしまった。

 無意識にぬか喜びさせたくない意識が働いたような気もする。


「いえいえ、ぞれでもうれじいでず」


 マリオはちょっと失礼と言って、調理場で顔を洗って戻ってきた。

 再び顔を見せた彼は憑きものが落ちたようにさっぱりした表情だった。


「とりあえず、僕らで調べて行くよ。マリオさん、地図と知る限りの情報を提供してもらえるかい?」


「承知しました。少々お待ちを」


 クリストフは淡々と指示を出し、マリオは地図を探しにこの場を離れた。

 少しして、丸まった紙を持った彼が戻ってきた。


「うちのペンション周辺の地図です。といっても森と山ばかりで、目印が少ないのが難点ってとこです」


「よしっ、分かった。まずはテーブルの上に広げてみてよ」


 マリオはそそくさと丸まった紙を広げた。

 全体の左下部分にペンションがあり、それに沿うように街道が見える。

 地図を確かめると分かりやすいのだが、森の中を突き抜けるように街道が通っているのが一目瞭然だった。


「まずここがうちのペンション。それからこっちがツヌーク山。標高はそこまで高くなくて、麓から山頂まではわりと距離が短い。危険なモンスターが出ると言われているのはこの山付近です」


 マリオは指先でツヌーク山の辺りをぐるぐるとなぞった。

 今見た限りの縮尺では比較的近いところにある。


「ちなみにここからその山まではどれぐらいかかります?」


「午前中に出れば昼までには着く。お客さんたちは体力がありそうだから、それよりも短い時間で行けるはず」


 そこでマリオは何かを思い出したように席を外した。

 戻ってきた彼が手にしていたのは人数分のバックパックだった。

 膨らみ具合から中に何かが入っていることが分かる。


「旅の装備はお持ちのはずだけど、山の準備はないでしょう? この中に水筒と食料が用意してあります」


「ありがとうございます。すごく助かります」


 俺が感謝を伝えるとマリオは笑顔を向けてくれた。

 それからもう一度地図を確認して、用意してもらったバックパックを背負った。


「頼んでおいて言うのもあれだけど、どうか気をつけて。危険を感じたら引き返してください」


「はい、大丈夫です」


 俺たちはペンションの外でマリオに見送られながら出発した。 

 馬に危険があってはいけないため、馬車は宿泊客用の馬小屋に移動してある。

 少し歩いたところで街道に出た。


「ここから向こうへ進んで、遊歩道を通ってツヌーク山に向かうルートですね」


 俺は地図の写しを手にした状態で仲間に伝えた。

 皆一様に平気そうな感じだったものの、移動開始後は口を閉じたまま歩いている。

 目的地まで離れていることもあり、今は陣形を組んでいない状態だった。


 ラーニャの経験は詳しくないが、少なくともリリアとクリストフは対人戦が主戦場であってモンスターを得意としているわけではない。

 それはどちらかというと冒険者の領分だ。

 グレイエイプの時でさえも行きがかり上、二人が助力したにすぎない。


 周囲は新緑を思わせる木々に囲まれており、自然とすがすがしい気分になる。

 朝のきらめく陽射しが風に揺れる枝葉を照らし、さわやかな風が通り抜けた。

 ここからそう遠くないところに危険なモンスターが出ることをにわかに信じがたい気持ちになる。

 危険にも色んな種類があり、具体的な情報がないことも厄介だった。


「元冒険者としては、情報が少ないことが気になります。以前、フェルトライン王国の街では同業者を狙った嫌がらせが横行していました。ただ、マリオさんの人柄的に恨みを買うようには思えませんし、彼がペンションを引き払った時のメリットも想像できません」


 沈黙が続くのに息苦しさを覚えて、思ったことを口にした。

 リリアとクリストフはこちらを向き、ラーニャはそのまま歩いている。

 三人の実現を頼りにしすぎている面もあるため、もう少し話をした方がいいと判断した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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