解決の糸口と首謀者の正体
ハンクとアデルは足跡をたどるように地面を観察しながら、少しずつ発信源へと近づいているように見えた。
近くに民家が点在するので、中から見られている可能性がある点は気がかりだ。
「俺は魔力をたどれないので、周りに注意していますね」
「監視されているような気配はないが、念のため頼む」
「私も助かるわ。周りの様子と魔力の痕跡の両方には集中できないから」
俺は周囲を警戒しながら、ハンクたちが痕跡をたどる様子を見守った。
ハンクたちと魔力の痕跡を追い続けていると、町の外に出た。
「ここからは民家がないから、楽勝だな」
「そうね。この調子だとあと少しかしら」
ハンクとアデルは余裕のある表情をしていた。
そこから、二人は町の中よりもスムーズに進んでいった。
強い日差しと乾いた風を浴びながら歩き続けると、いかにもな洞窟にたどり着いた。
「どうやら、この中に続いてるな……」
「たしかに、私もそう思うわ」
二人の意見は一致していた。
「マルク、もしものために剣を抜いておけよ」
「はい、分かりました」
今回は使い慣れたショートソードを持ってきている。
俺は柄に手を添えると、鞘から剣を引き抜いた。
俺たちはそれぞれにホーリーライトを唱えてから、洞窟の中へと足を踏み入れた。
特に罠は見当たらず、拍子抜けするように楽々と進めた。
行き止まりが見えたところで、簡素な小屋があった。
「……ただの間抜けか」
ハンクは呆れたように言った。
「冒険者目線だと、首謀者が何をしたかったのか謎ですね」
「ドミニクに個人的な恨みがあるんだろうが、反撃されないと思ったのか」
「私たちが居合わせたのを知らなかったんでしょ」
アデルは、さっさとやっつけるわよと言って、小屋の扉に手をかけた。
「――っと、危ない」
アデルが扉を開くとアイシクルが飛んできたが、彼女は軽い身のこなしで回避した。
「多分、この魔法使いが犯人みたいよ」
「な、何だ! お前らは!?」
ハンクと中を覗くと、中年の男が興奮した様子でこちらを見ていた。
魔力の媒介に使う杖が立てかけられているので、魔法使いなのだろう。
「それはこっちの台詞だ。ドミニクにくだらない嫌がらせしやがって」
「魔力のパスが切れたのは、お前らのせいかぁ!」
「ああもう、うるさいわよ。洞窟の中で大声出さないで」
アデルは腕組みをして、ご立腹のようだ。
彼女の背中からオーラのようなものが湧き立つのが垣間見えた。
「ひぃっ、とんでもない魔力……。なんで、エルフがこんなところに」
「まずは無力化して、ドミニクのところへ連れてくのが一番じゃないかしら?」
アデルは男を無視して、ハンクに話を振った。
「それが最善だろうが、そんなことできるのか?」
「私に任せて」
男は小屋の隅で怯えているのだが、アデルはそこに向けて手の平を掲げた。
ほんの少しだけ、空気が振動するような感じがした。
「お、おいっ、何をした……」
「それはヒ・ミ・ツ。また魔法を使えるようになりたかったら、ドミニクに反省を示すことね」
「さて、この期に及んで抵抗すんなよ」
ハンクは男に圧をかけるように、数歩にじり寄った。
「わ、悪かった。ドミニクの発明品のせいで、ポーションが売れなくなってしまって……」
「まさか、それが理由だってのか?」
「一人だけぼろ儲けするのが許せなかった……」
俺は男の話を聞きながら、違和感を覚えた。
市場に流通するポーションは回復力が期待できるものの、粗悪な製品が多く、軒並み評判が悪かった。
「サソリの力が優れていたってだけの話じゃないですか」
「あの男は何か裏で卑怯な手を使っているはずだ。我輩のポーションが劣るなんてありえない」
男はドミニクの手腕、サソリの力の効果と差がある点を受け入れられないようだ。
もしかしたら、庶民の出であそこまで成功するには、人には言えないようなことがあるのかもしれない。
それでも、ドミニクの画期的な発明を貶めるべきではないだろう。
「バカにつける薬はないって言うじゃない。とにかく、ドミニクのところへ連れていきましょう」
「そうだな、そうするか」
ハンクがついてくるように言うと、男は逃げられないと観念したようでおとなしく従った。
俺たちは洞窟を出て、男をドミニクの宮殿へと連れていった。
それから、仕事から戻ったドミニクは騒動の件をハンクに説明されて、男と対面を果たした。
俺とアデル、ハンクの三人は、宮殿の一角で男とドミニクの様子を見ていた。
「う~ん、悪いな。顔に覚えはない。そもそも、ポーションなんて時代遅れな商品を売るやつがいることに驚いた」
開口一番、ドミニクはどうでもいいと言いたげな感想を告げた。
それを聞いた男は悔しそうにするでもなく、その場にうなだれた。
「いいのか、ドミニク。カティナの住民に催眠魔法をかけたんだぞ」
「あっ、それか。冴えない魔法使い君、何人操ったの?」
ドミニクはあっさりした口調で、男にたずねた。
「じゅっ、十一人だ……」
「あっ、そう。鞭打ちを人数分だけ受けたら、それでご破算にしようじゃないか」
ドミニクはそう言った後、使用人の一人に、久しく使ってないけど、使える鞭はあるかなーと気さくに声をかけた。
すると、使用人は少し席を外して、革で作られたような鞭を持ってきた。
「鞭打ちっていうのも、なかなか前時代的だと思うんだ。それでも、何もなしというのも示しがつかない」
ドミニクはピシピシと自分の手に鞭を当てた後、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「久しぶりで上手く加減ができないかもしれない。先に謝っておこう」
ドミニクは穏やかな笑みを浮かべている。
その表情とは裏腹に得体の知れない恐怖を覚えた。
彼の意外な一面を見てしまった気がした。
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