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ドミニクへの妨害と操られた住民たち

 歓迎の宴から一夜明けた。

 宮殿の客間に用意されたベッドで目を覚ますと、来客用の水場で顔を洗った。

 貸し出された寝間着から自分の服に着替えて、長い回廊を歩いて朝食の場に向かう。

 

「マルク、昨日はよく眠れたかい」


 俺が顔を出すと、ドミニクが声をかけてきた。


「ええまあ、部屋が豪華で落ちつかなかったですけど」


「ははっ、そうかそうか」


 ドミニクは愉快そうに声を上げた。

 朝から元気な人だと思った。

 

 続いてアデルとハンクがやってきたところで、使用人たちが食事を並べ始めた。

 床に敷かれた絨毯じゅうたんの上に、大皿がいくつか置かれた。

 

 フルーツや野菜、焼いたヤギの肉、主食と思われるパンのようなもの。

 腕のいい料理人がいるようで、全体的に盛りつけがきれいだった。


「それでは、召し上がれ」

 

 昨日の疲れが残っているのか、アデルとハンクは静かに食事を口へと運んでいた。

 俺も同じように、控えめの会話で食事を続けた。 


 朝食が終わると、ドミニクは仕事があると言って席を立った。


 食後、俺たち三人は会話を始めた。


「クリムゾンスコルピオの味が分かったなら、あえて捕まえる必要はねえな」

 

「ハンクに賛成するわ。早く帰りましょう」


 アデルはカティナ周辺に魅力を感じていないようで、帰りたそうな気配を隠そうとしなかった。


「そういえば、馬車は町で待機中でしたっけ」


「ああっ、御者に頼めば出られる」


 俺たちが話していると、外の様子が何やら騒がしくなった。


「おっ、何の騒ぎだ?」


「様子を見に行った方がいいかしらね」


 三人で近くの出入り口から外に出た。


「――商人ドミニクによる、クリムゾンスコルピオの独占を許すなー!」


「乱獲は生態系のバランスを崩すぞー!」


 十人ぐらいの現地住民風の男女が敷地の外で声を上げていた。

 彼らの近くに守衛はいるものの、困惑したように右往左往している。


「ここの住民はドミニクと信頼関係があるはずなのに、おかしいな」


 ハンクはこの状況に疑問を抱いているように見えた。


「ドミニクさんはサソリの力を作るのに、そんなに大量のクリムゾンスコルピオを使っているんですか」


「外にいる奴らの使いすぎというのは言いがかりだろ。最初のきっかけは増えすぎたクリムゾンスコルピオの有効活用だぞ」


 ハンクから普段は見せないような憤りの気配を感じた。


「あらあら、伝説の冒険者もお友だちのことになると、目が曇るのね」


「アデル、何か分かったなら教えてくれ」

 

 ハンクは落ちついた声で彼女にたずねた。


「大声を上げている連中の目をよく見て」


「ふっ、そうか。おれとしたことが」


 ハンクは自嘲めいた声をあげると、何かに気づいたような反応を見せた。


「……えっ、何か変ですか?」


「催眠魔術を使うなら、もう少し上品にやってほしいものよ」


「ドミニクにちょっかいかけたのは許せねえ。おまけに、ここの住民を巻きこんだのはやりすぎだな」


 どうやら、叫んでいた人たちは魔法で操られているらしい。

 珍しくハンクが怒っているが、この状況を手引きした者はどこにいるのだろう。 


「カティナは退屈すぎたから、ストレス発散に魔法を使いたい気分ね」


 アデルは遠回しにハンクを手伝うと言っているように聞こえた。


「ちょっくら犯人探しといくか。それとマルクは一人でいるより、おれやアデルと一緒にいた方が安全だぞ」


「分かりました。少し怖いですけど、二人が一緒なら」


 ハンクは俺の言葉に頷くと、足早に歩き始めた。


 


 ハンクとアデル、俺の三人で騒ぎの現場の近くにやってきた。

 魔法上級者の二人で、住民たちにかけられた魔法を解くことを優先するそうだ。


 ハンクとアデルは詠唱なしで両手を掲げると、無数の糸を手繰り寄せるような動きをした。


 すると、住民たちは地面に膝を下ろして、ついさっきまで夢でも見ていたような素振りを見せた。


「町の人らは魔法で操られていただけだ。頭痛や目まいを起こす場合もあるから、介抱してやってほしい」


「はっ、偉大なるハンク」


 ハンクは守衛に一言かけると、町の中を歩き始めた。

 俺とアデルはそれに続いてついていく。


「痕跡があるわけじゃないですけど、心当たりがあるんですか?」


「あれだけの人数を一気に操るなら、魔力のパスをしっかり繋ぐしかねえ」


「そうすると、魔力の残滓ざんしが点々と見つかるわけなのよ」


 ハンクの後を引き継ぐように、アデルが嬉々と説明してくれた。

 

 俺自身に基礎的な魔法の心得はあるものの、そのような痕跡は見つけられなかった。

 足元からその先を眺めてみても、乾燥した地面が続いているだけだった。


「さらっと言いますけど、そんな技術をどうやったら身につけられるんですか?」


「技術? そんなに難しいことじゃないわ」


「魔法を使い続けたら、そのうちできるんじゃねえか」


 天才肌二人に質問しても、一般人が参考にできる方法は聞けなかった。

 やはり、魔法を極めるのは長い道のりのようだ。

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