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アデルとのフォアグラの調理

「まあ、無事でよかった。フォアグラが手に入ったんだ。アデルに教えてやろうぜ」


「ああっ、そうですね」


「えっ、フォアグラがあったの?」


 アデルは目尻を手の甲で拭うと、驚いた様子で言った。


「俺が閉じこめられた洞窟にボードルアがいて、シルバーゴブリンと捕まえました」


「……シルバーゴブリン?」


 彼女は戸惑いの浮かぶ表情を見せた。

 いきなりいなくなった人間がこんな話をすれば、そうなるのも自然な反応だろう。

 俺は連れ去られる前の経緯と洞窟での出来事を説明した。

 

「――そんなことがあったのね」


 洞窟内でシルバーゴブリンに助けられたことを伝えると、アデルは納得するような表情になった。


「食堂の男と香水の店の女性が関係しているとは思えないですが、これだけ広い街だと誰が盗賊とつながってるか分かりません」


「その店の女をとっ捕まえて、洗いざらい話してもらおうかしら」


 アデルは表情を変えず、声音に怒りを含ませている。

 傍目に見て、とても恐ろしいことになっている。


「まあ、落ちつけって。ムルカの規模じゃ尻尾を掴ませるようなことねえだろ」


 ハンクはそんなことお前も分かるだろと言いたげな態度だった。

 彼の言葉で冷静さを取り戻したのか、アデルは普段の様子に戻った。


「そうね、妙な連中に目をつけられても厄介だから」


「ああっ、そういうこった」 


 アデルとハンクが手を合わせれば、そこらの盗賊に遅れを取ることはないだろう。

 冒険者が束になったところで、上位ランクでなければ負けはありえない。

 だからといって、二人が戦いを望むことは考えられない。


「身の回りに注意するように聞いていたのに、俺自身に気の緩みがあったと思います。フォアグラが手に入ったわけですし、三人で食べませんか?」


「私としたことがフォアグラがあるって聞いたのに」


「おれも食べたい。ここはキッチンはないのか?」


「そういえば、ここは城か何かですか?」


 他に重要なことがあったので、聞きそびれていた。


「ああっ、ここはムルカの有力者の邸宅を再利用した宿泊施設なのよ。どこか安全なところで待機しようと思って」


「そういうことなら、料理ができる場所はありそうですね」


「私も詳しくないから、皆で行きましょう」


 俺たちは必要なものをまとめて、三人で部屋を出た。

 アデルが受付で確認をしてくれて、料理のできる場所に移動した。

 本格的な調理場では客向けの料理を作るはずなので、ここは家庭料理を作るような大きさだった。


「そこまで広くはないですけど、必要な道具はありそうかな」


 俺は室内を見回しながら言った。

 調理器具は幅広く用意されていて、棚の中には食材が並ぶ。

 

「マルクはフォアグラを調理したことある?」


「いえ、ありません」


 荷物をテーブルに置いてから、アデルと会話を続ける。

 

「それなら、私が作るわね。何度か作ったことがあるから」


「はい、お願いします」


 彼女と話していると、ハンクはフォアグラの包みを開いていた。

 こちらから見る限り、鮮度は保たれたままで見た目に変わりはない。

 

「おれも経験がないから、ここはアデルに任せるとしよう」


「ええ、任せて」


 フォアグラの調理はアデルに一任されることになった。

 

「よかったら、手伝ってもいいですか。フォアグラを調理してみたくて」


「ええ、いいわ。ほとんど一人でできてしまうから、あまり頼める作業はないかもしないわよ」


「それで大丈夫です」


 洞窟でボードルアを捕まえたり、しばらく閉じこめられたりしていたので、がっつり料理をしたい気分ではなかった。

 今は補助程度の作業がちょうどいいと思う。


 アデルは両腕の袖をまくると調理を開始した。

 彼女は包みの上に置かれたボードルアの肝――つまりフォアグラ――を眺めた後、お湯を沸かすように指示を出した。


 俺はかまどに火をかけて、火力を確保してから水の入った鍋を置いた。

 お湯が沸くのを待っていると、アデルは調理場の中から必要な調理器具や材料を集めてテーブルにまとめた。

 その様子を眺めるうちにお湯が沸いて、彼女に声をかける。


「あっ、お湯が沸きました」


「すぐ使うから、そのままにしておいて」


「はい」


 アデルは金属製のパッドにフォアグラを並べると、沸いたお湯をサッとかけて湯引きのようなことをした。


「これでだいぶ臭みが取れるのよ」


「へえ、勉強になります」


 それから彼女は別のパッドを用意して、下味をつけ始めた。

 白ワイン、塩コショウ、名前の分からないハーブ。

 なかなかの手際で早いペースで作業が進んでいる。


「ここにある蒸し料理に使う布を洗っておいてくれる?」


「はい、分かりました」


 何に使うのかは想像できないが、白い布を調理場の水で洗い始めた。

 うちの店と同じように湧き水を通しているようで、手に触れた水がずいぶんと冷たく感じられる。


 その布を洗い終えてアデルに渡すと、彼女が味つけ済みのフォアグラを布に包み始めた。

 あまり見たことのない調理法に目が釘づけになる。


「布は何枚かあるし、よかったらやってみる?」


「そうですね、やってみます」


 彼女の手元を見ながら、同じように形を整えていく。

 太めの筒状にして少しずつ長さを伸ばす要領だ。


「思ったよりも簡単です」


「そんなに難しくないわよね。柔らかくて加工しやすいし」


 二人で話しながら、順調に包むことができた。

 その作業を終えたところで、今度はアデル自らかまどの用意を始めた。


「これから、今包んだものを蒸すわ。火加減を人任せにはできないから、ここからは私がやるわね」


「お願いします」


 アデルは真剣な表情で、火力の調整を蒸し器の用意を進めている。

 完成形がどのようなものになるか、期待が高まっていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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