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マルクとパメラの真骨頂

 俺とパメラが経験を基に選ばれたように、ホールの給仕係も地元の経験者から二人が選ばれている。

 具体的には食堂で給仕を経験した人たちと説明を受けており、事前に町長とやりとりする際に顔合わせを済ませていた。


 調理の手順を再確認しつつ助手の人たちを気にかけていると、ホールから注文表を手にした給仕係がやってきた。

 位置的にパメラの方が近く、彼女が注文内容を聞きに行った。


「――パンとパスタ、それぞれ三つずつです。パスタの方が時間がかかるので、ソテーはマルクさんにお任せします」


「はい、了解です」


 注文が入った後、調理場の空気が一変するのを感じた。

 ほどよい緊張感が漂い、俺たちの意欲を反映するように活気が出てきた。


「すみません。指示をお願いします」


「クレマンさんは人数分の野菜のカットを、ベランさんは食器のセットをお願いします。ポタージュは直前に用意するので、まだ入れないでください」


 簡単な手順は説明してあったが、実際に動くとなると具体的に伝えなければならない。

 助手の二人に指示を出した後、自分の作業に取りかかった。


「まずはバゲットを切るか」


 包丁置き場から専用の包丁を手に取り、バゲットに刃を滑らせる。

 事前に切っておくと乾燥してしまうため、その都度切り分ける必要がある。


 人数分の枚数を用意できたところで、簡易冷蔵庫からペーストを取り出した。

 チーズを使っているため、冷えたことで少し固まっている。

 先の平らな木べらで混ぜ直して、柔らかくしてからバゲットに乗せていく。


 トリュフを使っているからといって、量をケチるわけにはいかない。

 今日はプレオープンだとしても、今後の稼働では高単価になるはずだ。

 お客の期待に応えるためには、適度なボリューム感を出す必要がある。


「よしっ、こんなところか」


 アフタヌーンティーに合いそうな上品な仕上がりになった。

 満足できる完成度に自然と表情が緩む。

  

「手が空いた方、ここの三皿は出せるのでお願いします」


「はい!」


 返事が聞こえたところで、ソテーを作るために少し移動する。

 まな板の近くには切り終えたホウレンソウがボールに入っていた。


「うん、すぐに使えるな」


 仕事ぶりを疑うわけではないが、自分で準備していない以上、確認は必要だった。

 砂や汚れは洗い流してあり、きれいに等間隔に切ってある。


 火力の保たれたかまどの上にフライパンを乗せて、オリーブオイルを引く。

 他の三つの料理で乳製品が入っているため、この料理にバターは使わない。


 先に火の通りにくい根の近くを軽く炒めてから、葉っぱの部分を投入する。

 今回のメニューの中で、ソテーは口休め的な位置づけにある。

 そのため、塩コショウのみのシンプルな味つけにすると決めていた。


「ソテー完成しました。先にパンの方、三名様分を出します」


「はい!」


 ソテーの盛りつけを始めたところで、手が空いていたベランさんがポタージュを容器に注いでくれている。

 こうして、俺が担当したパンの方はセットが完了した。


「こっちは揃ったので、出してください」


「はい、承知しました」


 給仕係の一人は調理場から見える位置に立っており、料理の完成を伝えるとすぐに近づいてきた。


「ポタージュが熱いので、出す時に一言添えてもらえますか」


「お任せください」


 運びやすいように一名分ずつトレー乗せてある。

 給仕係は慎重な動作で、それを手にしてホールに歩いていった。


「よしっ、こっちは完了だな」


 料理の提供はこちらの領分ではなく、係の人に任せるしかない。

 パメラが調理の途中のはずなので、彼女のフォローに入ることにした。


「パンの方は終わりましたけど、何か残ってますか?」


「パスタがもう少しで完成するので、トリュフの盛りつけをお願いします」


 作業が立てこんでおり、パメラはいつもより早口だった。

 それでも、感情の乱れは感じさせず、平常心で取り組んでいるようだ。

 調理台に用意された白トリュフと、試作の時にはなかった専用のカッターを手にしてパスタの完成を待つ。


 少しの時間が経過して、作りたてのパスタが次々と用意された。

 俺はそこにトリュフを削って盛りつけていく。

 

「――うん、いい香りだ」


 パスタからはバターのまろやかで濃厚な匂いが漂い、トリュフからは上品な香りが広がっている。

 俺がトリュフを削っていると、パメラがポタージュをよそって運んできた。

 同時にクレマンさんがソテーの皿をセットしてくれている。


「パスタ、完成しました。提供をお願いします」


 トレーに人数分の用意ができたところで、パメラがよく通る声で言った。

 すぐに給仕係がやってきて、トレーを一つずつ運んでいった。

 全てのトレーがホールに出て行くのを見送ると、言葉では言い表せないような達成感がこみ上げた。


「ふぅ、連携が上手くいって一安心です」


 最初に声を上げたのはパメラだった。

 助手の二人は彼女の言葉に頷いている。


「最大で三テーブル、各四人だとして、十二人までは連続で入る――今の倍ってことですね。さっきみたいに動ければ、何とかなりそうじゃないですか」


「クレマンさんとベランさんの動きもよかったですが、マルクさんが率先して動いてくれたおかげで順調でした。本番の営業でもお願いしますね」


「はい、もちろんです。あと俺も助手のお二人に助けてもらいました。ありがとうございます」


 二人とも助手という立場を考慮しているのか、あまり自己主張はせず、謙虚な姿勢で微笑みを浮かべている。

 俺はともかく、パメラは今やバラム屈指の名店のオーナーだ。

 一歩引いた接し方になったとしても、自然な反応だと思った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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