表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

251/465

積極的なアデル

 パメラと試作をしてから数日が経過した。

 町長のためにも何とかしなければと思う日々だった。

 そんな中でも自分の店はおろそかにできない。

 

 設備の改装や定休日の設定に関して、頭を悩ませる時期があったものの、今では落ちついて店を回すことができている。

 それに加えて補助的な役割だったシリルが腕を上げており、彼の活躍で楽ができるようになっていた。 


 というわけで、今日も仕事終わりの休憩を満喫している。

 この時間に冷えたアイスティーは欠かせない。


 お客はもちろんのこと、フレヤを含めた従業員が帰ったので、店の敷地は静かなものだった。

 俺はテーブル席の椅子に腰かけて、アデルを待っているところだ。


「あら、待たせてしまったかしら」


 そろそろ来る頃かと思ったところで、彼女が現れた。

 路地の方から敷地へと鷹揚に歩いてくる。


「休憩してたところなので、問題ありません」


「あなたが呼び出しなんて珍しいわね。もしかして、この前の続き?」


「はい、そうです。トリュフを使った料理は決まりつつあるんですけど、それ以外にスープや小皿料理についての助言をもらえないかと思って」


 アデルは少し考えるような間があった後、こちらに目を合わせて頷いた。


「ええ、手伝ってもいいわ。ただ、私にもトリュフを食べられるようにしてほしいところね」


「それはもちろんです。善処します」


「そう、それならいいわ」


 みんな大好きトリュフといったところか。

 彼女を納得させる手札としての役割がある。


「うちの調理場は焼肉以外の料理を作るのに向いてないので、今からパメラさんの店に行って、場所を貸してもらいます」


「パメラ……紅茶を出す店の店主ね」


 俺はエスカとフレヤの三人で、パメラの店を訪れたことがある。

 その時、アデルは一緒ではなかった。 


「今回、彼女の協力を得ていて、パスタとパンの試作は上手くいってます」


「とにかく、手伝えばいいのね」


 アデルは自信を感じさせる態度だった。

 

「じゃあ、早速行きましょうか」


 俺とアデルは店の敷地を出て、パメラの店へと移動した。


「こんにちは、今回もすいません」


 店内の調理場に入ると、パメラと従業員が洗い場で片づけをしているところだった。


「マルクさん、ようこそ。後片づけでバタバタしてますが、調理場は使って頂いて構いません」


「ちょうどこの時間が動きやすかったんですけど、忙しいところに申し訳ないです」


「いえいえ、お気になさらず」


 俺とパメラは互いに頭を下げ合い、ペコペコ合戦になっていた。

 

「こんにちは、ちゃんと話すのは今日が初めてね」

 

 その膠着状態を解いたのはアデルだった。

 彼女を目にしたパメラが驚くように固まってしまった。

 

「……パメラさん、どうかしました?」


「マルクさんのお知り合いとは、アデル様でしたのね」


「ええまあ、そうですね」


「王都でも食通として名高い方なのです。先日、お店にお越しくださったそうなのですが、ちょうど休日で」


 とりあえず、パメラにとって、アデルは尊敬に値する人物のようだ。

 俺は慣れもあってか、以前ほどは構えることはなくなっている。


「パメラ、堅苦しいのはなしにして。私はマルクにアドバイスをするために来ただけだから。調理場は料理人にとって聖域。他人が入ってくると緊張するわよね」


「なんて素敵なお人柄なの。美しいだけでなく、私のような一介の店主を気遣ってくださるなんて」


「パメラさん、少し大げさじゃないですか……」


 この状況だとパメラの手を止めてしまい、こちらの作業も始められないので、自己紹介的な流れは切り上げることにした。


「では、調理場を借りますね」


「はい、どうぞ。食材で使いたいものがあれば、仰ってください」


「ありがとうございます。タダで使わせてもらうのは悪いので、パメラさんも完成した料理を食べてみてください」


 話が済んだところで、俺は調理場に移動した。

 追加する種類は決めているものの、アイデアは固まりきっていない。


「この前のガストロノミーでしたっけ? ああいう感じでトリュフだけでなく、バラムの食材を使えたらと思うんですけど」


「それを言い出したのは私だものね。あれから、この辺りで採れる食材を調べてみたのよ」


「へえ、ありがとうございます」


 初対面の頃を思えば、ずいぶん協力的なことだと思った。


「ついでにレシピも大まかに考えたわ」


「おっ、それは聞きたいです」


「まずはスープだけど、ジャガイモのポタージュはどうかしら」 


 アデルは生き生きした声で言った。

 彼女の提案を耳にしてから、先日の試作品のことを思い返した。

 

「すでに決まっている料理はそれぞれバターとチーズを使うものなので、少し偏りはあっても、バラム産の生乳を使っていると見ることもできますね」


「その組み合わせだと味つけが濃くなりがちだから、小皿料理はあっさりした青菜のソテーにすれば問題ないわよ」


 アデルと話しながら提供する際の状況を想定する。

 パスタとパンはどちらかを選んでもらって、それにスープとソテーを出す。

 その組み合わせなら、重すぎることはないような気がした。


「そうですね。バランスは何とかなりそうなので、まずはポタージュを作ってみますか」


 アデルに調理法を聞きながら自分が主導となるつもりだったが、彼女は周りにある調理器具と材料を確かめ始めた。


「……あれ、どうしたんですか?」


「えっ、そっちこそどうしたの。準備するわよ」


 アデルの積極さに驚きつつ、俺もポタージュを作る準備を始めた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ