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トリュフの使い道を話し合う

 後日。俺とハンクはサミュエルの家に呼び出された。

 二人で彼の家に向かうとサミュエルが待っていた。

 

「この前は悪かったね。あれから頭を冷やして、どうするのが最善なのか考えた」


「まあ、気にするな」


 サミュエルは前に会った時よりもかしこまった服装だった。

 俺たちに会うのにそこまで用意する必要はあるのか不思議に思った。


 そんなことを考えつつ、ウッドデッキにいる人物を目にして理由が分かった。


 白いシャツに上等な布を使っていそうなベスト。

 足元には艶のある革靴。

 身なりの整ったその人はバラムの町長だった。


「やあ皆さん、こんにちは」


「レイモンド町長がどうしてここに?」


「んっ? このおっさんは偉い人なのか?」


「いやはや、Sランク冒険者ともなると風格が違いますな」


 町長は笑っているので大丈夫そうだが、少しひやひやするような展開だった。

 辺境の町とはいえ、彼はバラムを代表する立場にある。


「よかったら、二人も向こうの椅子に座って」


 サミュエルに勧められて、町長と横並びになるかたちで腰を下ろした。


「今回はどうしたんですか?」


「君がマルクくんだね。焼肉屋のことは聞いているよ」


 町長は好意的な態度で声をかけてきた。


「ありがとうございます。光栄です」


「実はセレーヌ川にかかる橋の老朽化が進んでいて、今後の改修に予算が必要なんだよ。それで知己のサミュエルからアスタール山でたくさんトリュフがあるらしいって聞いてね」


 俺とハンクはサミュエルの方に視線を向けた。

 彼は気まずそうに頭をかいた。


「ああっ、ちょっと待ってもらえるかい。サミュエルは悪くない。私はトリュフを独占するつもりはないんだ。サミュエルと話して、それなりの考えがある」


 トリュフを大量に市場に出せば産地を探られるだけでなく、市場価値の下落を招きかねない。

 そのため、少しずつ消費するためにトリュフを調理して出す案が出た。


 もちろん、料理店でたくさん使用すれば流通経路を探られるリスクはある。

 それでも、トリュフそのものを流通させるよりも安全である。 


 ――町長が話したのはこういった計画だった。

 

「なんだか、夢のある話じゃねえか」


「色んな工程が必要だと思いますけど、実現可能だと思います」


「そうかそうか、二人がそう言ってくれるなら安心だ」


 町長は表情を緩めて喜んでいる。


「ちなみに具体的なところまで計画は進んでますか?」


「これで予算を集められると踏んでるんだが、料理は専門外なのでね。マルクくんならいい案が浮かばないだろうか」


「俺もできなくはないですけど、顔見知りで適任の人がいます」


「ほう、それはどなたかね」


「エルフのアデルです」


 そう口にするとハンクは納得したように頷き、サミュエルと町長は驚くような表情になった後、互いに顔を見合わせていた。


「美食家と名高い方だけれども、彼女と知り合いということかね」


「はい、うちに通ってくれますし、気軽に話せる間柄です」


「ほほう、それは素晴らしい。彼女の協力が得られるなら、前向きな結果につながりそうだ」


 町長は満足げに笑顔を浮かべた。

 ここで成り行きを見守っていたサミュエルが口を開いた。


「僕は専門外だから、この先はマルクくんに任せるよ。町長、それで構いませんか?」


「そうだね、私としてもそれが最善だと思う。マルクくん、話がまとまったところで、進捗を教えてもらえるだろうか」


「はい、もちろんです」


「本業が忙しいと思うが、バラムの町のためにもよろしく頼むね」


 町長は椅子から立ち上がって、こちらに手を差し出した。

 俺も同じように立ち上がり、その手をしっかりと握った。




 それから数日が経過した。

 店が営業している日にアデルがふらりとやってきた。

 慣れ親しんだ仲とはいえ、焼肉を食べる時はお客である。


 彼女の食事が落ちついたところで、閉店後に話を聞いてもらう約束をした。


 この日もフレヤが店を手伝ってくれていたが、トリュフの件とは関連がないのと、町に来て日が浅いこともあり、席を外してもらった。


「それで、改まってどんな用件かしら」


「実はアスタール山でトリュフが大量に見つかり、それを料理して橋の修繕費を捻出しようという話が出ています。よかったら、知恵を貸してもらえないかと思って」


 敷地内のテーブル席で、俺とアデルは向かい合って座っている。

 彼女はトリュフという単語が出ても、落ちついた様子だった。


「バラムは辺境の町だから、お金稼ぎに重点を置くのは反感を持たれるかもしれないけれど、今回は修繕という目的があるのよね……」


 アデルは小さく呟きながら、考えをまとめているように見えた。


「何かいい案はありますか?」


「トリュフを扱うつもりなら、単価は下げすぎない方がいいと思うわ。あとは地元の人よりもよそから足を運んでもらうように工夫したらどうかしら? その方が利益は出るはずよ」


「なるほど、その方がいいですね。結果的に地元の人からお金を集めることになるなら、寄付を募ればいいってことになりそうですし」


「それで、ガストロノミー的なアプローチはどうかしら?」


 彼女の口から聞いたことがない単語が出てきた。

 

「……ガストロノミーですか?」


「美食文化だったり、その土地で採れる食材を楽しむことをまとめた言葉ね。今回なら、アスタール山で採れるトリュフと地元の食材を組み合わせた料理を出すといいと思うわ」


「知らない言葉だったので、勉強になります」


「ただ、私ができるのは計画のところまでね。実際にメニューを決めるなら、パメラに協力してもらうといいわ」


 パメラはバラムの町にある人気店のオーナーだ。

 彼女自身が店を切り盛りしているので、料理の知識は豊富そうだ。


「ありがとうございます。料理についてはパメラに聞いてみます」


「それにしても、あの山でトリュフが採れるのね。私も食べてみたいわ」


「提供できるようになったら、食べに来てください」


「ふふっ、そうするわ」

  

 計画が次の段階に進んだので、今度はパメラに相談してみるとしよう。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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