待望のトリュフ発見
ハンクが掘った穴がある程度の深さになったところで、再びエディが鼻を突っこんで何かを始めた。
「おっ、なんだ」
「トリュフが近いかもですね」
エディは首から先を入れた状態で、こちらからは匂いを嗅いでいるように見える。
それから、ハンクに対してこっちを掘れと言わんばかりに鼻先で示した。
まるで、助手というよりもトリュフ探しのリーダーのような態度だった。
「エディの中ではおれたちは子分みたいなものかもな」
「飼い主不在で、リーダーシップを発揮しようとしている気もします」
エディの指示が出た後、ハンクが掘る作業を再開した。
そして、すぐに彼の驚くような声が聞こえた。
「見つけた、これはトリュフじゃねえか」
「すごい!」
ハンクは上半身を起こすと、エディの鼻先に近づけた。
すると、尻尾を上下左右に振って、これがトリュフだと全身で示した。
目を見開いて、じっと見つめている。
「どうやら、これみたいだな」
「トリュフって、白いんですね」
転生前にテレビで見たことがある程度で、トリュフに関して詳しいわけではない。
知識が不足しているため、黒トリュフのイメージしかなかった。
「見た目はだいたいこんな感じだったぜ。エディの飼い主に見せてもらったからな」
ハンクにしては皮肉めいた言い方で、珍しいこともあるもんだと思った。
おそらく見せただけで、食べさせてはくれなかったのだろう。
「――ワンワン!」
「一つ目は掘れましたけど、どうかしたんですかね」
エディが何かを見つけたように吠えた。
先ほどに続いて、ここ掘れワンワンの気配がしている。
「次は掘ってみるか?」
「はい、やらせてください」
ハンクから道具を受け取り、エディが前足で掘り始めた地点に近づいた。
周りを落ち葉で覆われた木の根元――その下にトリュフがあるようだ。
エディは聡明な犬とはいえ、邪魔したら噛みつかれそうなので、気の済むまで掘らせることにした。
やがて一定の深さになったところで、「新入り、さっさと続きを掘りな」と言わんばかりに文字通り顎で使われた。
「完全に分業制ですね」
「犬とは思えない賢さだな」
俺とハンクは改めてエディの振る舞いに感心した。
地面に膝をついて掘り始めると、土が粘土質で思ったよりも手間がかかる。
ハンクはこれを手際よく行っていたので、手先が器用なのだと再認識した。
「ハンクが持ってきたのが小ぶりのスコップでよかったです。大きなシャベルだとトリュフごと削るところでした」
「それはエディの飼い主のアドバイスだ。最初はよく分からなくて、つるはしを持ってくるつもりだったんだ」
「それはそれでトリュフに刺さりそうですね」
俺自身、ハンクのことを笑えるわけではない。
トリュフを掘ることについて初めてで、右も左も分からないのだから。
粘っこい土に苦戦しながら掘り進めていると、途中からハンクが手伝ってくれた。
コツを教わりながら穴が深くなったところで、エディが突入してきた。
俺とハンクでは漠然と穴があるようにしか見えないが、エディはトリュフの位置を探り当てることができるようだ。
「そろそろ、トリュフが近そうなので慎重にいきます」
「ああっ、頼んだ」
スコップを持つ手に汗がにじむ。
転生前に山芋掘りをした時もこんな感じだったかもしれない。
時間をかけて土をどけていくと、うっすらと白いシルエットが見えてきた。
ハンクからナイフを受け取って、木の根との接続部を切断する。
「やった、トリュフが採れた!」
「おっ、さっきよりも少し大きいな」
きれいな球体というわけではないが、その形状から間違いないと思った。
エディに確認させるまでもなく、自分の鼻で匂いを確かめてみる。
「……スライスしないとそこまで匂いはしないんですね」
記憶にあるマツタケの香りとも違うが、上品な香りがすることだけは分かる。
転生する前も後も庶民なのだから、そこまでの判別はできかねることだった。
「マルク、穴が二つもできちまったから、まずは埋め直すか」
「そうですね。それがいいと思います」
俺とハンクはそれぞれが掘った穴を埋めることにした。
左右に盛られた土を両手で戻していく。
「こっちは終わったぜ」
「俺の方はあと少しです」
作業を進めていると、ハンクが声をかけてきた。
「なあ、エディは意味のない動きをするように思えないんだが」
彼の言葉を聞き流しつつ、手を動かし続けた。
エディの様子は気になるところだが、まずは埋め直すことを優先した。
「――お待たせしました。エディがどうかしましたか?」
「さっきからぐるぐる回ってる」
ハンクのバックパックを地面に下ろして、そこにリードを固定しているのだが、そこを中心として周りの木々の匂いを嗅いでいる。
「トリュフがありそうな雰囲気だから、少し様子を見るとするか」
「分かりました。気になる動きですね」
俺は近くの木に背中を預けて、立ったままエディの観察を続けた。
エディを見ていると匂いを嗅いでから、少しだけ地面を掘る場合と通過する場合の二択であることに気づいた。
今回がトリュフ掘り初挑戦のため、その動きが何を意味するか分からなかった。
――いや、正確には予想できたものの、想像したことがそうであると認めがたいため、意識から除外していた。
「……なあ、マルク」
「はい、何でしょう」
「エディが掘ってるところ、全部からトリュフが採れるなんてことはないよな」
「ははっ、そんなまさか……」
俺たちが話していると、もう何ヶ所目か分からないような穴を掘ったエディがこちらに歩いてきた。
どこか満足げに尻尾を大きく振っている。
「ワンッ!」
「……エディはおれの考えが分かるのか」
「……たぶん、俺も同じことを考えてます」
エディはトリュフの目印として、たくさんの穴を掘っていたのだと理解した。
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