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川辺のカフェとふわとろ卵のサンドイッチ

 フレヤとシェルトンの町を散策した後、一軒のカフェで休憩していた。

 彼女は雑貨店以降も色んな店に興味を示し、年頃の女子ならそうなるのも自然なことだと思った。


 露店の店主が言っていた通り、シェルトンは落ちついた町で人通りがそこまで多くない。

 このカフェも適度な客足で、静かにまったりとすごせている。


「フレヤは甘党なんだな。ミルクティーにシロップをたくさん入れて」


「そのままでも美味しいけど、これはこれで美味しいんだよ」


「入れすぎると茶葉の風味が台無しになるので、俺は甘さ控えめの方が好みだね」


 他愛もない会話を続けつつ、アイスティーを口に含む。

 バラムから少し離れた土地ということもあり、普段飲むものと風味が異なる。


「骨付き肉は美味しかったけど、小腹が空いてきたな。フレヤはどう?」


「私も満腹ではないかな。何か食べてもいいよ」


「ちょっと店の人に頼んでくる」


「うん、よろしく」


 俺は席を立って、テラス席から店内に足を運んだ。

 カウンターの中でダンディなマスターがグラスを拭いているところだった。


「すいません、注文を」


「かしこまりました。何にしましょう?」


「何か軽食がいいんですけど、おすすめはありますか?」


 こちらがたずねると、少しの間を置いて店主が口を開いた。


「でしたら、卵サンドがおすすめです」


「いいですね。それを二皿お願いします」


「はい、少々お待ちください」

   

 店主は手にしたグラスを置いて、調理を開始した。


 俺はカウンターの前を離れて、フレヤの座る席へと戻った。


「お待たせ。卵のサンドイッチを頼んできた」


「そんなものがあるんだ。楽しみ」


「サンドイッチだから、そんなに時間はかからないと思う」


 フレヤは言葉通り、食事を期待するような表情を見せていた。

 そんな彼女の横顔を眺めつつ、自分の席へと腰を下ろした。


 焼肉屋を手伝おうとしただけあって、食へのこだわりがあるような気がする。

 彼女の故郷がそこまで食糧事情に恵まれているわけではないことも、もしかしたら関係があるのかもしれない。

 

 二人で世間話をしていると、先ほどのマスターがやってきた。


「お待ちどおさまです。卵のサンドイッチをお持ちしました」


 サンドイッチの乗った皿がテーブルに一つずつ置かれた。


「ありがとうございます」


「ごゆっくりどうぞ」


 マスターは流れるような動作で店内へと戻っていった。


 手前に視線を戻すと皿を前にして、目を輝かせているフレヤの姿。

 食べたそうにしているので、彼女を待たせない方がいいだろう。


「じゃあ、食べようか」


「うん」


 皿の上に乗ったサンドイッチは四角いパンの間に具が挟まっている。

 フレヤが手を伸ばしたのを見て、こちらも食べ始めることにした。


「マルク、美味しいよ」


 早速、彼女の感想が耳に届いた。

 それに続いて、こちらも手にしたものを口の中へと運ぶ。


 卵サラダが大粒で豊かな食感がある。

 マヨネーズの風味がまろやかでパンに塗られたバターとの相性は抜群だった。

 とても食べやすい味で、気づけば二切れ目を手にしていた。


「これは半熟でふわふわした食感だけど、あんまり食べたことがないな」


「ゆで卵はよく見かけるけど、こんなふうになってるのは珍しいかも」


「火加減が難しそうだから、なかなか真似できないと思うな」


 俺たちはそんなことを話しつつ、サンドイッチへと手を伸ばした。

 瞬く間に皿の上は空になり、満足する俺とフレヤの姿があった。


「ちょうどいい感じに腹が膨れた」


「おやつ感覚で食べられていいよね」


 アイスティーの入ったグラスを手に取り、いくらか口に含んだ。


 ここからはシェルトンを流れる川が見渡すことができ、リバーサイドカフェと呼べるような趣きがある。

 豊かな流れと川岸の自然を見ていると、さわやかな気分になる。


「今日は泊まりになるかと思ったけど、この調子なら日帰りでよさそうだね」


「休みは明日までだし、身体を休めるにはそれでいいと思う」


 俺もフレヤも二十歳前後なので、まだまだ若い。

 しかし、昨日までの連勤の疲れは残っているはずだ。

 休み明けもそれなりに忙しそうなので、十分に休んでおいた方がいい。


「そろそろ、ここを出ようか?」


「ああっ、そうしよう」  


 俺たちは会計を済ませて、カフェを後にした。


 それから、カフェの前の道を歩いていると、川岸が遊歩道のように道が整えられているのに気がついた。

 

「ちょっと歩いてみる?」


「いいんじゃないかな」


 フレヤと話して、川沿いの道を歩くことにした。


 路地を移動していくと、周りの人工物が少なくなっていく。

 川の近くまで来ると人通りもまばらになっていた。


「こっちみたいだね」


「ああっ、ありがとう」


 どこから川沿いの道に入るか迷っていると、フレヤがつながる道を見つけてくれた。 

 

 川が近くになると心地よい風が吹き、煌めくような太陽の光が差しこんできた。

 水辺には水鳥が飛んでいるのが見えて、周りの木々からは小鳥の鳴き声が聞こえる。

 

 転生前にすごした街で川沿いの道はあったが、ここまで自然が豊かではなかった。

 しかし、そう思いかけたところで、日本――あるいは地球――とは全く異なる環境であり、比べようのない特別なものだと思い直した。


「マルク、あそこの人たちは何してるのかな」


「……ええと、どれだろう」


 知らず知らずのうちに物思い耽っていたようで、フレヤの声で現実に引き戻されるような感覚になった。

 彼女の視線の先を見てみると、数人の人たちが川辺で何かをしているようだった。


「ああっ、あれは釣りだね」


 彼らの手には釣り竿が握られていた。

 おそらく、この川で何か釣れるのだろう。


「へえ、ちょっと面白そう。近くに行ってみない?」


「そうだね、邪魔にならないように覗いてみようか」


 俺たちは川沿いの道から、川岸へと歩いていった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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