パメラの助言と今後についての話し合い
「私はその話に賛成。ここまで手伝った感じだとテーブルや鉄板の整備は必要だし、私とマルクが十分に休もうとしたら、それぐらいは妥当なところかな」
「なるほど、そうか」
「客足への影響がご心配でしたら、曜日を固定すれば安定させやすいと思います」
パメラは付け加えるように言った。
「だいぶ忙しくて設備のことまで意識が向いてなかったな。パメラさん、参考になりました」
「とんでもありません、お役に立てたのなら光栄です」
パメラは温かさを感じるような微笑みを浮かべていた。
この店を始めるまでのプロセスは楽ではなかったと思うが、そういった苦労を感じさせない大らかさなところは見習いたいと思った。
俺たちは上品なお茶を堪能した後、パメラの店を後にした。
ゆったりと優雅な時間をすごせたおかげで、最高の気分転換になった。
まるで夢のような時間だったせいか、店を離れて歩き出しても余韻が残っているような感じがした。
エスカとフレヤもどこかぼんやりしたように見える。
パメラのこだわりが生んだあの店は格別ということなのだ。
「少しお高めでしたけど、行く価値はありましたね」
俺が声をかけると、二人は我に返ったような表情でこちらを向いた。
「たまにはああいう贅沢もいいもんだね」
「すみません、今日もご馳走になってしまって」
「まあ、二人にはかなり助けられてるから」
一人当たり銀貨二枚なので、焼肉を食べるよりも高級なのだ。
それで繁盛するということはバラムの住民たちよ、意外にお金を持ってるんだな。
「ねえ、休日の件についてもう少し話したいから、どこかいい場所はないかな」
「うちの店に戻ってもいいですし、近くのカフェに寄ってもいいですけど、どうします?」
「あのー、わたしもついていってもいいですか? 一応、お店の一員……ですから」
エスカが遠慮がちに言った。
「いいんじゃないか。けっこう手伝ってくれてるから」
「私も気にしないかな。それにエスカの意見があった方が参考になるかも」
「よかった、ありがとうございます」
俺とフレヤが答えを返すと、エスカはうれしそうな表情を見せた。
「マーガレット通りの方に歩いていけば、どこかしら適当な店があると思うので、とりあえず歩くとしましょうか」
「はい」
「うん、それでいいよ」
三人で石畳の路地を歩く。道沿いには雑感店や食堂、民家などが建っていた。
バラムの町の中心部に近づくにつれて、辺りに賑やかさが増している。
さわやかな日差しの下、行き交う人々――見慣れた日常がそこにはあった。
パメラと話したことで王都にいた時のことを思い出したが、やはり地元の方が落ちつく気がする。
ただ、色んな店が多いのは王都の方なので、市場以外にも色んなところを見ておきたかったと思った。
「マルクさん、あそこに露店が出ています」
「公園の前に出てる店だな。あれはアイスティーを売ってるんだったか」
日本の夏ほどではないが、バラムも多少は汗ばむような天気の日がある。
そんな時は露店で冷たい飲みものを買って、涼を得たりするのだ。
一時期、アイスクリームみたいなものを売っていたこともあるが、今では見かけなくなった。
製氷技術はあるにしても、品質管理が難しそうなイメージだ。
「公園のベンチで話すのはどうかな? 特に人に聞かれて困るような話でもないし」
露店に目を向けているとフレヤが提案した。
先ほどのテラスもそうだが、開放感のある場所の方が気楽にすごせる気がする。
「そうですね、そうしましょうか」
「わたしも賛成です」
考えが一致して三人で露店に近づいた。
「はい、いらっしゃい」
店主はバラムのどこにもでいそうな普通のおじさんといった風貌だった。
小さな屋台には手書きの看板がぶら下がっており、ミルクティー、レモンティーなどが選べるようだ。
「ええと、それじゃあレモンティーを一つ」
「はいよ」
店主は重ねられたグラスを一つ手に取り、氷水に浸かったティーサーバーからアイスティーを注いだ。
そこに色鮮やかな輪切りのレモンが乗せられて完成した。
「お待たせね」
「どうも」
俺はグラスを手に取り、代金を支払った。
一杯当たり銅貨二枚なので、パメラの店とのギャップが大きかった。
標準的な相場なのに、なぜだか安く感じてしまう。
「向こうのベンチに座ってるので」
「うん」
「はい」
エスカたちに一声かけてから、ベンチの方へと移動する。
空いているところが多いので、探す手間もなく座ることができた。
俺は腰を下ろしてから、冷えたグラスの中身を口につけた。
キンキンに冷えているわけではないが、レモンの酸味と茶葉の香りが重なって、さわやかな風味を感じた。
ベンチの周りは木々の緑が豊かで心安らぐような場所だった。
そのままのんびり座っていると、エスカとフレヤがやってきた。
二人は好みが合うのか知らないが、どちらもミルクティーを持っている。
「あんまり来ることがないけど、ここは穴場だな」
「はい、気持ちのいい場所ですね」
エスカと話していると、フレヤがグラスを口につけていた。
「このミルクティー美味しい」
「そんなに?」
「頼むとシロップを足してくれて、甘さがたまらないんだ」
俺は甘くしなくてよかったのだが、そんなサービスがあるとは気づかなかった。
地元の人間に見えるはずなので、あえて聞かれなかったのかもしれない。
「飲んでみる?」
「いや、大丈夫です」
「フフ、フレヤさん、それだと間接キスになっちゃいます」
横で見ていたエスカが頬を赤らめて言った。
「もう、エスカは初心なんだから」
「う、初心って……私とフレヤさんは年齢が近いですよね」
「そういうことに年齢は関係ないかな」
フレヤの故郷はバラムよりもシビアに感じられる節があるので、人生経験がエスカよりも豊富であってもおかしくはない。
とりあえず、エスカがヒートアップする前に止めておこう。
「フレヤはエスカをからかわないように頼みますね」
「ええ、だって彼女の反応が面白いのに」
「ひ、ひどい」
エスカは少しだけショックを受けたような表情になった。
優しさ故に繊細なところがあるので、フォローした方がいいだろう。
「あんまり真に受けない方がいいよ。俺にもこんな感じの態度だから」
「えっ、そうなんですか」
「そういうことだから、傷つかなくてもいいと思う」
「マルクさん、ありがとうございます」
エスカの表情が明るくなったところで、休日をどうするかについての話を始めようと思った。
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