アデルと二人で探索
一通り準備を終えたところで、少し前にアデルと行った時のことを思い出した。
日帰りで行ける場所であるため、今回も少ない荷物で問題ないだろう。
「話を通すのに酒を渡すとして、それと何か……あっ、あれだ!」
俺は遠征用の荷物に入れたままだった魔石を取り出した。
ベヒーモスのものはアデルがハンクの応急処置をした時に使用済みであり、その子分であったような黒い犬のものが少しだけ残っている。
これを老人に渡してしまえば、残数はゼロになってしまう。
「そんなに使い道はないし、また探せばいいか」
実際のところ、自分はいまいち使いこなせていなかった。
上手に活用できなければ、神秘的な輝きのきれいな石ころでしかない。
遠征用のものよりも小ぶりなカバンを背負い、魔石はポケットにしまった。
先にアデルが待っていることもありえるので、そろそろ出発しよう。
最後に装備を確認してから、足早に自宅を出た。
リムザンやエルフの村ほど田舎ではないので、通りには一定の人通りがある。
ふと、人の気配が少なすぎても落ちつかないような気がした。
人間というものは、慣れ親しんだ環境の方がすごしやすいのだろうか。
そんなことを思いつつ、目的地へと足を伸ばした。
集合場所は町外れにあるので、自宅の近くから少し歩かなければならない。
町の中を移動してアスタール山方面の入口付近に着くと、ちょうどアデルがこちらにやってくるのが目に入った。
俺と同じように長旅に用いるような荷物ではなく、日帰り仕様の装いだった。
「同じ時間に着いたわね」
アデルはこちらを向いて微笑んでいる。
長旅の疲れを感じさせないような、明るい表情が印象に残った。
周りに細やかな気配りをするタイプには見えないものの、一緒に旅をしていて不満を見せることは多くない。その点は彼女の美点の一つだと思った。
「では早速、アスタール山に向かいますか」
「ええ、行きましょう」
二人で町の入口から移動して街道につながる道を進んだ。
街道に入ってしばらく歩いた先に、アスタール山に続く道が脇に伸びていた。
俺たちは迷いのない足取りで、街道からそちらの道へと進入した。
山の入り口に差しかかったところで、見覚えのある看板が立っていた。
そこには、「入山には許可が必要です。詳しくはギルドまで」と書かれている。
以前、ギルド長に報告したことで冒険者がやってきたようで、内容は同じであっても看板そのものが新調された形跡があった。
「この看板、わりと古かったんですよ。アスタール山は地元民のハイキングコース程度にしか認識されてなくて。あんまり人が来ないことも、あの老人が居心地よくなった理由の一つかもしれませんね。最終的には立ち退き手前までいきましたけど」
俺は表情をしかめながら言った。
隣を歩くアデルはそれを聞いて頷いた。
「どこの町も一緒よね。やっぱり重要視されるのは価値が高いことや特別な意味があることが中心だから。エルフの村に行ったばかりだからこそ、こういう自然が大事だと考えさせられるわ」
「王都に近い方のエルフの村を出て、美食の旅を続けていたと思うんですけど、自然を大事に思ったりするんですね」
「まあ、一応はエルフだし」
アデルは少し照れたような仕草を見せた。
コレットやソラルがそうだったように、彼女も自然への意識が高い側面があるようで、それはエルフという種族に由来するものだと知った。
二人で会話をしながら、麓から山頂に続く緩やか傾斜を上がっていった。
山の中は緑が豊かで色々な種類の木々や草花が見て取れる。
バラム周辺は季節の変化が少ないものの、前に来た時とは植物の色合いや雰囲気が変化していることが感じられた。
「そういえば、前回は栗を集めるという目的も兼ねてましたけど、もう時期がすぎたと思います」
「あら、残念。すっかり忘れていたけれど、来たついでに持って帰ってもいいのに」
アデルはそう言って、辺りに茂る木々に目を向けていた。
旬になると山に入って採取する人がやってくるため、近くの足元や栗の木の根元には茶色のいがいがは落ちていないようだ。
俺たちはのんびりと話しながらも、周囲に注意を向けていた。
たしか、もう少し進んだ先に老人の工房まで抜ける獣道があったはずだ。
「どうします、今回も魔力探知やってみますか?」
「うーん、今日はやめとくわ。多少は旅の疲れもあるし、前と同じところへ出られたら、いるかどうかは肉眼で確認できるわね」
「うんまあ、それはもっともです」
遠征帰りにわざわざ付き合ってもらっているので、アデルに無理を言うつもりはなかった。
さらに進んだところで、明らかに人が出入りしているような痕跡があった。
獣道というには幅が広く、人が通る大きさに植物が払われていた。
おそらくこの辺りだった気がする上に、老人が通行を続けたことでできたものである可能性も考えられる。
「多分、ここがそうですよね」
俺はアデルにたずねた。
二人の意見が一致すれば、ほぼ間違いないと思った。
「記憶力がいいわね。かすかだけれど、この先に魔力が強まるのを感じるわ。まだいるみたいだし、方向も間違っていないみたい」
「ふぅっ、よかったです。老人がいなかったら途方に暮れるところだったので」
「ちょっと大げさよ。どうしてもとなったら、私がついていくから。まずはちょうどいい魔道具が見つかるといいわね」
アデルが同行するならば、幻覚魔法のような効果を発揮する魔道具は必要ない。
とはいえ、その効果がなければテオの存在が露見してしまう。
一般的にドラゴンを始めとする竜種は恐れられており、飛龍であったとしても、町を混乱に陥れる可能性が高い。
それを防ぐにはアデルに魔法を使ってもらうか、同じ効果の魔道具が必要なのだ。
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