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いよいよ飛竜探し

 コレットの野生の勘に驚きつつ、俺は二人に合流して村の中を歩いた。

 そこから少し移動したところで、ハンクの様子を見に行くことになった。

 アデルがさすがに寝すぎじゃないかと心配そうにしたからだ。


 宿の中に入ってハンクの様子を見に行くと、すでに起床していた。

 椅子に座って、カップで何かを飲んでいるところだった。

 いつもと変わらない様子に見えた。


「おう、おはよう」


「おはようございます。体調はどうですか?」


「アデルの兄貴のおかげで、だいぶいいぞ。多分、あんなに長く寝たのは初めてだ」


「その様子なら大丈夫みたいね」


「おかげさまでな」


 ハンクはアデルの呼びかけにも陽気に応じた。

 この様子なら一緒に飛竜探しをしても問題なさそうだ。

 ハンクは残っていた食材で食事を済ませたそうで、俺とアデルはコレットの家で朝食を食べさせてもらった。


「――というわけで、諸君。これから飛竜探しに向かうわけだが」


「コレット、本の影響かしら。どのみち、あなたは結界のことがあるから行けないのよ」


「ちょっと、ふざけただけ」


 コレットはいたずらっぽく微笑んだ。

 俺は気の毒に思っていたのだが、彼女は外に出られないことを受け入れているような様子だった。


 今は四人で宿のダイニングでテーブルを囲むかたちで話をしていた。

 同行できないとしても、一緒に話をしたいということでコレットも同席している。


「この前の感じだと、まずは飛竜の好物の草が生える場所を探しますか?」


「そうね、それが確実だと思うけれど」


「負傷から復活はしたが、おれはこの辺りの地理に詳しくないから、探す方法は二人に任せるぜ」


 ハンクの意見は納得できるものだった。

 エルフの村は結界の影響で出入りに制限がある。

 さすがの彼であっても、この奥には行ったことがないようだ。


「コレットはどう? 村で飛竜のことを聞いたことがあるかしら?」


「ううん、ない。多分、村の人は飛竜に興味がないと思う。それよりも食べられる鳥の方が興味がありそう」


「そうなのよね。私もそうだったけれど、飛竜は風景の一部になっていたから、印象に残るような記憶がないの」


 アデルは少し残念そうに言った。

 食料になるわけでもなく、何か他の役に立つわけでもない。

 かといって、目立つ害を及ぼすわけでもない。

 そうなれば、記憶に残ることは少ないだろう。


「まずは候補の場所を一つずつ調べてみましょう。そうしたら、何か手がかりが見つかるかもしれません」


「それで構わないけれど、今日はずいぶん前向きね」


 自分としては自然なつもりだったが、アデルにはそんなように見えたようだ。

 こんなところにも昨日の影響が出ているのだろうか。


「それでいいと思うぞ。出発しようぜ」


「はい、行きましょう!」


 アデルが話していたところまでは遠くないようなので、荷物の中から必要そうな物だけ取り出して三人で宿を出発した。


「じゃあね、気をつけてー」


「行ってくるわ」


 コレットは村の境界までついてきて、俺たちを見送ってくれた。

 決して暇人などと言ってはならない。

 彼女は村の結界を守る大事なお仕事があるのだ。


 村を離れて三人で歩き始めた。

 アデルが飛竜を見かけたのは入り口とは反対の方向で、村を通らなければ行くことのできない方角だった。

 基本的に村を出入りするのは大半がエルフであると考えるのなら、この先は人間が立ち入ることは滅多にない場所なのだろう。


「こう秘境っぽい感じというのはワクワクしますね」


「ああっ、おれもだ。飛竜を探すだけなのはもったいないよな」


 俺とハンクは二人で盛り上がった。

 一方のアデルは勝手知ったる場所ということもあり、いつも通りの雰囲気だ。


「外に比べて珍しいものはあると思うけれど、時間がいくらあっても足りないわよ」


「さすが、簡単に入れない場所だけあります」


「まあ、そういうことになるわね。伝え方を間違えたかしら」


 アデルは苦笑いを浮かべていた。

 俺たちの盛り上がる様に呆れている模様。


 そんな感じで会話を続けていると、徐々に周りの景色が変わっていった。

 村の近くは開拓されている影響で木々がまばらだったが、途中から森のように生い茂っている。

 さらに歩を進めたところで、木々の隙間から不思議な光が浮かんできた。


「……すごい、きれいですね」


「なんだこりゃ、初めて見た」


 ハンクは驚いているようだが、彼のそんな反応を目にした俺も驚いた。

 この不思議現象は貴重なのではないか。


「ふふん、これはエルフにしか分からないわね」


「何ですか? ぜひぜひ教えてください」

 

 この幻想的な光景が何であるのか、好奇心が刺激されていた。

 アデルは得意そうにしているので、答えを知っているのだろう。

 

「これは森の精霊と言われているわ。見た目にきれいなだけで、何か益をもたらすわけでもなく、かといって害をなすわけでもない」


「へえ、精霊ですか」


「聞いたことはあるが、見るのは初めてだ」


 俺は歩を緩めて、じっくりと見つめた。

 精霊たちはどこから発生しているのか分からないが、湧き出ては浮かび、どこかへ流れるように漂っている。


「さあ、行くわよ」


「ですね、行きましょう」


 アデルに促されて、俺とハンクは歩くペースを上げた。

 その先も精霊の浮かぶ森はしばらく続いた。

 

 やがて森の切れ目が見えてきた。

 名残惜しい気持ちで森を抜けると、その先には草原が広がっていた。

 とてつもない広さでどこまでも続いているように見えた。

 

「あっちに整備された道があるから、そこなら歩きやすいわ」


 アデルは指先で方向を示した。

 正面には人工物が一つもなかったが、その方向には道のようなものが伸びるのが目に入った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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