終結
《ネームドモンスター、アオイの固有スキル【合体】が発動しました》
《水川百合とアオイが合体します》
その世界の声が百合の頭の中に響く。
今の百合にはそれを気にする余裕なんてない。正確には聞こえない。
ゆっくりと近づいてくるヴィペール。
そして口を開いて百合を飲み込んだ。
だが、口の中には百合が入っていなかった。
「なんじゃこりゃ。咄嗟に跳び退いたけど。まさか動くとは」
『ジャ?』
ヴィペールの正面にある大きな建物のてっぺんに蛇を人型にしたような存在が立っていた。
髪はメデューサ用に蛇の集団、顔は蛇そのモノ。
体は鱗で出来ており、尻尾にも蛇が生えている。
「力が溢れるようだ」
太陽を見ながらそんな事を呟くのは百合である。
「死なない、うん。覚悟決めたぞ。生きるため、お前を殺すためなら、理性とか知性とか要らね! 【バーンアップ】【怒り】!」
全力を出して敵を潰す、そのような覚悟を込めて知性をぶっ飛ばして強化する。
鱗の色が紫色に変わる。
そして、建物を破壊する程の威力を持つ脚力でヴィペールに接近する。
「ジアアアア!」
『ジャーー!』
口を開いて毒を放つが百合には当たらない。
固めた拳がヴィペールの頭に落とされ空気が振動して地面に頭を叩きつける。
流れるようにアイテムボックスから双月刀を取り出して連撃を放つ。
カンカン、最初は弾かれるような音が響いたが徐々に鱗にヒビが入る。
突然それが許される筈もなく、毒の斬撃が飛来する。
「ジアアアア!」
後ろに跳び退いて避けながら蛇の尻尾や髪の毛、腕から伸びる蛇を使って器用に避ける。
無色の斬撃は双月刀で弾き消す。
ヴィペールの尻尾の薙ぎ払いが百合を襲う。
痛みも衝撃も感じないが吹き飛んだ。
建物が煙を出しながら崩れて、ヴィペールを潰す。
しかしそんな物量だけでは意味がなく、ヴィペールは中から這い出て来る。
地面を砕きながら走り接近する百合はアイテムボックスで瓦礫を回収して行く。
「ジアアアア!」
『ジャアアア!』
互いに魂の咆哮をあげて肉薄する。
百合は黒蛇を、ヴィペールは頭突きを使い火花を散らす。
弾き飛ばされる事はなく後ろに跳んだ百合。
黒蛇を掲げて白蛇に叩きつける。
カキンと金属が響いて黒蛇と白蛇が混ざり合う。
【フュージョンニズム】と言うスキルを発動させたのだ。
黒と白の刀が混ざり合って一つの灰色の刀へと姿を変える。
他にも形は存在するが、今回は一振の刀にしたようである。
「ジアアアア!」
直線的に空気を置き去りにするスピードで接近する。
それは優に新幹線を超え、刀を逆手持ちに気借り換える。
ヴィペールの正面で地面を破壊しながら高く跳躍する。
跳躍には筋力と敏捷のパラメータが補正に入る。
どちらとも二千を超える今の百合。その高さは正に人外。
「ジアアアアアアア!」
全身全霊を込めた遠心力と落下の勢いを乗せた突き刺し。
狙うは最初に電柱杭で攻撃し、連続攻撃でさらに集中的に攻撃を与えた場所だった。
灰色の閃光がその弱った鱗の場所に衝突して、破壊した。
そのまま肉も突き刺す。
『ジャアアアア!』
肉を抉られる苦痛は目を潰されたと同じ痛み。
ヴィペールは体を強ばらせ、強く体を振るう。
それによって乗ってた百合は落ちそうになるが、髪の蛇を使ってギリギリまで固定する。
ヴィペールの体が変色して紫色になり、足元が毒に犯される。
だが、合体した百合の【毒耐性】ならこのくらいの毒は問題ない。
「ジアアアア!」
融合しても尚刀はスキルを失わない。
【幻影刃】【幻影刀】を駆使してとにかく深く突き刺す。
ヴィペールが身を削るように色々な場所に衝突して百合を落とそうとしても、決して怯まない。
ビルのような大きな建物に押しつぶされても尚、突き刺すのを辞めない。
限界まで、鞘が埋まるその限界まで全力で突き刺す。
『ジャアアアア!』
飛来する毒の斬撃。
それは空中に飛来する【幻影刀】が全てを切り裂く。
【幻影刀】を操るにはそれなりに知性を必要とする。
しかし、【バーンアップ】や【怒り】をフル活用して知性をぶっ飛ばした百合にはそれが不可能。
今【幻影刀】及びスキルを操っているのは髪や尻尾の蛇、その全ては一匹の蛇に繋がる。
そう、アオイ事アオさんである。
アオさんがスキルを操作して毒への対処を行い、その目は髪や尻尾など数多く存在する。
死角なんて存在しない。的確に確実に毒の斬撃を排除する。
「ジアアアア!」
深くまで刺さったら抉るように引っこ抜く。
血管を貫いたのか、大量の血が噴水の如く吹き荒れる。
その血にも毒が濃く混じっている。それを本能的に察知した百合は一瞬で離れる。
目を潰され、身を抉られた。
もう逃げるなんて選択肢はない。殺す。ヴィペールの意思がより強くなった。
『ジャアアアア!』
口に毒のエネルギーを溜めて放射する。
百合は跳躍して避けるが、それを追う用に顔を動かして毒のブレスが飛んで来る。
蛇を使ってアクロバティックに移動するが毒は止まらない。
既に周囲の建物はボロボロで蛇を利用できそうなところは無かった。
無いなら作れば良い。
アイテムボックスから大量にある瓦礫を出して足場にして上へと上がって行く。
目先へと『出す』意識を強くしてアイテムを取り出す。
それをきちんと等間隔に行い、一秒事に出ると言う制約を全く感じさせない。
使っては生み出される足場に寄って実質的な空中散歩を確立した。
ブレスは収まり新たな準備をしようとする。
だが、その時にはかなりの高さに百合は存在している。
「ジアアアア!」
双月刀を収納して取り出したのは電柱杭。
それに蛇を巻き付けて高速で回転する。
回転する度に加速して落下していく。
この一撃には覚えがあるヴィペール。
そんなのには当たってたまるかと、姿を消して離れようとする。
この場には、ヴィペールと戦う者は一人しか居ない。
だけど、戦っている存在は一人ではないのだ。あくまでも『この場』に居ないだけ。
それを証明するかのように鋭い閃光が迸る。
空間をも揺らすその弾丸はヴィペールのもう片方の目玉を見事に貫いた。
ダメージを受けて損傷したヴィペールはスキルが制御出来ずにその姿を表す。
「ジアアアア!」
渾身の一撃。
先程の鱗を貫いた場所に向けて質量武器である電柱杭をぶつけた。
遠心力、落下、パラメータ、【武芸師】それらが合わさり出来た相乗効果は正に別格。
甲骨として簡単には突破出来ないヴィペールの体に人一人は入れそうな穴を空けた。
血が噴射される。
毒の満ちた血に臆する事無く、それが最前の手だと言わんばかりに百合はその中に突っ込んだ。
肉を掴み取り無理矢理引きちぎって⋯⋯そのまま口に運んだ。
血の毒に犯されて体がジリジリと溶けていく。だけど食べるのを止めない。
子供達を食ったのだ。次はお前が食われる番だ。
弱肉強食、強き者が食う⋯⋯そうでは無い。
食う奴が強いのであり、肉な奴が弱いのだ。
言葉の意味を捻じ曲げた意味を使う百合は今、確かに強い者と成っていた。
流れる世界の声により【悪食】【胃酸強化】【毒耐性】が上がって行く。
大量の肉を文字通り命を削りながら喰らう。
突然ヴィペールもただやられている訳にはいかない。
自分の体に危害を加えない用に毒を放つ。毒自体は問題ないが、ブレスなどの衝撃は身を削る。
そんな自己犠牲が出来ない状態では百合達は止まらない。
口に運ぶにしても深く入っているので難しい。
生肉、それは昔に食べて死にそうになるくらいの腹痛を与えた食べ物。
懐かしさを感じさせる味と臭いに百合は小さく笑みを浮かべた。
そして獲得したのは【食再生】と言うスキルである。
それは食べれば食べるだけHPとMPを回復して行く。
MPが回復したら【自己修繕】を使ってさらに生き延びる。
耐性スキルも上がって行き、徐々に回復量が消費量を追い抜いていく。
それが意味する事は絶対に負けないと言う事。
毒への耐性が上がれば当然ヴィペールの強みが脅威では無くなる。
『ジャアアアアアアアアア!』
限界。
そう判断したヴィペールは自分の体を失うのを覚悟してエネルギーを溜め出した。
「させるかボケえええええ!」
そんなヴィペールに浴びせられたのは大量の弾丸。
鈴菜事スズちゃんの全力の弾丸がヴィペールの攻撃を遅らせる。
だが、すぐさまスズちゃんには斬撃を放って百合への攻撃準備をする。
スズちゃんは斬撃を避けるにも精一杯。
「アアア!」
刹那、鳴き声を出してヴィペールの少しだけ空いていた口に鷹が飛び込んだ。
それによって行動キャンセル。
その鷹は百合が生徒会長が用意したモノと予想していた存在だった。
限界まで時間稼ぎを行った。後は百合が限界まで食べるだけだ。
「ジアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
互いに響き渡る絶叫は雄叫びと断末魔。
ヴィペールの動きが止まり、その体が尻尾から徐々に消えて行く。
完全に消えた中で立っていたのは、合体した百合である。
その足元には魔石と他の何かが転がっていた。
合体が解けて百合とアオさんは分離する。分離しても尚、ヴィペールの肉を咥えていた。
「「ジュル」」
その肉を噛む事無く飲み込んだ。
ごくん、飲み込む音が響いたのと同時に鳴り響くレベルアップを告げる音声。
それは百合、アオさん、スズちゃん、とある自宅警備員、とある生徒会長にも響いた。
百合とアオさんに近づくスズちゃん。
「お姉ちゃん?」
二人はスキルの使用反動で気を失っていた。
お疲れ様でした
告白を断ったら天災級ダンジョンの奥地で放置されたけど、元龍王候補の力を得たので神を越える力を研究したいと思います〜復讐とかざまぁとか考えてないので関わらないで!〜
と言うハイファンを連載中ですので、是非良ければ。
お付き合いありがとうございました




