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竜神沼の夜の向こう  作者: 黒坂 志貴
7/7

竜神

そやね、昔話しようか。


もうどんだけ経ったか分からんくらい昔、あの山の周辺で、えらい暴れまわった竜がおったんや。

自分の力が自慢でな、気紛れに雷落としたり暴風で畑荒らしたりしてた。

ある時、困った人間たちが、ある坊さんに頼んで鎮めてくれて頼んだんや。

ほんならその坊さん、えらい力持っててな、仏さんの力も借りて、竜を山の頂上に封印してしもうた。

それがうちの、旦那やねん。

坊さんは残った私と息子らに、これからは人を助けてやれ、って言うた。

なんで人間の言うこと聞かなあかんねや、って、息子らも怒ってたけどな。

仏さんもそない言うし、まあ旦那もやりすぎやと思てたから、そないしようと約束したんや。


そやけど、やってみたら助けるて難しいねん。

最初は人の姿で一緒に暮らしてみたけど、持ってる力も寿命も違うから、なかなか上手い事いかへん。

崇められて頼りにばっかりされるのもおかしいし、今度は姿を隠してみたんや。

そうしたら困ったときに、呼ばれるようになった。

日照り続きに雨続き、土砂災害。流行り病に盗賊団の出現、果ては村人同士のいさかい事まで。

呼び出しに慣れたら頻繁になってきたから、もう直接なんかするんはやめとこうと思ったわ。

そんで、呼ばれても行かんようにした。


月日が過ぎて、人間たちはどんどん代替わりしていく。

小さないさかい事はあったけど、村人同士で解決出来るようになって、竜神は昔話になっていった。

人も増えて、一つやった村は三つになった。

そのうち伝説になるのもええかと思うてた頃、えらい干ばつで畑も田んぼも干上がりそうになったんや。

これは助けなあかんやつやな、って様子見てたら、思いつめたような村人に連れられた娘が一人、池に身投げしてもうた。

慌てて助けたんやけど、村人たちは、これで雨を恵んでくれ、って頼むねん。

まぁ、雨は必要やと思たから降らせたけど、助けた娘は帰りたく無いて泣くんや。

その年になって、娘の家族が続けて病死したんやて。

症状は違うらしいから、たまたま別の病気で同じような時期に寿命を迎えたんやと思うけど、それ以来一人で生き残った娘は気味悪がられて、居場所がなくなったて言うてた。

訳聞いたら可哀そうになって、結局ここで寿命が尽きるまで、一緒に暮らしたわ。


それから直接かかわるのを止めたんやけど、この百年くらいで今の祭の形が出来上がったかな。

色んな事情で村に居辛くなった子を引き取ってるつもりやったけど、このところ何やだんだんおかしな方向になってきてな。

正直、今の村は三つともあんまりええ状態やない。

一見、普通で平和そうやけど、祭に縛られすぎてるんや。

四年に一人の生贄を出すために、わざと辛い目に合う人間を作ってる。

一人、あるいは一軒、一族を敵にすることで、調和を目指してるところがあるんや。


そうやのうて、違うところも認め合って協力してほしいんやけどな。

私はもっと、広い世界を見てほしい。

ええとこも悪いとこも、ええ時も悪い時も、一面や一時だけで決めつけたりせんと、色んな方向、別の状況も見てほしいんや。

みんな思てること言うて、自分と違う基準を持った意見も、受け入れてみてほしいな、て。


差し出された娘たち以外にも、行き場を無くしたはみ出し者にちょいちょい会うてな、この屋敷だけやと手狭やし、外と隔離し続けるのもどうかと思って、山の反対側に村一つ作ってみた。

変えたんは、村長が交代制なとこかな。

新しい村で人も寄せ集めみたいなとこやから、世襲もあらへん。

最初は試行錯誤で戸惑ってたみたいやけど、最近は他の村や町とも、積極的に交流するようになってきてる。

決まり事を自分らで作って、状況に合わせて変えたりもしてるんやで。

意見がぶつかることも多いけど、そこから新しいもんが生まれるんを、楽しむ余裕も出てきてるみたいや。

この屋敷とも、基本的には行き来自由にしてるし、今までの中では、ちょっとええカタチやなと思ってる。

せやからあんたらも、行きたかったら、その村に住んでみたらええわ。

そんでいつか、三つの村を呑み込んで、みんなで助け合いながら笑えたらええなぁて、思うねん。


言うても得手不得手かてあるし、あんたらに先頭に立ってどうにかするように強制なんかするつもりは無いで。

ここに居りたかったら、いつまででも居ってくれてかまへん。

まぁ、ゆっくり心休めながら、考えといてくれたらええよ。

……って、ぼちぼち戻る時間か。

ごめんな、私ばっかり、えらい長話してしもたな。

ほな、また珍しいお菓子でも仕入れとくさかい、お茶飲みに来たってや。



ふう。

なんや、熱うなってしもた。


天変地異が起こせる力があっても、人間の心は扱えんのや。

それに、力で支配したところで、誰も幸せにはなれんからなぁ。

私はここにいてるみんなが、元気になる手伝いをしたいねん。

いままでも、これからも、ずっと。

そんで、自分らの力で、未来を切り開いてもらいたいねん。

それが仏さんが言うてた、人を助ける、っちゅうやつやと信じてる。

ただ、旦那が眠るこの山で、残った息子らと一緒に、ずうっと見守っていきたいんや。

いかがでしたでしょうか?

またしても、地味な話にまとまりました。


台詞の無い6話と、台詞だけの7話。

最初から狙った訳じゃなかったんですが、1話書いた時点で台詞ゼロだったので、入れるタイミングを逃したカンジです。

ラストの関西弁は、知ってる方言がコレしか無いから。


次回、また違う舞台の話に挑戦してみたいです。

年内には、何かしら短編をアップしたいと考えていますので、よろしければまた、お付き合いくださいませ。

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― 新着の感想 ―
生贄に捧げられてしまった巫女たちが不幸にならず、穏やかに過ごしている結末にほっとしました。 姉妹も無事に再会できていましたし、良かったです。 竜神様が一言、巫女を捧げるのを辞めるようにと言えばこの儀…
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