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燕の子  作者: 鏑木桃音
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大司馬


恪は病を得た。沖の婚約を発表した頃にはもう座っていることもままならなくなった。

大勢の人が恪の病気の快復を祈り、見舞いに訪れた。広い恪の屋敷が連日見舞う人でいっぱいだった。しかし病は癒えることはなかった。

死期を悟った恪は、見舞いに訪れた皇帝に後事の話をした。

「死にゆく者の最後に果たすべき務めは、後を託す人を指名することでしょう。

後は陽鶩(ようぶ)がよいでしょう。それから必ずや垂を大司馬にしてください。今は敵国が静かにしておりますが、私が死んだと知れば必ずや牙を剝くでしょう。大司馬は垂でなければ務まりません。国の存亡は人の有無にかかっています。人材登用においては身分や好き嫌いにこだわってはなりません。」荒い息で、こんこんと君主のあるべき姿を説いた。

恪は泓と沖にも話をした。

「お前たちは、少しでも早く、一人前の臣下として陛下のお力になれるよう努力するのです。

沖、お前は私が亡き後、空く大司馬に推されるだろうが、決して受けてはなりません。子供にこの大役が務まらないことはお前にもわかるだろう。陛下と皇国のことを思うのであれば、大司馬には垂を就けるのです。どうか約束しておくれ。」

沖は頷いた。一々道理にかなっていた。

垂の大司馬は相当に恪の心残りだったと見え、恪は見舞いに来た政府関係者や親類縁者にことごとく大司馬に垂をと話した。きっと一番欲しかったのは皇太后からの念書であったに違いない。

 かくして燕の偉大な太宰は死んだ。国中深い悲しみに覆われ、盛大な国葬が執り行われた。人格業績ともに国葬に相応しい大宰相であった。

 ――― そして八歳の大司馬が爆誕した。

 沖は、細い腰に引き摺るほどの大きな剣を携えて、玉座の前で跪き、陛下から辞令を受けた。見上げる陛下はにっこりと微笑んでいる。隣でお母さまも微笑んでいる。やるからにはしっかりやろうと思っている。目指せ垂大将軍、目指せ恪大宰相。大司馬が何をするのかは正直わかっていないけど。

 これは一体誰の陰謀か。

楷たちが喪に服している間のとある日に

「沖、大司馬やらない?」本を読んでいる沖の邪魔をして陛下が言った。

「恪がダメって言ってた。」沖は陛下を避けて本の続きを読む。

「ねぇ、大司馬って格好良くない?」また沖の正面に回り込んで言う。

「恪がダメだって。」また他所を向く。再び陛下が回り込む。

「大司馬やってほしいんだけど。」う、うっとうしい。陛下ってこんなだったっけ。

沖は本を閉じて泓の部屋に逃げ込んだ。

「泓、聞いて。陛下がおかしいんだよ。」沖は泓に文句を言った。

「いいじゃないか。俺たちは呉王を超えなきゃいけない。大司馬くらいできて当然だろう。」

「それは、ゆくゆくはの話でしょ。それに泓ならともかく・・・。」

「何を甘えたことを言ってるんだよ!立場が人を育てるって言葉があるだろう!」

泓は泓で、垂にコンプレックスがあり過ぎておかしかった。

評大叔父のところへ行った。

「陛下は憧れているのさ。お前は陛下にとって先帝の恪と同じ立場だ。一緒に政をしたいのさ。」好々爺はにこにこしながら言った。沖が恪?何から何までできる恪・・・無理だ。

沖はすごすごと自室に帰り、陛下の前に座った。

「沖には無理です!」勘弁してください。

「そんなこと言わないで。」陛下は悲しそうな顔で沖を見る。それから肩を震わせながら言った。

「陽鶩が倒れた。」

「!?」

陽鶩は恪が後事を託した相手である。陽鶩はずっと皇帝の教育係である太保を務めてきた。皇帝の周りから安心して頼れる朝臣が立て続けにいなくなった。

「ね、私のことを傍で支えてほしい。」陛下は沖の手を握った。

一人じゃ怖くて立っていられない。皇帝の冠も、衣装も何もかもが重い。重くて重くて押しつぶされてしまいそうだ。

 垂が沖の義父になれば結局沖を助けてくれる。だったらどちらを大司馬にしようが同じではないか。それならば私のことをわかってくれる沖に傍にいてほしい。この重責を共に背負ってほしい。

 沖は陛下の苦しみがわからないほど子供ではなく、感情に流されることなく正しい判断をできるほど大人ではなかった。沖は陛下の涙をそっと拭った。


 皇太后は、可愛らしい大司馬が可愛らしい皇帝に跪いている様子に涙を浮かべて喜んだ。まるでごっこ遊びの世界である。

皇帝を諫めるものはいなかった。大燕国は子供の国に変わってしまった。

 ――― 烏は雛だけになった巣を見逃すほど甘くはなかった。


きゃー集団自殺だ。

聖徳太子の前から信長、幕末までずっと人生は五十年なんだなぁ。認知症は基本ない。

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