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燕の子  作者: 鏑木桃音
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皇帝の死


老道士の呪いの言葉は、生真面目な皇帝と子供思いの皇后の心にしっかり恐怖を刻み込みました。何しろ、神の存在や呪詛の効能が今よりずっと信じられていた時代です。

皇帝は燕国の将来が心配になりました。秦と晋の脅威は現実のものとしてあるのです。

次の日、執務室に太宰の恪を呼びました。恪は皇帝の弟で、太宰は燕の宰相のことです。

「恪よ、私は決めた。秦と晋を征討し中華を統一する。」そうすれば他国から侵略されることはなくなります。恪は嬉しそうに言いました。

「やっとその気になって下さいましたか。では私は、その時が来るまでに内政をより一層充実させましょう。」

皇帝は戦を絶えず行ってきましたが、漢人の朝臣が晋の王朝の正当性を持ち出して反対するため、皇帝が中華統一を口にすることはありませんでした。

「今直ぐに征討を行いたいのだが。」

しかし、これには恪の顔も曇ります。

「今!?それは無理でございます。秦や晋の討伐となれば、大勢の兵士が必要です。なんの準備もできておりません。」

「では兵が集まったらすぐに出発する。(すい)を都に呼び戻せ。あいつは戦上手だから、護南蛮校尉にせよ。」垂も皇帝の弟です。燕にとって晋は南蛮です。

「陛下、今はその時ではありません!晋も秦もこれといった問題を抱えておりません。無謀です。」

「だからだよ。こんな時に燕が動くなどと予想していないだろう。」皇帝は野心的に笑いました。

皇帝の決心は固そうです。恪は考えました。秦や晋を叩くなら、秦と晋が戦をしているときにどちらか一方と手を組んでもう一方を叩くのが常套です。こちらから戦いを仕掛けたら、二国が手を結ばないとも限りません。

(やはり無謀だ。ゆっくり兵をかき集めて、その間に垂や評叔父と一緒に思いとどまるよう説得しよう。)

「承知いたしました。歩兵150万人ほど徴収するよう手配いたします。」

恪は恭しく頭を下げて退室したのでした。


それから皇帝は精力的に軍事演習を重ね、内政についてもこれまで以上に励みました。

その結果、皇帝は無理が祟って病に倒れてしまいました。

皇帝は自分の死期が近いことを悟ります。これでは老道士の言ったとおりになるでしょう。皇帝と皇后は泣きました。

 しかし、泣いていても事態は変わりません。遊牧民族は部を存続させるために力のあるものが長になるのです。皇帝は国のために遊牧民族の不文律に従うことを決めました。

「恪、恪よ。」皇帝は病床に太宰の恪を呼びました。

皇帝は恪の手に自分の手を添えて、穏やかにはっきりと言いました。

「私が死んだ後は、お前が皇帝となってこの国を守るのだ。」

皇太子の()はまだ十歳、(おう)は四歳で、沖に至っては生まれて数か月です。皇后も仕方のないことだと思いました。

しかし、恪は首を横に振りました。

「私が皇帝になれば皇位継承の秩序が乱れます。私は上に立つ器量ではないので、きっと帝位を巡って争いが起きるでしょう。これが原因でどれだけの国が滅びたことか陛下もよくご存じのはずです。私は、身命を賭して暐様をお支えすることを誓います。どうか、私に暐様を支えさせてくださいませ。」

皇帝は喜びました。子供たちのことを思ってではなく、国を思う恪の気持ちに感動したのです。恪になら安心して大燕国を任せられる。心からそう思いました。

安心した皇帝は数日のうちに崩御したのでした。


 皇后は悲しい気持ちでいっぱいですが、母は子供たちを守らなければいけません。外敵を前にして力のない暐と沖では親族や家臣から抹殺されかねません。沖が皇帝になるというのも、暐が暗殺されて沖が傀儡にされるのかもしれません。考えだすと悪いことばかりが思い浮かんできます。周りは敵ばかりに見えました。母は今まで以上に強くなることを夫の墓前で誓いました。

 暐の味方になってくれる者は・・・皇帝の位に就く気がないことを誓ってくださった太宰の恪殿と、年老いて今更皇帝なっても仕方がなさそうな太傳の評叔父様。

皇后は血走った目で中空を睨みつけます。

危険なのは・・・義弟の垂。

怖いよぅ。この世界怖すぎ。素がバトルロイヤル。お母ちゃんも怖いし。

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