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コンボルト大佐

 教えてもらった場所を覗いて見ると、小さな男の子達に囲まれた白い柔らかい毛をまとった犬がいた。

 その犬はドリィとあゆむに気付き、ハッと息をのむと、男の子達に優しく言った。

「ほら遊んでらっしゃいっ。でもあまり遠くに行っちゃ駄目よ。」

「はーい。」

 男の子達はそれぞれに元気な返事を返すと、何処かへと走って行った。

「あなた、もしかするとドリィじゃない?」

 それからとても懐かしそうに声を掛けた。

「はい!ドリィです。えと、フラウさんですか?」

「えぇそうよ。前にね、あなたのお父さんにあなたのことを書いたお手紙をいただいたの。ちゃんと写真も入っていて、あなたの顔を見てすぐにわかったわ。」

 フラウはドリィの顔を両手でおおうと優しく頭を撫でた。

「よく来たわねぇ。」

 そのままあゆむに目を向けると、

「こちらのお嬢さんは?」と聞いた。

「僕のお友達で旅の仲間でもあるんだ。あゆむちゃんだよ。」

 ドリィに紹介されたあゆむは、旅の仲間と言われたことが嬉しくて、はにかみながらお辞儀をした。

 フラウはまるで10年来の友人にでも会った様なほがらかな顔で頷いた。

 あゆむは不思議だった。ペティカルロのダン夫妻やソフィア、そして新たに出会ったフラウは何故あゆむに、何処から来たのか、尋ねないのか…。

 そばに当たり前の様にいるドリィさえもあゆむのことを聞かない。

 どうしてなのだろう。ドリィにいつか聞いてみようと思うのだが、あゆむ自身もどう答えたらいいのかまだわからずにいたので、かえって何も聞かれない方が都合が良かった。

 それから2人はフラウのテントへと足を運んだ。

 周りのテントと同じ入り口の黒い布をくぐり抜けると、外から見るよりも中は意外と広かった。家具が行儀良く並んでおり、上から人数分のハンモックがかかっていた。

 奥へ進むと小さな小窓の手前にあるダイニングテーブルへと案内された。

「ドリィは今ピエロの旅の途中なのよね。だけどどうしてこの町に?」

 カップに注いだ温かいミルクをドリィとあゆむに差し出しながらフラウは尋ねた。

「はい。僕…この町にいる笑わない人にどうしても笑ってほしくて来たんです。」

 猫の様にチロチロ舌を出しホットミルクを舐めながら、ドリィは答えた。

 このミルクは体の芯まで温めてくれる様だ。

「そう…。でもドリィ、この町にはどうしても心から笑顔になれない者がたくさんいるわ。子供の前では頑張っていても、心の底では悲しみでいっぱい…。だけど悲しんでいるだけじゃいられないのよ。なんとかこの戦いが終わるまで待たなきゃ。」

 溢れる様に言うフラウの言葉を、ドリィもあゆむも黙って聞いていた。そんな2人の様子を見てフラウが気を取り直し笑顔を作ると、

「ドリィ、あなたのピエロの修行のこと、私は詳しくは聞かないわ。だけど、何かあったらすぐに言ってちょうだい。喜んで力になるから。あと、何日でもここにいていいからね。」と言った。

「ありがとうフラウさん!僕頑張るよ。だからフラウさん心配しないでね!」

 弾ける様な笑顔を見せたドリィにフラウは強く頷いた。

 それから2人はフラウからこの町の状況を聞いた。始めは子供に話していいことなのか迷っていたフラウだが、やがてポツリポツリ話してくれた。

 いくつかわかったことがある。まずこのドーガの町というのはかなりの広さだという事だ。元々この町ははるか昔に偉大な力を持った魔女が造りあげた所だそうだ。許された者だけがこの町への通り道を知っていて、入ることが出来る。許されぬ者はなんらかの形で知ったとしても、決して入ることが出来ないのだった。種別関係なく皆仲良くしており、とても明るい賑やかな町を維持していた。だが…、

「ある時コンボルト大佐が突然言い出したのよ。自分は選ばれた者だって。この町をより良い町、未来に繋げる為には自分が必要だと。初めは誰もそんなこと認めなかったわ。何を言ってるんだと馬鹿にしていたのに、いつしか権力を握り出したの。」

 フラウはとても苦々しい表情で言った。その言葉にドリィもあゆむも同時に反応した。

「どうして?」疑問の言葉が口をついた。

 どうしてなのか、フラウにははっきりとわからないらしい。いつの間にか…とても早くそうなったのだそうだ。

 コンボルト大佐は元々この町を外から守る兵の隊長で、皆から頼りにされていたらしい。特にこれといった欲深さは感じられなかったそうで、最初そんなことを言い出した時は、驚きと戸惑いで誰も耳を貸さなかったが、力強い言葉と真っ直ぐな瞳にいつしか惹かれ、信頼しついて行く者が増えていった。

 現に古く不便だった町は活性化されていき、町のリーダー的存在として町中の皆が認めたのだった。

「ちょうどその頃かしらね。コンボルト大佐の一存で他の町との交流を持ち始めたのは。安易に入れなかったこの町に商人達が行き来しだし…そりゃあもう賑やかで楽しかったわ。ドリィ、あなたのお父さんとお会いしたのもその頃よ。」

 フラウは楽しい時を思い出したのか、弾んだ声で言った。

 ドリィのお父さんってどんな人だろう。あゆむはふいにそんなことを思い、ドリィを横目で見たが、ドリィは真剣な顔でフラウの話を聞いていた。

 町が便利にそして活気づくにつれコンボルト大佐は少しずつ変わっていったのだという。自身の欲が出てきたのだろうか…。

 とても傲慢で強引になり、そして完璧な独裁者となっていった。そうなるとそれに反対する者も増えてくる。独裁者となる前は皆の意見をよく聞く大佐だったのだが、それもなくなり逆らう者には罰を与え出した。

 この場所…隠れ宿に住んでいる者は皆反グループの奥さんや子供達だ。そしてフラウの夫ロビンも反グループの一員で、コンボルト大佐と戦っているのだそうだ。コンボルト大佐に加担している大佐派の者達が住んでいる住処も何処かにあるらしい。元々この隠れ宿を見つけあのトロッコでの道を空けたのはロビン達だそうだが、こう言う場所が他にもあるのだろう。この町を造りあげた大魔女はきっとこうなることを予想して、幾つもの場所を用意していたのかもしれない。

「ねぇフラウさん。その大魔女さんに会ってこのことを知らせたら駄目なの?」

 ドリィもあゆむと同じことを思っていたみたいだ。大魔女ならばなんとしてくれるかもしれない。

 だけどそんな簡単な話ではなかった。

「駄目なのよドリィ。ロビン達も考えたわ。だけど何処にいるのかわからないのよ。すでに引退し、きっと森の奥深く…誰も知らない場所で、ひっそりと暮らしているのだろうと、皆で話しをしたの。」

 そう言ったフラウは深いため息をついた。

 だがすぐに、残念そうに顔を見合わせた2人を見て、

「大丈夫よ、ドリィにあゆむちゃん!こんなんじゃへこたれないわ!それにこの町はなんとかなるから。話を聞いてくれてありがとうね。」

 気を取り直し努めて明るく言ったのだった。

「そろそろ子供達も帰ってくるわ。夕食の準備するから、のんびりくつろいでてちょうだいね。」

 フラウがあゆむにウィンクをし、ドリィの肩を軽く叩くと部屋を後にした。

 ふー…あゆむは大きく息を吐いた。なんだかどっと疲れが出てきたようだ。

「ねぇドリィ、これからどうする?なんかペティカルロと違って笑わない人を探すのすごく大変そうだし…。とゆうより、みんなか…。」

 ドリィはじっと小窓から外を見つめている。

「それに、下手に動いたらとても危険そう。来る時の大砲になんか当たったら、怪我どころじゃすまないし…!」

 ドリィはあゆむの話を聞いていないのか、口を一文字にして動かない。

「コンボルト大佐ってどんな顔をしてるんだろうね。話を聞く限りすごい怖そうだけど。」

 あゆむは独り言の様に話を続けた。そしてフラウが出て行ってからずっと黙っているドリィをじっと見つめた。

 綺麗なブランド色の柔らかそうな髪が時折吹く風に揺れている。

 ドリィってまつ毛がとても長い。ピエロの顔だからよくわからないけど、すっとした鼻に大きな瞳。顔立ちはあどけない少女の様だった。

 ドリィは今何を考えているのだろう。頭の中でこれからのプランがぐるぐる回っているのかなぁ。

 それからあゆむはドリィがさっきから見ている小窓の外に目をやった。

 外では小さな子犬達が楽しそうに追いかけっこをしていた。その横で洗濯物を忙しなく干しているお母さん犬。テント前で井戸端会議をしている女性達。おだやかな時間が流れていた。フラウがいる、八百屋の店先で赤くてつややかなトマトを数個買い物カゴに入れ、人参やジャガイモを選んでいた。

「ドリィ。」

 あゆむが遠慮がちに声を掛けた、その時、ドリィがふいにあゆむの方を向き、声をひそめて言った。

「あゆむちゃん、後でコンボルト大佐を見に行こう。」

 咄嗟に反対したあゆむだったが、顔が見たくない訳ではない…。その気持ちをドリィは見抜いたのか、ニィっと笑いかけた。

 こうして次のプランは決定したのだった。決行は、陽が落ちて夜が来てから、皆が寝静まってから。


「それでは前にいる皆の無事を祈り、今日もこの隠れ宿の住人が無事過ごせたことに感謝いたします。」

 フラウの一言で皆じっと手を合わせた。

 ドリィもあゆむも手を合わせ祈った。まだ会わぬフラウの夫、ロビンの姿を、そしてコンボルト大佐の顔を、想像していた。

「では、召し上がってちょうだい!」

 フラウの声に子供達、ドリィにあゆむも一斉に

「いただきまーす!」を言った。

 それからというもの、食事中しばらくは子供達からの質問攻めが続いていた。

「ねぇ、ドリィは何処に行って来たの?」

「ペティカルロという森の上にある所だよ。眺めがとっても綺麗なんだ。」

 左目にブチがある男の子からの質問にドリィが元気よく答えた。

「やっぱり歌を歌ったりするんだろう?みんなを笑わせたり、大変なんだろう?」

 次はちょうど目と目の間にブチがある男の子からの質問だ。ドリィが忙しく答えようとすると、

「森は大きくて怖いって聞いたよ。ずっと真っ暗だって…。」

 左のほっぺと右の耳にブチがある男の子からの質問が飛び出した。

 フラウがふいにドリィにウィンクをした。きっと大人達が小さな子供が勝手に森へと入らぬ様、言い聞かせたことなのだろう。

 陽が暮れた森を思い出したあゆむは、あながち嘘ではないと、少し身震いをした。

「うん、カラスがカァカァ鳴いていて、周りは何も見えないんだ。そんな所もあるんだよ。」

 ドリィが低い声で男の子を脅かした。

「ねぇ、あゆむちゃんは何処から来たの?」

 突然、左目にブチがある男の子があゆむに尋ねた。

「え?」

 あゆむは驚いて、つい黙ってしまった。

 なんて答えたらいいんだろう…まさか今この質問がくるとは…あゆむが答えを探していると、そんなあゆむに気付き、フラウまでもが気まずそうにあゆむを見た。その顔は、まるでその話題をあえて避けていたかの様だ。ドリィはじっとあゆむを見つめ、そして、

「あゆむちゃんは僕が連れて来ちゃったんだ。木漏れ日の妖精さんだったらどうしようっ!みんないい?これはあまり言っちゃいけないから、内緒だよ。」

 いかにも言うのが勿体ないとでも言う様に、ごまかした。

 あゆむはハッとドリィを見たが、すぐに合わせ男の子達に頷いた。

「ふぅ〜ん、そうなんだ。」

 男の子達は特に疑う様子もなく、ふんふん頷いている。

「ねぇねぇ、それよりも僕の歌やダンスの話聞いてくれるかい?ペティカルロでも披露したんだぞ。」

 ドリィが男の子達に面白い顔をやって見せた。

 ゲラゲラ笑い出した男の子達の関心はまたドリィへと戻っていった。

 それからのドリィはまたもや大忙しだった。そんなドリィを見てあゆむは涙が出そうになるのを堪えた。

 ドリィの優しさとても嬉しかったのだった。

 


「あゆむちゃん、急いで!こっちだよ!」

 ドリィが声をひそめてあゆむを手招きした。

 あれから皆が寝静まったのを見計らって、2人はこっそり抜け出したのだった。なかなか坊や達は寝てくれず大変ではあったのだが…。

 ドリィとあゆむはトロッコ乗り場に来ていた。もう真夜中に近い。隠れ宿の住人は皆就寝についたのだろう。暗く静まりかえっていた。いくつかのトンネルからこもれ出ている、かすかな明かりだけが頼りだった。

「ねぇドリィ、どのトロッコに乗るの?トロッコを動かしたりなんかしたら、うるさくてバレちゃうんじゃない?」

「うん、歩いてなんか行けないしな…。なんとかして向こうまで行く方法を探さないと。」

 2人は周りを見渡したが、トロッコ以外向こうまで辿り着く方法はなさそうだ。

「ドリィ、あれ見て!はじにあるトロッコ乗り場。ランプが点滅している。」

 あゆむが見た先に確かにチカチカ明かりが光っており、その横のトロッコが体をガタガタ震わせていた。

「あゆむちゃん、誰かいるよ!」

 ドリィが身をかがめ中央のトロッコの影に隠れた。

「本当だ。何か運んでいる?」

 あゆむも隠れながら目を凝らすと、何匹かの犬達がせっせとトロッコに何かを運び入れていた。やがて全てを運び終えると足早にテントへと走っていった。

「あゆむちゃん、あのトロッコに乗り込もう!きっと向こうから呼ばれてるんだ。」

 あゆむも大きく頷き、2人は大急ぎではじにあるトロッコに向かった。なるべく足音を立てない様に、静かに静かに…。

 もうすぐで着くというところで、ガッタ ガッタと不器用な音を出して、トロッコはゆっくりとトンネルへと進み出した。

「いそいで!」

 トロッコがトンネルの中に入りかけたその時、2人はなんとか無事に飛び乗ることができた。

「うわっ!」

 あゆむはさっき運び込まれた物を危うく踏んでしまいそうだった。何かと見てみるとそれは食べ物だった。大きな鍋までも置いてあり、まだ温かな湯気が立ち込めている。この匂いはシチューだ。あゆむは思った。パンや果物がたくさん積んでるカゴがいくつかあり、その横の小さな箱には手紙が何十通も入っていた。

「このトロッコで向こうとの唯一の繋がりを保っているんだろうね。ねぇドリィ、向こうにいるみんなはこっちの隠れ宿には来れないのかなぁ。」

 あゆむは少し切なくなり、ポツリと呟いた。

「うん、そういうことも確かめられたらいいのにな。」

 ドリィも呟いた。

 このトロッコはゆっくりと進んでいた。上り坂や下り坂など無く、平坦な道が続いていた。皆からの届け物をとても大事そうに、トロッコはひたすら真っ直ぐ道を進み続けた。

 やがて明かりが遠のき、いつしか真っ暗な闇へと吸い込まれていった。ドリィは耳を澄ませた。一瞬チラッと光が差した。

「あゆむちゃん、降りよう。」

 ドリィが急いで言った。まだ走っている最中だ。降りれるのかと心配になったが、迷っている暇はない。トンネルの先に誰かいるのだ。

 ドリィに続いてトロッコから飛び降り、2人は身を壁に寄せ、トロッコの行く先を見守った。

 ガッタ ガッタとリズムよく進むトロッコの音が妙に響く。間もなくして、シューっと息を吐く様な音に変わり、やがて止まった。

 ようやく目も慣れてきたのか、ドリィの姿がうっすらと見えてきた。

「どうするの?」

 あゆむが囁くと、

「待って、もう少し。」

 ドリィも囁き声で答え、2人はしばらく様子をうかかった。

「よし、行こう。」

 ドリィの合図で壁にへばりつきながらなんとか進んで行くと、さっきのトロッコが止まっているのが見えた。トロッコの中には何も無かった。すぐそばには二段の段差があり、出口と思われる頭上を柔らかそうな何層もの草が遮っていた。外から空気と共に何本ものスジを帯びた光が差し込んでいる。

 壁にハシゴがあり、上に登ることが出来そうだ。

「あゆむちゃん、僕先に覗いてみるよ。待ってて。」

 言うが早く、ドリィはハシゴをするすると登り始めた。体が半分ほど過ぎた頃、動きは止まった。少しの間ドリィの姿を見守っていたあゆむだったが、びくとも動かないドリィが心配になり、横づたいにあゆむもハシゴを登った。そして頭をゆっくりと外へ出した…瞬間、あゆむは硬直した。

 大きな、とても大きながたいの良い犬達が待ち構えていたのだった。

「ここを通ってきたということは、あやしい者じゃなさそうだが、我ら前衛部隊の鼻や耳を侮ってもらっちゃ困るな。」

 ゆっくりとしゃがみ込み、ドリィとあゆむを交互に見ながら言ったその犬は、真っ黒くて顔がスラっと長い、ドーベルマンの様だった。

 よく見ると周りの犬達は笑顔だった。トロッコに積まれていたパンをかじりながら、手紙を読んだり、シチューを美味しそうに口に運んでいた。

 先ほどの犬がドリィとあゆむを軽々抱え上げると、

「君、ドリィ君だろう?」

 と、ドリィの体に付いた草を払いながら言った。ドリィが頷くと、

「フラウから君のことはよく聞いてたから、すぐわかったよ。それにしてもこんな所まで…。何かあったらどうするんだ?女の子だって、ドリィ君、ちゃんと守れるのか?」

 そう注意したのは、フラウの夫ロビンだった。

 ロビンの口調はとても優しくて温かい、あゆむは思った。

「ごめんなさい…。」

 ドリィは肩をすくめ、あゆむをチラッと見た。

 ここは葉と枝で作られた隠れ家だった。下は草がぎっしりひかれていて、さっきのトンネルへとつづく入り口がもう何処にあるのかわからなくなっていた。

 一日の中でくつろげる時間がある時とない時があり、ある時は隠れ宿からこうして食料などをトロッコで運んでもらい、ひと時の時間を過ごしているそうだ。

 ここはランタンの弱い明かりのみだが意外と明るい。枝や葉の隙間から漏れる月明かりもここを照らしていた。

 2人が草の絨毯に腰を下ろすと、フラウが出してくれた時と同じ様にロビンがホットミルクを差し出してくれた。

「紹介がまだだが、君、ドリィ君の彼女かい?」

 ロビンがニヤリとイタズラな笑みを浮かべた。

「まさか!ドリィの彼女だなんて。違います、あゆむといいます。」

 思ってもみなかったことを言われ、あゆむは気恥ずかしい気持ちを隠せなかった。

 それを聞いたドリィはちょっと傷付いたのか、ふくれっ面をし、あゆむを横目で見た。そんな2人を見てロビンは軽快に笑うと、

「危険をかえりみず来たんだ。何か目的があっての事なんだろう?」と問いただした。

「はい、僕達…あの…。」

 珍しくドリィが口ごもっている。ロビンはじっとドリィを見つめていた。

「ロビンさん、コンボルト大佐を一目見たいと思って来たんです、私達。」

 こう言ったのはあゆむだった。

 ロビンは目をまん丸くしてあゆむを見た。まわりの皆も同じ様に驚いている。

 ドリィは大きくあゆむに頷き、

「そうなんです。どうしても知っておきたいんです。なんとかなりませんか?」

 ドリィの言葉に今度はドリィを見つめたが、やがてロビンはふっと笑うと、

「いっやぁ、勇気あるなぁ君達。よし、わかった!だが近くまで連れて行くことは出来ないが、なんとかやってみよう。」

 と快く2人の要求を受け入れてくれたのだった。そして隠れ家から半分顔を出し見張り番をしている犬にそのことを伝えると、その犬も驚いた顔で2人を見たが、すぐさま親指を立てgoodのサインを見せてくれた。

 周りのみんなも口々に勇気があると褒めてくれている。あゆむはなんだか英雄にでもなった気分だった。

「よし、2人とも。早速決行だ。大佐の様子を伺える絶好な場所がある。とはいっても見るのはこいつで、だけどな。」

 ロビンは小さな望遠鏡の紐を2人の首に下げてくれた。

「ついておいで。」

 隠れ家の隅の方に小さな穴があり、2人はそこを通り抜けた。膝をついて進まないととてもじゃなく通れない程の狭さだった。幾度かのカーブを曲がり、それでも奥へ奥へと進んで行った。

 ようやく止まった先は崩れた塀やガラクタがごちゃ混ぜに積み上げられ、それがバリケードになっている場所だった。

「ここから大佐のいる部屋が見える。この時間はよくその部屋にいるんだ。」

 ロビンが顔を寄せて囁いた。

 ドリィとあゆむはロビンに言われるがままに望遠鏡で部屋を覗いた。覗いた先には、軍服を着た犬が一匹、葉巻をくわえて窓から外を眺めていた。長い耳をダラリと垂らし、顔の中央には大きなキズがあった。

「大佐をやるのは簡単なんだ。向こうも全く警戒せずこうして外を眺めたり、酒を飲んだりしている。だが、我々は決して大佐を撃ちたいんじゃない。なんとか和解する方法があるはずだ、そう思い策を練っているのだが…。」

 ロビンはそこで言葉を飲んだ。

 望遠鏡から見えるコンボルト大佐は、あゆむが想像していたのとは違っていた。顔が皺くちゃで、牙をむいており、いかにも悪そうなそんな顔立ちを思っていたが、実際はその顔から凛々しさをも感じさせた。

 強い眼差しをもつ目はまっすぐと前を見据えていた。一体何を思っているんだろう。長いこと皆を傷つけてきて、それを間近に見てきた目で、今何を見ているんだろう。あゆむはそんなことを思っていた。

「さぁ、もうそろそろいいだろう。君達の目的は達成した。フラウの所に帰りなさい。この近くにトロッコ乗り場がある。そこまで送ろう。」

 ロビンがそう促した。もう少し見ていたい気持ちをぐっとこらえ、あゆむは仕方なしに目を離した。ドリィも同じ気持ちなのか、望遠鏡から外しはしたが、その視線はまだ大佐へと向いていた。あゆむに肩を突かれようやく我にかえったらしく、ロビンについて行った。そしてあゆむも後に続いた。


「ロビンさん、ありがとうございました。無理を言ってしまってごめんなさい。」 

 そう言ったドリィと共にあゆむも口を揃えた。そんな2人にロビンはニッコリと微笑み返してくれた。

 ここはドーガの街に着いた時のトロッコ乗り場だった。またあのジェットコースターの様な道を行かなくてはならないのかと思うと、いささかうんざりではあったが、この際贅沢は言えない。

 トロッコが到着するのを待っている間、あゆむはどうしても聞いておきたかったことをロビンに聞いた。

「あの、ロビンさん。隠れ宿の方には帰って来れるんですか?それともずっとこっちに?」

 ロビンはあゆむに優しく笑うと、

「いや、交代で時々だが帰っているよ。そんなことを気にしてくれていたのかい?」

 そう答えたロビンはとても嬉しそうだ。

「良かったね、あゆむちゃん。」

 ドリィがあゆむを小突く。

 あゆむは大きく頷き、ロビンに笑い返した。

 間もなくゴット ゴットと遠くの方からトロッコが足を運ぶ音が聞こえて来て、やがてゆっくりと姿を見せた。

「一番遅くで行きなさい。そうすれば音もなく止まるはずだよ。寄り道などせず、ちゃんとフラウの所へと帰るんだぞ。」

 どうやら速度調整が出来るらしい。ロビンの言葉にあゆむは安心し、トロッコへと乗り込んだ。

 トロッコはまた不器用な音を立て、今来た道へと進み始めた。

「じゃあ、またな。」

 手を振ってくれているロビンの姿が段々小さくなり、やがて見えなくなった。

「ドリィ、ロビンさんとっても優しかったね。みんなも優しかった。来て良かったね。」

 あゆむはロビンがいた方向から目を離さずに言った。

「うん。みんな負けないでほしい!あゆむちゃん一緒に応援しよう。」

 ドリィも同じ方向を見ていた。

「コンボルト大佐見れたね。私想像してたのと違ったよ。」

「うん、僕も違っていたよ。」

 

 トロッコの揺れが心地良いせいか、胸がいっぱいだからか、のんびりと進むトロッコの中で、互いに黙ったまま過ごしたのだった。




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