おませな配達係
「ねぇドリィ?次はどこに行くの?」
あゆむが聞いた。
いつしかこの言葉があゆむの習慣となっていた。
だが果たして、その時あゆむに想像が出来ただろうか。ドリィとの別れがあゆむの前に突然訪れることなど……。
日を巡るごとにあゆむの心の中でどうしても湧いて止まない思いがあった。
ドリィとの別れ……それが不安と共にあゆむを渦巻いていた。
あれから2人は長いこと眠っていた。あゆむが安心して眠りについた時は、すっかり朝日が顔を出した時間だったのである。予定ではほんの少しの間だけ寝ようとしていたのだが、気付いたら昼過ぎになっていた。
「あゆむちゃん!起きて。僕らお寝坊さんになっちゃったよ。」
ドリィが窓からの光を見て飛び起きた。
「ドリィ…。私まだ眠いよ。一体今何時なの?」
あゆむの頭はまだまだ夢の中だった。そう言いながらまた眠ってしまったのである。
ドリィが起こしに来てからどの位時間が経ったのかなぁ?あゆむは寝返りを打ちながら考えていた。まだ眠たい気がする。ここはポカポカしていて、とても寝心地が良い。
あれ?ドリィがいない?あゆむは眠気眼を擦りながらふとドリィのベットを目にした。一瞬に目が覚める。…が瞼がまた落ちる。
「あゆむちゃん、ほら、起きてってば!僕らもう行かないと駄目なんだ。妖精さん達はすっかり起きているぞ。」
ドリィがまだまだ起きないあゆむを揺らした。ドリィはあゆむの後ろに立っていた。そして窓を見るように促した。さすがのあゆむもこれにはびっくりだ。何せまだ起きぬあゆむを見てやろうと、窓からは妖精達が群がって顔を出していたからだ。
「あゆむちゃんの寝ぼすけ〜。あゆむちゃんはまだ寝てるぞ〜。なかなか起きないぞ〜!やれ起きろほら起きろ〜。」
子供の妖精達がこぞってあゆむをからかった。
「あはははは!あゆむちゃん言われてるぞ。」
ドリィが妖精達につられ大笑いをした。
「やだ!見ないでぇ!」
もう!恥ずかしいったら!ドリィってばそんなに笑うことないのに…あゆむが膨れっ面をすると、なおも子供妖精達がはやし立てた。
「ねぇドリィ?次はどこに行くの?」
あゆむが聞いた。今はすっかりあゆむも身なりを整え、子供妖精達も大人妖精に連れられた後だった。
ドリィは何やら考えているようだ。
「あゆむちゃんに、僕どうしても見せたいものがあるんだ。だからそこに行くのさ。」
ドリィがお馴染みの顔で笑いかけた。
私にどうしても見せたいもの?一体なんだろう?たちまちあゆむの心が弾んだ。
「チロルさん、僕達行きます。」
そう言うドリィにチロルが残念そうな顔で答えた。
「そうですか…。でもまたぜひ遊びにいらしてくださいね。」
2人はチロルに出口まで送ってもらうことにしたのだ。本当は悪いからと遠慮したのだがチロルはどうしてもと送り出してくれた。
来た時とは違い、ほんのり光の差し込む木々の間を歩いていた。
「トラップがなくなってる。」
あゆむが言った。
ドリィもあゆむと同じことを思っていたらしく辺りを見渡している。
「はい、あの仕掛けは初めだけです。ヴィオーラを出る時はお客様ですので、危険な目に合わせる訳にはいかないですからね。いたって安全な道ですよ。」
チロルが羽を揺るがせた。
帰り道がわかる様に小さな灯りが目印となって続いてた。
「さぁ!ドリィ君にあゆむさん。私がお送り出来るのはここまでです。」
チロルが言った。
ここはヴィオーラの森に入った時のあの花々で出来たクッションの前だった。ドリィとあゆむが大笑いした木に投げ入れられた場所だ。
「チロルさん、本当に楽しかったです。私ゆっくりしすぎちゃって、ごめんなさい。」
あゆむがはにかみながら言った。その言葉にチロルはゆっくりと顔を振った。
「いいえ、あゆむさん。私も楽しかったです。本当はもう少しゆっくりしていただきたいほどですよ。でも、お2人にご予定があるならば、仕方ありませんからね。」
チロルはにこやかな顔であゆむを見つめた。でもその顔はとても淋しげにも見えた。
「チロルさん?」
あゆむは戸惑ってしまった。チロルがずっと見つめて何も言わないからだ。
「いいえ、なんでもないんです。ただ、私からもご挨拶をいたしたいと思いまして。よろしいでしょうか?あゆむさん?」
チロルが聞いた。
「挨拶?はい、それはいいですけど…。」
あゆむがなんだろうとチロルに答えたその時、
「ではあゆむさん…これは我々の親愛なる挨拶なのです。」
チロルはあゆむのおでこに優しくキスをした。
謝る時は鼻に…別れの挨拶はおでこに…か。
「はい、チロルさん。謹んでお受けいたしました。ふふ…なんか照れちゃうけど、ありがとうございます!」
あゆむは恥ずかしさのあまりチロルの顔が見れなかった。そんなあゆむにチロルはまた優しく微笑んだ。
「いいなぁ、いいなぁ…僕もしたいやい!」
ドリィが横でぶつくさ言っている。チロルがすかさず仕方ないですね、など言いながら、ドリィのおでこにも挨拶をした。
「ち、違うんだけどなぁ。僕の言った意味はちょっと違うんだけどなぁ…。」
ドリィはまたぶつくさ言った。そんなドリィを見て、今度はあゆむも微笑んだ。
ドリィとあゆむはチロルに言われ、花々のクッションの上に立っていた。落ちて来たものだから、あゆむには上への上がり方が思いつかない。
「はい、この花は二度衝撃を与えると上に舞うという特徴を持っています。ですから、お2人で軽く二回飛び上がってくだされば、それで日暮れの森の中へと戻りますでしょう。」
チロルが言った。
そして一緒に持って来た袋を取り出すと、
「これを一口、口に含めてください。そうすればさらに飛び上がることが出来ます。」
ドリィとあゆむに手渡してくれた。それはあの幾色に煌めくビスクの実だった。
「綺麗!」
あゆむはため息をついた。
手に取るとビスクの実はほのかな光を舞い上げた。
ドリィとあゆむがそのビスクの実を口に入れると、たちまち体が軽くなる感覚がしてきたのだ。そして2人して軽くジャンプをすると、ドリィとあゆむの体が宙をゆっくりと舞い上がり出した。それに合わせて、花々が上へと風を送った。
「それでは、お2人とも。行ってらっしゃい。」
チロルが手を振って見送っている。ドリィとあゆむはチロルが見えなくなるまで手を振り返した。
ーあゆむさん、どうか…どうか頑張ってください。そしてどうか、お元気で……。ー
「え?」
あゆむが下を見下ろした。
チロルの声が聞こえた気がしたからだ。下はもう地面だった。今の声って…。あゆむは何度もチロルが言った言葉を心で繰り返した。
「どうしたんだい?あゆむちゃん。」
ドリィがあゆむの顔を覗き込んだ。
「ドリィには聞こえなかったの?今チロルさんが言ったこと。」
そのあゆむの言葉にドリィは首を傾げただけだった。
「さぁ、こっちだよ。こっちこっち。」
ドリィがやけにあゆむをせかした。あゆむはまだ先ほどのチロルの言葉が引っかかっていた。それはスウェンキーの時にも感じた、なんとも言えない気持ちだった。いや…違う。確かドリィにも、ドリィの声も口を開いていないのに聞こえた時があった。そう、風通りの丘を出て、ドリィが突然振り返った時だった。あゆむの心に切ない気持ちが立ち込めていった。
「あゆむちゃん、あそこ覚えているかい?」
ドリィが元気良く言った。それはあゆむの気持ちにわざと気付かないフリをしているみたく。
「う、うん。」
あゆむの口が勝手に開いた。
あゆむにはドリィの背中がとても遠く、かすんで見えた。ドリィ、私行きたくない、ついて行きたくないの…お願い、止まって!あゆむは心の中で必死に叫んだ。
ドリィは早足で、大股に先を歩いていた。
いつの間にか開けた場所に出ていた。
「ここって…懐かしい…。」
あゆむは呟いた。
「あ、そうそうここがあゆむちゃんに見せたい場所ではないからね。」
そんなあゆむにドリィが慌てて言った。
ここはドリィと初めて出会った場所だったのだ。そう、あゆむがドリィの歌声につられるかの様に、必死に探して辿り着いた場所だった。
中央には今も変わらず切り株があった。あの時のあゆむは絶望でガックリと腰を落としていた。そんな切り株があゆむにはとてもいとおしく、懐かしく感じた。
鳥達が舞い降りて来たようだ。切り株に止まると、最初と同じ様にせわしくお喋りを始めた。その姿があゆむの胸をぎゅっと押さえつけた。
「どうだい?あゆむちゃん。ここは僕とあゆむちゃんの大切な場所だろう?これから行く所はここを通って行くから、きっとあゆむちゃんは喜ぶだろうと思ってさ。」
ドリィがあゆむを見ずに言った。さっきからドリィはあゆむの顔を見なかった。
「さぁ、行こう。」
ドリィが切り株に近づいた。
「わ!!」
「うわぁ!」
「きゃあ!…なんだ、ドリィじゃないの!」
誰かがドリィを驚かしたようだ。でもドリィの声にも逆に驚いていた。
「ソフィアじゃない!」
あゆむも急いで駆け寄った。
「あーびっくりした。だって、あゆむちゃんだと思っていたのに急にピエロの顔が出てくるんだもの。私驚いちゃったじゃないのよ、全く!」
ソフィアがドリィに膨れっ面をした。そう、ソフィアは切り株の影に隠れて、今か今かとあゆむを待っていたのである。
「なんだい!僕だって驚いたんだい!」
ドリィも膨れっ面をした。でもドリィはとても嬉しそうだった。そりゃあそうだろう。だって今のソフィアはとてもはつらつと笑っているのだから。
「あらドリィ、あなたずいぶん雰囲気変わったのね。」
ソフィアが上から下へとドリィの姿を見ている。
「すっかりピエロじゃない!色もお似合いよ。」
「ドリィに合ってるよね!」
ソフィアの言葉にあゆむも加わった。
2人にまじまじと見られてるものだからドリィはたじたじだ。
「あなた方の旅のお話もたくさん聞きたいとこだけど、今は私他の用事で来たのよね。ドリィ今度聞かせてくれる?」
「もちろんさ!」
ドリィがソフィアに元気良く頷いた。
「さっきからずっと言いたかったんだけど、ソフィア!あなたこそ、その格好!一体どうしたの?ドレスじゃないの?」
あゆむの言葉にソフィアは得意気な顔を見せた。
「本当だ!ソフィアちゃん。なんか違うなぁって思ってたんだ、僕も。」
そう言うドリィの目は泳いでいる。きっと気付いてなかったのだろう。
「ドリィったら、あなたさすがねぇ。気が付くのがちょっと遅いんじゃないこと?」
ソフィアが呆れ顔で言った。
そんなソフィアの顔にたちまちドリィがしょぼくれる。
「全く!これだから男の子って駄目よねぇ。まぁ、いいわ。そうなの私のお洋服、これパパにお願いして、特注で作ってもらったのよ。どう?似合う?」
ソフィアはクルリと一回りすると、自慢の服をドリィとあゆむに披露した。ソフィアの服は、Tシャツにジーパンというとてもラフな格好だったのだ。
「なんだか2人とも、そっくりだ!」
とドリィ。今度はすかさずだ。
そう、あゆむの格好をまさに真似た姿だったのである。
「合格!ドリィわかってるじゃないの!そうなの、なかなかこうゆうお洋服が見つからなくって、パパに街の仕立て屋さんに作ってもらうよう、お願いしてたのよ。もう私待ちきれなくて、大変だったんだから!こんなんだったら、あゆむちゃんに一枚お借りするんだったわ。」
ソフィアはまた一回りした。よっぽど自慢したいらしい。
そんなソフィアの言葉を聞いてあゆむの心は複雑だった。なかなか無いって…?仕立て屋に作ってもらったって…ソフィアのドレスならまだしも、Tシャツにジーパンよ。これって喜んでいいものなのかしら…あゆむは苦笑した。
「あと、見てほしいものが…ほらほらここにもあるのよねぇ。」
ソフィアが今度は、靴をパタパタと鳴らした。
「あ!この靴!すっごい汚れてる!」
ドリィが真っ先にあゆむの靴と見比べた。
「ドリィったら!やだソフィア。私のより汚いんじゃないの?」
あゆむはこれにはまたもやびっくりだった。ソフィアの靴が汚い汚い…泥だらけなのだ。
「そうなのよ。うふふん!どう?お2人とも、素敵でしょう?」
ソフィアったら…まじまじと見つめているドリィとあゆむの前に、靴をなおも押し出した。
ソフィアの靴、あゆむのスニーカーにひけを取らないくらい、ボロボロだったのである。
「これもね、本当大変だったの。パパにねあとはお靴をお願いしたのだけれど、とても綺麗だったのよ。だから私、その日にめい一杯の土をお掛けしたわ。なんだか、このお靴も嬉しそうに土を被ったのよ。だから私も嬉しくなってしまったの。うふふ。」
ソフィアはそう言うと、嬉しそうになおも靴を汚し始めた。それにはあゆむも、ドリィでさえも困ってしまった。そんなにわざと汚さなくても、自然に汚れるだろうに…2人で苦笑いだ。
「ドリィ?ソフィアに泥団子ぶつけたの、果たして良かったのかしら?」
あゆむがソフィアに聞こえないよう、そっとドリィに耳打ちをした。
「う〜ん…。う〜ん。」
ドリィも答えに悩んでいる様子だ。
「あら?何をお2人してお喋りしてるの?そんなことより、私の話を聞いてちょうだい。私ね、あれから色んな所に行ったのよ。広場で遊ぶ子のお仲間にも混ぜていただいたし、お友達もたくさん出来たわ。とっても楽しいの、毎日が。もちろんお昼間にお外へ出て、お散歩に行ったことだってあるのよ。まだまだ知らないことってたくさんあったのよね。だから、毎日がすごくワクワクしちゃって、しょうがないのよ。うふふ。」
ソフィアは楽しそうだった。ドリィとあゆむの心配事もきっと余計なことなのであろう。だってソフィアはこんなにも幸せそうなのだから。
「ねぇねぇ、それはそうと、なんでソフィアちゃんがここにいるのさ。他に誰かいないのかい?」
そんなドリィの質問にソフィアがパッと顔を輝かせた。
「それなのよ!ドリィ。私ね、実は…ね?あゆむちゃん。」
何やらあゆむに言いたげな顔をしている。
「え?私?」
なんだろう……実はって?あ!ひょっとして!
「ね?あゆむちゃん。ほら、あゆむちゃんこの間スウェ…モガ!」
あゆむは大急ぎでソフィアの口を塞いだ。
「なんだい?どうしたのさ…そんなに慌てちゃって。」
「なんでもないの、ドリィ。私達、女同士の話があるからちょっと待っててくれる?」
あゆむは両手が塞がっているので、顎で後ろをしゃくった。
「え〜!なんでさ。…ちぇっ、女の子同士の会話かぁ。僕も混ざりたいやい。」
ドリィはつまらなそうに土を蹴飛ばし、それでも嫌々下がって行く。あゆむはもがくソフィアを連れて、ドリィに聞こえない場所まで来ると、
「ソフィア、ごめんね急に。あのこと、ドリィに言ってないのよ。」
不思議そうに見つめるソフィアに言った。
「どうして?」
ソフィアがすぐに聞き返した。
「うん…。ちょっと言いそびれちゃったの。それに…だって私ドリィをびっくりさせたいんだもの。だからお願い!今は内緒にしていて。」
あゆむは手を合わせた。するとソフィアが意味ありげに微笑むと、
「そっか。やっぱりそうだったのね。だって、ご希望のお品。私まさかあゆむちゃんが食べるものじゃあないだろうなって、マスターと話していたのよ。」
マスター?多分ソフィアが言いたいのは店長のことだろう。ソフィアはまたうふふっと含み笑いをした。
「でも驚いちゃったよ。だって、まさかソフィアが来るなんて思いもしなかったもの。ソフィア、あめいろでアルバイトしているの?」
そんなあゆむの言葉にソフィアは得意気にウィンクをした。
「そっか、でもすごいねぇ。ソフィアったら、もう働いてるなんて。なんだか本当に楽しそうだね、ソフィア。」
「ええ、とっても楽しいの。この企画はね私がマスターに提案したのよ。そしたらマスターったら、とても乗り気になってね。あゆむちゃん、あなたが第一号目のお客様なのよ。」
「本当!?」
あゆむがつい大きな声を出してしまったので、逆にソフィアにシィーっと注意されてしまった。奥でドリィが眉を吊り上げ耳をダンボにしている。
「ええ、そうなの。だから配達第一号目のあゆむちゃんには、それを記念して配達料と、お品の料金をサービスしちゃいまぁす!はい!パチパチパチパチ!」
ソフィアが嬉しそうに小さく拍手をした。
「うわぁ嬉しい!だって私頼んだはいいけど、お金のことどうしたらいいのか気になっていたんだもん。ありがとう、ソフィア。」
あゆむは多少の持ち合わせはあったが、果たしてここで使えるものか心配だったのだ。
「あ、そうそう。あゆむちゃんが頼んだ物、お渡しするわね。ドリィがあまりなお顔でこちらを見ているものだから。」
ソフィアがドリィにベェっと舌を出した。ドリィは両ほっぺを伸ばしたり、鼻を持ち上げたり、まだかまだかとアピールをしている。
「はい、この黄色い小包よ。マスターと私とで、厳選してとびっきり上等な物をご用意いたしましたわ。どうぞ受け取ってちょうだい。」
ソフィアが大事そうにあゆむに差し出した。
「本当にありがとう。それでは遠慮なくいただきます!」
あゆむもそれを受け取ると、とても大切に胸に抱き寄せた。そんなあゆむの姿を見て、ソフィアは微笑んだ。
「あとあゆむちゃん。これは後で見てほしいんだけど…、あゆむちゃんにって。もちろん私と、マスターと。あとはバングルさん、あとは…もろもろね。」
ソフィアが意味ありげに微笑んだ。そして今度はリボンにメッセージカードが添えられたピンク色の小包を、あゆむに渡した。
「え?本当?なんだろう、嬉しいなぁ。バングルさんからも?」
あゆむはそのピンク色の小包を見つめた。なんだか涙が出そう…鼻の奥がツンと痛くなった。
「そうよ。あと、う〜ん…これはあまり言いたくないのだけど…。仕方ない、一応お伝えするのが私の役目だものね。実はスウェンキーとボイルからの気持ちも含まれてるんだって。あゆむちゃんはきっと迷惑だと思うけど、受け取ってね。」
ソフィアがわざとらしく顔をしかめた。
スウェンキーにボイルも…?あゆむはその小包を改めて見つめた。
「…うん。ソフィア私嬉しいよ。ありがとうって2人にも伝えといてね。」
あゆむは小さく呟いた。ソフィアはもちろんっと頷いた。
ソフィアがやけにニヤニヤしている。
「なぁに、ソフィアったら。」
なんだろう?とあゆむが気にしていると、
「なんでもないのよ、あゆむちゃんの嬉しそうな顔が見れて良かったなぁってね。まさに配達係の醍醐味ってやつかしらね。」
にやけ顔のままソフィアが言った。
「さ!そろそろ私街に戻るわ。あゆむちゃん、じゃあね!ドリィもー、じゃあねー!」
そして奥にいるドリィにも手を振った。
「うん…ソフィアじゃあね!」
ー元気でね…あなたに会えて本当に良かった。あなたならきっと大丈夫よ。ー
「ソフィア?」
あゆむがドリィの元へと戻る最中、ソフィアの声が聞こえた気がした。あゆむが後ろを振り返ると、そこにソフィアの姿はもう無かった。
「一体、何を話してたんだい?それになんだい?急いで鞄に入れてる物。」
ドリィはピョンピョン跳ねて、あゆむの鞄を覗こうとしている。
「もう!ドリィったら。いいの、気にしないでったら。」
あゆむもなんとかドリィに見られまいと、体ごと使って隠した。
「これでよしっと。ドリィもういいよ。ごめんね、待たせちゃって。」
あゆむが言った。
「ううん、いいさ。それにしてもソフィアちゃん、元気だったねぇ。僕負けちゃいそうだったよ。見たかい?あゆむちゃんがこっちに来る時のソフィアちゃん。飛び跳ねながら、森の奥へと走って行ったんだ。きっと歌も歌っていたよ。ご機嫌さんだね。」
「そうなの?私これを早く隠さないとって、そればかりだったから気付かなかったよ。」
ソフィアが最後に呟いた言葉、あゆむはドリィには言わなかった。
これ、と聞いたドリィはまたもや包みが気になったようだが、もう何も言わなかった。
「あゆむちゃん、もうすぐで着くからね。」
それからまたドリィに連れられ、目的の場所を目指した。
あゆむは切り株にそっと手を乗せた。瞬時に色々な想いが巡ってくる。
そのまま切り株を横切って2人は真っ直ぐ進んで行った。
再び森に入る時あゆむはふと振り返った。切り株がじゃあねっと言っている気がした。