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ようこそ、心霊部へ  作者: あさぎあさつき
出逢いと遭遇
3/12

2

 彼が次に目を覚ますのに、時間は掛からなかった。


「……っ!?」


 ガバッと先ほどの様に勢いよく起き上がる彼。


「あら、もう目が覚めたの?早いわね」

「……それって、嫌味ですか……?」

「そう聞こえたならごめんなさい。特に深い意味はないの」


 そう言って、冴子は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと向かい側に座っている教授に声を掛ける。


「教授、彼起きましたよ」


 冴子が声を掛けても、教授は全然反応しない。どうやら何かに集中しているらしい。教授の方をちゃんと見れば、何やらブツブツと言いながら、事件のファイルと睨めっこをしている。


「あ、あのぉ……宮部教授……?」


 目を覚ました彼が声をかけても、やはり反応がなかった。

 集中している教授を現実に引き戻すには、ひとつ。


「教授、ポルターガイストが――……」

「どこ!?」


 冴子が棒読みしているのにも関わらず、俊敏に言葉を被せ気味に反応する教授。先程まで反応しなかったのが嘘かのようだ。


「嘘です。教授が声を掛けても反応が無かったので仕方なく」


 そう言うと教授はしょんぼりとしていたが、ようやく話を聞く体勢になったらしい。


「ところで君は、なんて名前なんだい?」


 教授が私も疑問に思っていた言葉にすると、彼自身も今まで自己紹介すらしていない事に気が付き慌てて口を開く。


「すみません自己紹介もしないで……僕は 綿貫 了(わたぬき さとる)です 」


 宜しくお願いします、と彼は礼儀正しく頭を下げる。


「宜しくね、ところで綿貫くんは、どうしてここに?」

「え、あ!そうだ……!あの……っ!」


 本来の目的を思い出した綿貫は堰を切った様に話を始めた。


「実は僕が専攻したのは心霊現象専攻学部学科ではなく考古学専攻学科なんですが……」


 大学側の手違いで、と言葉を続け項垂れる綿貫。


「考古学専門学科の定員が既に上限を超えてるらしく……そのままでお願いします、と」

「あー……それはなんと言うか……」


 綿貫の心情を察してか、教授は言葉を濁していた。


「……手違い、ね」


 冴子がポツリと呟く。


「手違いで入学させられたのに、どうして抗議しないの?」


 そう言われて、綿貫はキョトンとしていた。


「本来であれば貴方は大学に抗議する事が出来るのにあえてしないのには何か理由があるのかしら?」

「この際だから学んでみようかな……って」


 苦笑いしながら、綿貫は言葉を続ける。


「僕、子供の頃から普通の人には視えないものが視えてたんです」


 その言葉を聞いて、目を輝かせたのは教授だった。


「両親や友人にも言ってみても信じて貰えなくて気味悪がられてしまっていたので、言わない様にしてたんですが……。ある日祖父に言われたんです」


『これからもずっと怖い事から逃げて生きるのか?(さとる)、お前は少しだけでもいいから識る勇気を持ちなさい。もしかしたら、案外怖い事じゃないかもしれないぞ』


「そう言われて、怖い気持ちが嘘みたいに無くなって……でも、それからも僕はずっと全部視えないフリをしてた……けど」


 意を決したかのように綿貫は、ぐっと拳に力を入れた。


「今日の事があってから、やっぱり識らないのはダメだと思ったんです だから、学びたいんです!」


「知識 了悟(りょうご)に至りてー……か」

「へ……?」


 冴子の言葉に、綿貫は再びキョトンとしていた。

 彼女が言った言葉は、サミュエル=スマイルズの著書『自助論』の一部の翻訳された部分だ。


「心理を明らかに悟る事は悪い事じゃ無いわ。心霊現象専攻学部学科……略して心霊部」


 そう言いながら冴子は、綿貫に手を差し出した。


「ようこそ、心霊部へ」


 自己紹介も終えた綿貫達は、教授室から出て中庭を歩いていた。


「さっきは、ありがとうございました」

「気にしなくていいわ」


 そう言いながら、チラリと綿貫を見やると冴子はすぐに視線を戻した。


「……ところで、どうして着いてくるのかしら?」

「へ?あ、すみません つい……」


 なんとなく、本当になんとなく、綿貫は冴子に着いて来ていた。周りから見れば、完全に金魚のフン状態だ。


「そう言えば ()()()のどうやったんですか?」


 さっきの、とは恐らく冴子が浮遊霊を徐霊。つまり、霊を消した事を意味しているのだろう。


「……知った所で貴方には出来ないわよ」

「いえ……やりたいとかではなく、ただの興味本位です。アレ、除霊……ってやつですか?」


 霊をこの世から消すヤツですよね?と綿貫は言った。


 その言葉に冴子は少し険しい顔をし、口を薄ら開くが言葉は出さない。どうやらこの話をしていいのか、口籠もりながら考えている様だ。


「……、……」

「えっ?」


 ボソッ、彼女が誰かと話をした様な気がして耳を澄ませたが、その言葉や内容は全く聞き取れなかった。


「アレは完全に消した訳ではないわ」

「でも、ちゃんとあの霊は消えて……」

「私がしたのは〝除霊〟であって、貴方の言っているのは〝浄霊〟読み方が同じでも全然違うものよ」


 簡単に〝除霊〟と〝浄霊〟の違いについての説明をすると、〝除霊〟は憑いてる人間から無理矢理引き剥がして元の場所に戻す方法であり、〝浄霊〟は霊と対話して感情や傷を癒したり天に還す方法だ。


 だが、双方にもデメリットはある。〝除霊〟は問答無用で幽霊と人間を引き剥がすだけなので、同じ道や場所に行けば、また同じ人物にとり憑く可能性がある。


 一方〝浄霊〟は体力の消費も激しい事に加え、強い霊能力も必要とする。

 そして、浄霊をする側やされる側にも命に関わる危険が伴う可能性もあるのが最大のデメリットだ。


「つまり……さっきの女性が、また憑く可能性があるって事ですか?」

「そうね。彼女自身をどうにかしないと憑く可能性のが高いわね」


 冴子の言葉に本日何度目か分からない位、綿貫は絶句していた。


「だから、出来るだけ早めにどうにかした方がいいわよ」

「どうにかしてくれないんですか!?」


 シレッと言う冴子に綿貫は思わず声を荒らげてしまった。


「……あの場では、私に危害を加えようとしたから追い払っただけで、別に貴方の為にやった訳ではないわ」


 冴子の言葉に金槌で殴られたかの様な衝撃を受ける綿貫。


「で、でも……また憑いて襲ったりするんじゃ……」

「それこそお祓いに行ったらいいんじゃない?」


 なんて無責任なんだ、という言葉は飲み込む。こんな事言ったら、本当に見捨てられそうな感じがした。


「……そう思うのであれば、少しは自分で考えてみたら?」


 綿貫の考えなんてお見通しとでも言いたげな感じで、呆れた様に冴子は言った。

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