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長月の集

偶環-guu-wa-

作者: みふぎゅ

むかしむかし あるところに



読み手が紡ぐ

口伝てのお話



ある時は

強欲者の失敗と

失墜の物語


あるいは

無欲者の成功と

成り上がりの物語



無意識に刷り込まれていく

善性の物語


常に誠実で正直であれ

みんなに優しく親切であれ


さすれば自ずと

幸せは訪れるさ




本当に?

ほんとうに?




誰かに都合が良いだけの

既製品の道標


小綺麗に整えられた

舗装された大通り



ここで躓くというのなら

悪いのはお前の目と足だ


周りを見てご覧なさい

誰も転んだりしていないだろう



塗り固めた土瀝青

その下に押し隠された

ぬかるむ地面と無数の瓦礫






むかしむかし あるところに



語り手が諳じる

口伝ての物語



ある時は

傲慢な成功者の

戒めの物語


あるいは

清貧な不遇者の

救済の物語



無遠慮に書き込まれていく

勧善懲悪の物語


富に溺れず公平であれ

施し分け与え厚徳であれ


さすれば自ずと

幸せは訪れるさ




本当は

ほんとうは




誰かに都合が良いだけの

偽りの行動規範


目に触れないように

醜いものは摘み取って



ここが息苦しいのなら

おかしいのはお前の頭の方さ


周りを見回してご覧よ

誰も彼も笑顔だろう



点在する屑箱を

植えた花で隠して

設えた固い蓋に鍵までかけた






強欲者も傲慢者も

失敗するまでは成功していたのに


本当に悪なら

どうして1度は許されていたの



無欲で清貧なのに

なぜ差し出された手をとったの


本当は心の奥底で

変わりたいと願ったからじゃないの



幸せになりたいと

願ったからじゃないの






果報は寝て待てだなんて

怠け者のふりした水鳥が言う


寝かせている間に自分は

必死に水を掻くくせに



身綺麗にしただけで

目を見張るような絶世の美女


目覚めないのが不美人なら

虐げられていたのが不細工なら


手を差し伸べた人はいたのかな




幸せになどなりたくないと

願うことも欲ならば


欲を持つことは本当に

罪深いことなのでしょうか



汝が隣人を愛した結果が

悲劇の始まりだとしても


この打たれた頬の痛みを

癒したいと思うこともまた

罪なのでしょうか



口伝の神様

どうか教えて




愛でたくもなし

目出度くもなし

特筆すべき点は、なし。

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