はじめてのおつかい
場所がわからなかったので、道行く人に聞きながらなんとか服屋にたどり着いた。
道中魔眼の効果は絶大で、舌打ちや無視はあたり前で殴りかかられそうにもなった。なんとか優しそうな人に訊ね、少し嫌な顔をされながらも値段が安く、質が良い店を教えて貰った。
この世界に来て初めての買い物ということもあり、少しドキドキである。覚悟を決め扉を開くと中から恐らく店主っぽい親父が明るい声で挨拶をしてきた。しかし親父の顔が一瞬だけひきつったのを俺は見逃さなかった。魔眼の効果恐るべし。
聞き込みではこの店が1番評価が高かったのでこの店に決めた。評判だけあっていろいろな種類の服があったし、店主の親父の対応がよかった。魔眼の効果があるのにプロの鏡である。
「今日は旅等で使える服を1式揃えたいと思って来たんだが、見せてもらえないだろうか。」
「服を1式ですか、、、そうですねこういうのはどうでしょう。A級の魔物であるブラックタイガーの素材を使った服です。着心地と耐久性に特にこだわった1枚です。触ってみてください。」
そう言って店主の親父が1枚のシャツを出してきた。デザインはシンプルであまり洋服に詳しくない俺でもオシャレだなと思う1枚だった。しかも触り心地は滑らかでとても気持ちの良いものだった。街を歩いて感じた産業レベルだと大したものはないと覚悟をしていたので驚きだった。
「ものすごくいいものですね、ちなみにこれはいくら位なんですか。」
「さすがお目が高い。この素材は触り心地だけでなく、耐久性や通気性が良く、旅にはもってこいなんです。3年履き続けても破れたりしないんですよ。」
本当に3年履き続けれる位しっかりした素材なら、日本でもびっくりであり、金額によっては検討の余地のある品物だろう。
「こちらの商品はA級の魔物の素材を使っているため本来は値がはるんですが、ここは勉強をさせていただいて金貨3枚でいかがでしょう。」
値段を聞いて吹いてしまった。シャツに金貨3枚なんて恐らく円で換算すれば3千万円位である。この店主の親父は俺をどんなセレブだと思っているんだろう、びっくりである。
「いい服なのはわかるんですが予算オーバーなので、もう少し安い服はありませんか。」
「そうですか、本当に良い物なんですがね。ちなみにご予算はいくら位で考えていらっしゃるんですか。」
予算か、、、この後武器や防具を買ったり、雑貨を買うことを考えたら銀貨1、2枚という所だろう。しかし最大の数字を言うと、足元を見られる可能性があるので少し少なめで答えておこう。
「そうですね、銀貨1枚と銅貨50枚位で考えてます。」
俺がそう言うと、店主の親父の顔が急に曇り、扱いが雑になった。親父の態度が超恐い、俺が何をしたっていうんだよ。
「なんだ、貧乏人かよ。そんな金額だと大した服は買えねぇよ。くそっ時間を損した、安物の銅貨10枚の商品が奥の棚にあるから適当に見ろ。」
そう言うと、店主はカウンターに戻って作業を始め、店主の中では完全に俺はいない者扱いとなった。
俺は仕方なく店主の親父に言われた通りに奥の棚を見ることにした。置いてあった安い服は汚れはついていないが所々ほつれているボロい服か何度も洗ったようなゴワゴワで肌触り最悪の現代人の俺には耐えれるか微妙な代物で間違いなくリユース品だった。
お金はないがこのリユース下着には耐えられそうにないなと迷っていたが、現代人の俺にはやっぱりリユースのボロボロ下着だけは耐えきれないと思い、下着だけでも少しいいものにするかと結論づけた。
「店主、ちなみに新品の下着はいくらですか。」
「ああっ、新品の下着だ。新品は1枚銀貨1枚だ、貧乏人のお前には買えんよ。」
「店主、新品も見せてもらえますか。」
「お前が見てる棚の左奥だ。本当に買うんだろうな、冷やかしなら帰れよ。」
店主の親父の不機嫌オーラをヒシヒシと感じながら棚を移動する。
そこにあったのは新品のゴワゴワ生地の品物だった。シャツやズボンはこれでもいいが、パンツに関して現代人の軟弱な肌はボロボロになってしまう。
だがしかし、お金がない。ない袖は振れないのである。お金がないのならどうするか、それは1つしかない、お金を作るのだ。そして手っ取り早くお金を作るなら、価値のある物を売ればいい。