イケメンは敵でなく、神でした
そんな俺のステータスを見た豚はニヤリと笑い騎士達にこう言った。
「見た瞬間から怖気が走ったが、やっぱり偽物だったか。その偽物をつまみ出ふぇ。」
俺は屈強な騎士達に羽交い締めにされ、連れて行かれそうになる。本気で抵抗したが、びくともしなかった。
さすがに何も持っていない、何も知らない今の状態で放り出されたら野垂れ死ぬのが目に見えていたので、必死にお願いする。
「かってに呼び出したのはそちらなので、せめてお金だけでも恵んで下さい。」
羽交い締めにされて連行されそうななか、心を込めてお願いをしてみる。
「何を言っている、偽物。お前にくれてやる物は何もない。」
豚は見下すようにそう言った。
絶望である、知らない世界で無一文なんて絶対に生きていけない自信がある。絶望を感じながら追い出されようとしていると救いの手が差し伸ばされた。
「鋼さんでしたっけ。いくら鋼さん態度が悪かったり、ステータスが低かったからって、それで追い出すのはあんまりじゃないですか。鋼さんもこんな所に召喚されて驚いてるんですよ。」
救いの神はイケメン、シンジ様でした。しかし若干ディスられたきがするが、気にしない。
さすがに豚もシンジの機嫌を損ねるのは不味いと感じたのか騎士達の連行を停止させた。
「シンジ様のおっしゃることも一理ありまふね。おいっ偽物、お前はどうしたいんだ。」
豚にとって、もう俺は偽物扱いである。最初のご機嫌とりなんて、遥か彼方である。
しかしシンジ様のおかげでもらったチャンスだ活かさない手はない。
「ウィリアム王様の寛大なるお言葉に感謝いたします。ステータスを見ていただいてわかる通り、シンジ様とは似ても似つかないひ弱な人間です。ですので、どんなに頑張った所で私がシンジ様のように活躍できることはないでしょう。そこで、暮らしが落ち着くまでのお金と少しばかりの身を守る為の装備をいただければと思います。」
ここでしくじれば飢え死に確定なので思いっきり下手にでることにした。それが功を奏したのか、豚は満足そうに頷き俺の望む条件を口にした。
「そうだろう、お前みたいな人間ではシンジ様にはついて行けないだろう。お前には銀貨10枚のお金と武器等の装備を与えよう。シンジ様、この男もこう言ってまふ、いかがでしょうか。」
豚はよっぽどシンジのご機嫌をとっておきたいのか、決定権をシンジに委ねるようだ。
「銀貨10枚とはどれ位の価値なんでしょうか。俺はこの世界に来たばかりだから、価値がわからないんですが。」
シンジの質問は俺がこの世界で生きていく上でとても重要なことだった。本当にシンジ様は神である。
「そうですね、シンジ様の言う通りでふ。おいっ、セバスティア、お前が変わって説明ふぃろ。」
「わかりました。」
横にいた神経質そうな中年親父が前に出て説明を始める。
「変わって私が説明させていただきます。お2人はまだこの世界に来たばかりで、わからないことばかりですよね。それでは簡単にご説明させていただきます。この世界の通貨は商業都市国家イーリアスで鋳造されている硬貨が基本的には使われております。種類は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨が普通では使われております。鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となっております。一般的な人の平均的な1年の稼ぎが銀貨30枚程です。1年は300日で10の月に分かれております。他にわからないことはないでしょうか。」
教えてくれるというなら、この際聞いておこう。
「この世界にはいろんなギルド等があるんですか。」
「ギルドですか、冒険者ギルドや魔法使いギルド、商業ギルド、職人ギルド等がありますね。」
やっぱりあるのか、冒険者ギルド。冒険者ギルドで活躍して貴族になるのが王道だよな、年甲斐もなくわくわくするな。
「身分証みたいなものはあるんですか。」
「身分証ですか、、、国が発行する所属カードもありますが、一般的な平民の持つ身分証は各ギルドが発行するギルドカードとなりますね。」
「やっぱりあるんですね。少し話は変わるんですが、この水晶のようなステータスを測るものは結構あるんですか。」
「基本は大国など、国が保有してる分だけですね。しかし、希少ですが鑑定スキルを持っている人間は同じことができますね。しかしこの水晶のように詳しい鑑定ができる人間はほとんどいません。しかしこのザルツヘン王国は大国であり、A級鑑定士を召抱えております。後ほど勇者様のスキルの鑑定をその者に行わせます。」
まだ聞きたいこともあったが、豚がいらいらし始めたのでこのあたりで質問を終えることにした。
「そうなんですか、いろいろ教えていただきありがとうございました。私も初めての世界でこんなステータスだから不安なんです。シンジ様もそう思いませんか。だから、お金の方はもう少し上げていただいたりとかはできないでしょうか。」
駄目元で値上げ交渉をしてみることにした。ただし豚に言っても無理そうなので、シンジの情に訴え味方にすることにした。豚もシンジには下手にでてるので、シンジの言葉は拒絶し辛いだろう。
「そうだな、、鋼さんのこんな低いステータスだと生きていくのも厳しいでしょう。ウィリアム王もう少し金額は上げれないのですか。」
案の定、シンジの言葉は拒絶し辛いようで考え始めた。
「そうでふね。シンジ様、銀貨30枚でいかがでしょう。これ以上は国民からの税金なので、難しい所でふ。」
「そうですね、、、かってに呼び出した慰謝料としては少ない気もしますが、税金から多くお金を出すのが難しいのもわかります。鋼さん、銀貨30枚でいかがでしょうか。」
豚から聞かれ、シンジは少し考えていたが最後は納得したのか俺にそう訊ねてきた。
この贅を尽くした部屋を見て税金を大事に使ってる気は全くしないが、これ以上増える気もしないので金額はそれで納得することにした。
「ありがとうございます。銀貨30枚もいただけるなんてさすがウィリアム王様、器が大きくていらっしゃいます。そんな器の大きいウィリアム王様、身を守るため武器もいただけるとありがたいのですが。」
貰え物は少しでも貰っておきたかったので、豚を煽てて、交渉をしてみる。
「そうだな、器が大きいか、、、少しは分かっているようだな。よしわかったいいだろう。銀貨30枚と剣を渡して丁重に城より退出させよ。シンジ様、この者もこう言っておりまふので、よろしいですよね。」
「鋼さんも納得しているようなので、私がいろいろ言っても仕方ないですね。鋼さん、大変だと思いますが頑張ってください。」
そうシンジに励まされ、騎士の一人に連れられ城門まで連れていかれた。そこで騎士からお金と剣を渡され城門を閉められた。
豚は煽てたら、しっかり木に登ってくれた。俺の作戦勝ちである。
俺は勇者特典で貰っていた、収納スキルを使ってみる。収納と念じてみたら鑑定と同様、目の前に異空間っぽい穴がでてきた。そこに銀貨を一枚入れてみて閉じろと念じてみる、すると穴はなくなった。今度は銀貨を取り出すイメージで念じてみると、穴から銀貨を取り出せた。いろいろ試してみると穴の大きさや場所は任意で決めれることがわかった。
そしてなんと、収納の中にはエリクサーが1本とメモが入っていた。
エリクサーを鑑定してみると
エリクサー・・・全ての病気や怪我を完治させる
そしてメモには「鋼様のことです、これからの人生は大変な道のりとなることでしょう。本来はお渡ししないのですが、オマケを贈らせていただきます。」と書いてあった。オマケにしてはものすごい贈り物だった。本当に俺のステータスに同情したんだろうなと思うと少し悲しくなった。
だが、せっかくの贈り物なので大事にさせてもらおう。
気分を切り替え、剣や銀貨を収納すると記念すべき異世界生活の第1歩を踏み出した。