超熱戦!? 灼熱地獄の戦い!(後編)
「あぢ~......」
「ちょっと......いちいち暑いって言わないでよ......余計暑くなるじゃない.......」
「いや......ここまできたらこれ以上もクソもねぇだろ。もう、とっくにカウンターストップしてるわ......」
俺たちは、パンツの中まで汗でぐしょぐしょになりながらシュミール洞窟の中を進んでいた。
シュミール洞窟は、活火山のすぐ近くにある洞窟で、中はすこぶるに暑い。いや、熱いと言い換えてもいいほどだ。
俺は崖の下を流れる溶岩の河に目を向ける。
洞窟内には溶岩の河が流れており、そこから発せられる熱が、先ほどからじりじりと俺たちの肌を焦がしてくる。
溶岩の河もそうだが、溶岩自体、生で見るのは初めてだ。
太陽の様に燃え上がり、光り輝いている溶岩の河は視覚的にも暑い。
夏休み中にやった工事現場のバイトもかなりの暑さだったが流石にこれほどじゃなかった。
この暑さは例えるならば、極暖ヒートテックを10枚重ねで着たまま、サウナの中で、激辛キムチ鍋を食わされているようなものだ。
いや、暑さの描写はもういい......今は他のことを考えて暑さから少しでも気をそらそう。
「なぁ、アイシャ。そういえば俺たち、借金抱えてんのに、隣街やら洞窟やら自由に行動してるけど、いいのか? そんなことはしねぇが、これだと遠くの土地に逃げるだけで簡単に借金を踏み倒せるぜ」
「無理よ。私たちが払うべき、村の修繕代はギルドによって立て替えられているの。つまり、今私たちはギルドに借金をしているわけ。ギルドは国を越えた超巨大組織。ある程度の大きさの街ならどこに行ってもギルドがあるわ。だから、どこへ行こうと逃げることはできないの。まぁ、だからこそ、こうして、報酬のいい依頼を求めて、他の街にだって行けるし、どこのギルドからでも借金返済の手続きができるんだけどね」
「つーかお前、プラチナランクとかいう1番階級が上の冒険者なんだろ? だったら、わざわざこんな依頼受けなくても結構金持ってんじゃねぇのか?」
「残念だけど今は無いわ。魔術師っていうのは研究職なのよ。世界中から書物を集めたり、工房を作ったり、色々とお金がかかるのよ」
ふうん。そういうものなのか。
そういや、この世界は魔術があるんだよな。じゃあ、俺も魔術を学べば魔術が使える様になるんだろうか?
「なぁ、アイシャ。俺も勉強したら魔術使えるように......」
「止まってカズヤ」
言いかけたところで、アイシャは、俺の前に手を出し、待ったをかける。
「うぉ!? こりゃまた、とんでもねぇな......」
俺たちの前に現れたのは、大きな溶岩の湖だった。
まるで沸騰した鍋の様に溶岩がコポコポと煮立っている。
対岸に陸地はあるものの、先に続く道は見当たらない。
どうやらここで行き止まりのようだ。
となると......調査隊を襲った魔人というのは一体どこに? そう思った、その瞬間、
「何の用だ? 人間」
と、突然、どこからか声が聞こえてきた。
俺たちは、即座に身構える。
よく見ると、溶岩の湖の中心が震えている。
ほどなくして、バシャァン! と大きな音を立て、溶岩の中から、声の主が飛び出してきた。
「まさか、この魔人イグニートを倒しに来たのか?」
自分のことを魔人と言った魔族は、真っ赤に燃える肌を持っていた。念のため言っておくが、この間戦った2本角の魔族とは違い比喩ではない。本当に肌が燃えているのだ。背中の翼までしっかり燃え上がっており、ご多分に漏れず宙に浮いている。
それにしても、あれか? 魔族というのは翼と浮遊能力を持っているのがデフォなのか?
いや、それよりも......
「イグニートって.......どっかで聞いたことがある様な......」
俺が首をかしげるとアイシャが答えた。
「あれでしょ。大魔王スパーダの直属の部下である魔王軍四天王の次に偉い暗黒八魔将とかいうのの1人」
「あ、それだ」
俺は、ポンっと手のひらを叩く。
「つい半日ほど前に俺の力は見せつけてやったはずなんだがな。まさか、討伐に2人しかよこさんとは。人間どもはまだ俺の力の程を理解できていないらしい」
どうやら、調査隊を襲ったのはコイツで間違いないようだ。
「テメェ既に2人殺してるんだってな。峰打ちで済ませて貰えると思うなよ」
俺は、背中のアーガストに手をかけて言う。
人と魔族が切った張ったをやってる世界でヒューマニズムを説く気はさらさらないが、だからと言って、人を殺している奴を適当にボコって後は放置というわけにもいくまい。
「言うじゃないか。いいだろう。幸運に思え。大魔王スパーダ様とその配下の魔王軍四天王が封印された今、魔王軍のトップに立っている暗黒八魔将の一人と戦えることを。全力をもってかかってこい!」
「ブレイズカノン!」
言い終わった瞬間、アイシャの放った、巨大な火の玉がイグニートに着弾する。火の玉は爆発を引き起こし、爆炎がイグニートを包み込んだ。
はえーよ。短距離走の選手のスタートよりもインターバルがなかったよ今。
「お前、無茶すんなぁ」
「だって隙だらけだったんだもん」
だもんって......お前。
だがその時、爆炎の中から声がした。
「フン.......もう勝ったつもりか?」
「なに!?」
目を凝らすと燃え盛る炎の中に羽のついたシルエットが見える。
「フッ......火の魔術で火の魔人たる俺が殺れるか」
姿を現したイグニートの皮膚には傷1つついていなかった。
ダメージを受けている様子はまるでない。
「オイオイ、もっと強力な術は持ってねぇのかよ?」
「うるさいわねぇ。私が本気になればあんな奴1撃でぶっ飛ばせるわよ。でも、ここは洞窟の中。下手に強い術を使うとその余波で洞窟が崩れて、私たちは生き埋めになっちゃうわ。まぁ......だからといって威力の低い呪文じゃアイツを倒せないのも確かだけど......」
「じゃあ、俺が直接ぶった切るしかないわけか」
俺は再び剣を構え、そして、イグニートに飛び掛かった。
「そりゃあ!」
「あ、バカ! 迂闊に飛び込むな!」
その強靭な脚力によって、俺の体はイグニートに向かって一直線に飛んでいく。
「くらいやがれぇ!」
俺は、イグニートを間合いに捕えると同時にアーガストを振り下ろした。
が、イグニートはヒョイと僅かに横によけ、なんなくそれをかわす。
「あり?」
アーガストは轟! と音を立て空を切った。
あ、ここで俺がこのまま溶岩の湖にドボンとかいう展開を予想した読者もいるかもしれないが、流石にそこまで俺もバカじゃない。
ちゃあんと、この勢いのまま向こう岸に着地できるよう、力を調節して飛んでいる。
「フン、バカめ」
振り向くと、イグニートが俺に向かって、腕を掲げていた。
いや、僅かだが俺からは外れている。そう、あれは俺の前方.......俺の着地地点。
「げぇ!? 着地狙いかよ!?」
どうやら、俺はそこまでバカだったらしい。
なんとか着地点を変えようと身をよじるが、いかに俺の筋力がものすごくとも、空中ではどうしようもない。
「ヘルブレイズ」
イグニートの手のひらから、巨大な紅蓮の炎が噴射される。
「ちょっ、ちょっとタンマ! ......どわぁあああああ!?」
俺の全身を巨大な炎が包み込んだ。
炎は爆発を生み、辺りに爆発音が響き渡る。
「カズヤ!」
「フッ......7000度の炎だ。骨も残らん」
「あちゃちゃちゃっ! どわっちゃあっ!!」
「「へ?」」
俺は地面の上を跳ね回り、服に燃え移った火を消そうとする。
イグニートはそれを見るとなぜだか激昂し、
「き、貴様一体何者だ!? なぜ、今のが効かん!?」
「え、いや結構効いてるんだけど......熱いし」
「いや、近づくだけで人体が溶けるレベルの温度だぞ!? 熱いで済んでたまるかぁ!!」
そんなこと言われても、それで済んでしまったんだから仕方がない。
どうやら、俺の中の聖法力は、肉体の耐久力もとてつもないレベルにまで引き上げているようだ。
「カズヤ! アーガストに魔力を集めて!」
突然、対岸からアイシャが俺に向かって叫ぶ。
「え? いや、アーガストに魔力を集めろって言われても、俺やり方知らんし......」
「心臓から剣へ血液を送り込むように! 剣を体の一部と考えて! ごちゃごちゃ言ってないでとっととやれぇ!」
「は、はいっ!」
え~と、剣を体の一部として考えるんだよな。そして、心臓から剣へ向かって血液を送り込むようなイメージ......
とりあえず、アイシャに言われるがままにやってみる。すると......
ピカァッ! とアーガストの刀身が輝きだした。
「そのまま振り下ろして!」
「お、おう!」
俺はそのままアーガストをイグニートに目掛けて振り下ろす。
すると、アーガストの刃先から光でできた斬撃が生まれた。
光の斬撃は、イグニートへ向かって、真っ直ぐに飛んでいく。
「なにぃ!? 飛ぶ斬撃だと!?」
不意を突かれた、イグニートは、回避が遅れる。
「チィッ! 回避が間に合わんなら相殺するまでだ! ヘルブレイズ!」
イグニートは再び、手から炎を勢いよく噴射した。だが、光の斬撃は、イグニートの炎をいともたやすく切り裂いていく。
「バ、バカな!? なぜ、人間ごときがこれほどの魔力を......グ、グァアアアアアアアアア!!」
斬撃は、そのままイグニートの体を切り裂いた。
真っ二つになったイグニートは断末魔の叫び声を上げながら爆発し、四散した。
「こちら、報酬金の7000万シルです」
「な、7せんまっ......!?」
俺は目の前に置かれた札束の山に思わず、後ずさる。
まだ、借金は3億3000万シルも残っているのだが、それにしたってもう5分の1近くを返してしまうとは......
なんていうか.......いいのか? こんなにあっさりと大金を得てしまって.......
「いえいえ、相手は、魔族のトップである暗黒八魔将の1人。討伐難度で言えば間違いなくSランクの相手だったんですからこれでも少ない方ですよ」
受付のお姉さんは笑顔でそう答える。
「あ、ていうかアイツに魔族がなにを企んでいるのか聞くの忘れてたな。アイツ、そんなに偉いやつだったんなら色々と知ってそうだったのに」
俺が言うと、アイシャもあっという顔をしたが、
「まぁ、後7人はいるんだし、大丈夫でしょ。それより、この調子でドンドン稼いでとっとと借金返済するわよー!」
と、再び依頼の張られているボードに向かう。
「なぁ、これも依頼なのか?」
俺は、依頼が貼られてあるボードのさらに隣のボードに貼り付けられている紙を指差した。
「ああ。そっちに張り付けられているのはただの広告よ。え~と。どうやら、剣闘大会のチラシのようね。開催地は、剣闘の都市ディッセンブルク。お、けっこう近いじゃない。この街の腕利きの冒険者がみんな留守にしていたのはこれに出場するためね。出場資格は剣を武器として扱う者、冒険者ランクが青以上であるもの。優勝賞金は......よ、4億シル!?」
アイシャは素っ頓狂な声を上げる。そして、ガシィッ! と俺の両肩を掴み。
「カ、カズヤ! アンタ今のランクは!?」
「あ、ああ......Sランクの依頼をこなしたおかげで一気に4階級特進して青だけど」
「じゃあアンタこれに出場しなさい! そしてちゃちゃっと優勝してきなさい! そうすれば、一気に借金返済よ!」
アイシャはそう言うと、俺の返事を待たずに、
「さぁ! そうと決まればさっそく出発進行! 目的地は剣闘の都市、ディッセンブルクよ!」
と、腰に左手を当て、右手でおそらくディッセンブルクがあるであろう方向を指差す。
やれやれ。いくら一気に借金が返せると言っても戦うのは俺なんだぜ。
もちろん、俺としてもこのチャンスをみすみす見逃す理由はないが......
「なぁ。ところでそのディッセンブルクとかいうとこまで、どのくらいかかるんだ? 一応近いんだろ?」
「そうねぇ。4日も歩けば着くと思うわ」
「4日ぁ!? 結構遠いじゃねぇかよ!?」
「なに言ってんの。たったの4日も歩けば着くのよ。近いじゃない」
アイシャは、いとも平然と言う。
......移動手段となる乗り物が無いと距離に対する感覚も違うということか。
「ほら、剣闘大会は5日後に開催なんだから早く行くわよ!」
アイシャは俺の手を引き、駆け出した。
「あ、おい! 引っ張るなって!」
俺たちは、次の目的地へ急ぐ。
目指すは────剣闘の都市ディッセンブルク。
一応続きは考えてますが、今回はここで終わります。
こんな感じで、短編(というか読み切り?)形式で、色んな話を書いていこうと思っています。