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超熱戦!? 灼熱地獄の戦い!(前編)

 店内は鎧やマントを身に纏った連中でにぎわっていた。

 元の世界なら大規模なネトゲのオフ会かコスプレイヤーの集まりかなにかだと思われそうな光景だが、ここは異世界。剣と魔法のファンタジーの世界だ。

 そして、ここは、ギルドに併設された酒場。

 ギルドというのは、人や街などから様々な依頼を受け、それを腕利きの戦士や魔術師、傭兵に斡旋することで、仲介料を取り、利益を得ている国を越えた組織のことらしい。ギルドから依頼を受けて生計を立てている者たちは冒険者とも呼ばれ、その多くは仕事を終えると、食事を取り、そのまま適当な宿屋で眠るため、多くのギルドでは酒場と宿屋が併設されているそうだ。

 今の時刻は昼過ぎ、ピークは過ぎたが、酒場は多くの人でごった返している。


「嬢ちゃんお勘定!」


 酒場の一角のテーブルに座り、先ほどまで食事を取っていた2人組の男の内の1人が、近くの赤毛のウェイトレスの少女を呼ぶ。

 

「はーい!」


 少女は、男の下へ駆け寄り、テーブルの上の伝票を読み上げる。


「えー。Bランチ2人前とエール3杯で、1980シルになります!」

「1980シルだな。あいよ」


 男は懐から財布を出して、いくつかの紙幣と硬貨を抜き取り、少女に手渡した。

 

「1980シル、ちょうど頂きました! またのお越しをお待ちしております!」 


 代金を受け取った少女は、笑顔で一礼し、酒場の外へ出ていく二人の男を見送る。

 少女はしばらく笑みを浮かべたままでいたが、突然、わなわなと肩を震わせたかと思うと、天井を仰ぎ、


「......ってなんで、私がウェイトレスの真似事なんかしなくちゃならないのよぉおおおおおお!!」

「借金があるからだ......」 


 俺は厨房で皿洗いをしながら、赤毛の少女、アイシャに言った。

 それと同時に俺の手元でパキッという音が鳴る。

 あ、ヤベ。皿割った。




「大体なんで私たちが村の修繕費用を払わないといけないわけ!? 私たちが来なかったら、村は魔族に支配されて、村人たちは死ぬまで魔族の奴隷にさせられていたかもしれないのよ!?」

「その守るべき村ごと魔族を焼き尽くしたら意味ねーだろ。一応、村人を救ったってことで全額じゃなく......あむ。一部だけの補償で済んだんだから運がいいと思え」


 俺は、フォークに刺したソーセージを口に運びながら言った。

 俺たちは、今4億シルもの借金を抱えている。

 先日、アイシャが村を襲った魔族を倒す過程で村1つ灰にしてしまったため、その弁償代として、4億シルという大金を請求されるはめになったのだ。

 バイトを終えた俺たちは、そのまま酒場で遅めの昼食を取っている。

 流石に2時を過ぎると酒場の客足もほとんどなくなるので、余計な賃金を払わないために、俺たちバイトはお役御免になるのだ。

 5時間働いて得たのは、5800シル。1人分の時給に換算すると580シルとなる。

 どうやら1シルは1円とほぼ同価値のようだ。

 それだと最低賃金を下回っていることになるがこの世界に労働基準法なんてものがあるとは思えないので、そこまで的外れな予想ではないだろう。

 1シルは日本円に換算すると0.0001円ほどの価値しかないとかそういうオチも期待していたのだが.......まぁ、村単位の損害はそんなに甘くはないようだ。

 まさか、この世界でも金に悩まされることになるとは思わなかったな。

 俺は、ハァっとため息をつき、テーブルの上のグラスに手を伸ばす。

 すると、

 パキッ!

 と、俺がグラスを掴んだ瞬間、グラスにひびが入り、そのまま粉々に砕け散った。

 グラスの中の水がこぼれ、テーブルが水浸しになる。


「ちょっとカズヤ! アンタ、さっきからどれだけ食器割ったら気が済むの!? アンタが割った食器の弁償代で私たちのバイト代ほとんどなくなっちゃたんだけど!?」

「仕方ねぇだろ。この身体、力強すぎて、まだ加減が分かんねーんだよ」


 びしょ濡れになった手のひらをアイシャに向けて言う。

 俺には、1000年前、大魔王スパーダの魔の手からこの世界を救ったエリアス教の伝説の英雄、スターク=シルバーの血が流れているらしい。この世界を救った後、次元を超え、様々な世界を渡り歩いていたスタークは、どんな理由があってかは知らないが、俺たちの住む世界にもやってきていたそうだ。そして、その末裔が俺たち白銀の家の人間であり、魔族の生き残りがまた不穏な動きを見せ始めたことに危機感を募らせたアイシャの祖父、ブライの手により、なぜか親類の中で唯一スタークの聖法力を受け継いでいた俺は、迷惑にもこの世界に召喚された。最も、1000年という果てしない時間の中で、俺たち、白銀の家の人間がスタークの子孫だということは忘れ去られ、俺の中の聖法力も完全に眠ってしまっていた。聖法力というのは、スタークが女神エリアスから授かった特別な魔力のことらしい。色々あって、大切なものを失いながらも自分の中に眠る聖法力を覚醒させた俺は、元の世界に戻るための魔力が溜まるまでの2年間という条件付きで、アイシャとともに魔族の企みを突き止め、それを阻止するための旅に出ることになった。ただし、今はそんなことをしている余裕は全くないのだが......


「っていうか、ついノリでウェイトレスのバイトなんてやっちゃったけど私たちはそんなことをするためにわざわざ隣町のギルドまで来たんじゃないでしょ!」

「え? そうなのか?」


 俺がそう返すと、アイシャはこのやろ~!と頭を掻きむしり、怒鳴り散らす。


「当たり前でしょ! 確かに酒場も宿屋も併設されてるけど、ここはギルドよ! 皿洗いやウェイトレスなんか何十年やっても4億なんて貯まりっこないわよ! ここで報酬のいい依頼をこなして少しでも早く借金を返すの!」

「依頼っつーとあれか。モン〇ンみたいに、なんかを討伐したり、採取したりとかするやつか?」

「モン〇ン......? がなにかは分かんないけど、大体そんな感じね」


 首をかしげながらもアイシャは頷く。

 まぁ、〇ンハンなんて知ってるわけねぇか。

 というか俺もウチが貧乏過ぎて、ゲームなんて高級嗜好品買ったことないから、大して知らんけど。


「とりあえず、依頼を受けるにはギルドに登録しないといけないからカズヤの場合、そこからね。そこの受付で登録用紙を貰ってきなさい。私はもう登録してるから自分の分だけでいいわよ」

「へーい」


 俺は、酒場から少し離れたところにある受付に行き、受付のお姉さんに話しかける。


「すいません。ギルドに登録したいんですけど......」


 紙下さい。と言い終える前にお姉さんは、ああ、と納得し、一枚の紙とペンを差し出した。


「ギルドへの登録ですね。こちらの登録用紙に必要事項をご記入ください」


 俺は差し出された紙を見る。

 そこには、教会の前の看板で見た、漢字とも、アルファベットともハングルともアラビア文字ともつかぬ謎の文字が書かれていた。


「アイシャ、大変だ! 文字が読めん!」


 振り向き、大声で遠くのテーブルに座っているアイシャに言うとアイシャはガクッ! とテーブルの上に突っ伏す。

 よく考えたら、俺はこの世界の文字が読めないんだった。

 ブライの魔術のおかげで会話はできるようになっていたから忘れてしまっていた。

 アイシャは小さくため息をつくと、


「あーもー私が代わりに書いてあげるから。持ってきて」

  



「まずは名前ね。カズヤのラストネームってなんだっけ?」


 ラストネーム? ああ、苗字のことか。


「白銀だ」

「カズヤ=シロガネね。違う世界の名前だけあって、少し変わってるわね。次、身長と体重と、あと年齢」

「身長は176cm。体重は65kgくらいだったかな。歳は17だ」

「ふうん。私のいっこ上かぁ」


 え? ていうことはアイシャって16歳なのか? 童顔だからてっきり14か15くらいかと......


「今失礼なこと考えてなかった?」

「いや、気のせいだろう」


 アイシャはしばらく怪訝な顔をしていたが、それ以上の追及はせず、再び紙にペンを走らせる。


「職業は、剣士でいっか。出身地は......ヴァルスとでも書いておこっと」

「俺、そのヴァルスとかいうのがどこなのか知らねぇぞ」

「ヴァルスは、ここからうんと北にある国よ。ま、この世界じゃ旅をしながら生活する人間も一定数いるし、出身なんてどこでもいいわ」

「ヴァルスがどんな国か聞かれたらどうすればいいんだ?」

「寒いところとでも答えときなさい。じゃ、これ受付に出してきて」


 俺はアイシャから記入済みの登録用紙を受け取り、受付に持っていく。

 受付のお姉さんは登録用紙を受け取ると、


「10分ほどお待ちください」


 と言い、受付の奥の方へと消えていった。そして、きっかり10分待つと、お姉さんは今度は白いカードを持ってやってきた。

 カードは免許証くらいの大きさで、俺は文字は読めないから、間違っているかもしれないが、文字の形を見る限り、大まかには先ほど登録用紙に記入した内容と同じものが記載されている様だった。


「これから簡単な説明をさせていただきます。こちらはギルドカードです。ギルドカードはギルド内での階級を示す身分証の様なものです。ギルドには毎日様々な依頼が舞い込んで来ており、その難易度によって、こちらで下からE、D、C、B、A、Sという風にランク分けを行っています。冒険者にもランクがあり、冒険者には自分のランクに見合った難易度の依頼選んで、受けてもらうことになります。冒険者のランクは下から白、赤、黄、緑、青、紫、黒、ブロンズ、シルバ―、ゴールド、プラチナとなっており、受ける依頼の目安としては白、赤がEランク、黄、緑がDランク、青、紫がCランク、黒、ブロンズがBランク、シルバー、ゴールドがAランク、プラチナがSランクとなっております。カズヤ様は、今登録したばかりのため、1番ランクの低い、白ランクからのスタートです。ランクは達成した依頼の数と難易度に応じて上がっていきますので、頑張って下さいね。では、依頼はあちらのボードに張られていますので、お好きな依頼を選び、こちらで申請してください」


 そう言って、お姉さんは、左手で受付の横のボードを示す。




「とは言われたものの......俺、文字読めねぇからなんて書いてあんのかわかんねぇよ」


 俺たちは、依頼が張り出しているボードの前に立っていた。


「そうね。今あるのは.......」


『レスティ平原でのグリフォンの討伐 難易度Bランク 報酬500万シル』

『シシルの森の薬草採取 難易度Eランク 報酬 2万シル (シシルの森に生息しているシシルシカを仕留めてくれたら肉100gに付き1000シルで買い取ります)』

『牧場を襲うアッシュウルフの群れの討伐 難易度Cランク 報酬120万シル』

『ミゲル洞穴の吸血蝙蝠の討伐 難易度Dランク 20万シル』


「う~ん。どれも小粒ねぇ」

「そうか? かなり、報酬はいいと思うが?」


 少なくとも、生活費を稼ぐために元の世界で俺がやっていたバイトよりはずっと金払いがいい。

 まぁ、こっちは命の危険があるんだから当然と言えば当然ではあるのだが。


「あ~あ、もっと手っ取り早く稼げるAランクとかSランクの依頼が今から舞い込んでこないかしら」

「ハハ、そんな都合のいいことがあるわけ......」


 俺が言いかけたその時、バタン! とギルドの入り口が勢いよく開かれ、男が入ってきた。

 肩で息をしつつ、男は叫ぶ。


「大変だ! シュミール洞窟内に魔人が現れた! 討伐難易度で言えば、間違いなくAランク以上の相手だ!」

「「マジでか!」」


 あまりにも狙ったかのようなタイミングに俺たちは、思わず突っ込んだ。


「数日前、洞窟内で不審な魔力反応を確認し、調査隊が調査に出向いていたところ、突然、洞窟内で魔人と思しき魔族に襲われたらしい! 調査隊はなんとか逃げ帰ったが、隊員の内2名が犠牲になってしまったそうだ!」

「シュミール洞窟っていうとこの街のすぐ近くじゃねぇか! オイオイ! そのうち、この街も襲撃されるんじゃねぇだろうなぁ!?」

「魔人となると俺たちじゃ無理だぜ」

「そうよ! 例の件でこの街の腕利きの冒険者たちはみんな留守にしているし.......」


 ギルド内がどよめき出す。

 理由はわからないが、この街の実力者はみな出払っているらしい。


「なぁ、アイシャ。魔人ってなんだ? 魔族となんか違うのか?」

「そうね。そもそも魔族っていうのは、1000年前、大魔王スパーダが世界を征服するために、自身の魔力を元にして生み出した兵隊のことで、大魔王が封印された今も、生き残りのほとんどは魔王軍の残党として活動しているわ。そして、その魔族の中でも特に強い力をを持つ者を魔人と呼ぶの」


 へぇ。要するに〇イヤ人とスーパー〇イヤ人みたいなもんか。


「犠牲者も出ていることですし、そうでなくとも魔人クラスの魔族を放っておくわけにもいきません。すぐに報酬金と難易度を決め、討伐隊を編成しましょう!」


 受付のお姉さんは、意外にもしっかりした様子で周りを取りまとめる。


「ねぇねぇ。その依頼。私たちが受けてもいい?」


 俺たちは、お姉さんに近づき声をかけた。お姉さんはこちらを向くと、


「いや、流石に2人では危険......っていうかその隣の人ついさっきギルドに登録したばかりですよね!? 駄目ですよ! 相手が魔人となると難易度はSランクになる可能性もあります! Sランクの依頼はそのあまりの危険さゆえにシルバー以下のランクの冒険者は同行することすら許されていないんですから!」


 と、声を張り上げ、俺たちを止める。

 すると、アイシャはピッと懐から1枚の輝くカードを取り出した。


「確か.......プラチナランクの冒険者は、特権としてランクにかかわらず同行するメンバーを選ぶことができるんじゃなかったかしら?」


 そのカードは、宝石のように光り輝いていたが銀というには少し暗い色をしていた。


「そ、それはプラチナランクのギルドカード!? し、失礼しました! まさか世界に20人といないプラチナランクの冒険者様だったとは!」


 お姉さんは、慌てて頭を下げる。

 すると、


「おい! あのお嬢ちゃんプラチナランクだってよ! あのお嬢ちゃんがなんとかしてくれるぞ!」

「俺、プラチナランクの冒険者、初めて生でみたよ! スゲェ!」


 ギルド中から次々に歓声が上がった。

 アイシャはフフンと、渾身のドヤ顔を決め、俺の方を向く。

 うぜぇ。


「じゃ、今からパパっと倒してくるから。行くわよ。カズヤ!」

「お、お待ちください! 一応ちゃんと討伐隊を編成してから全員で......」

「いいわよ。足手まといが増えても面倒だし、それより、私たちが帰ってくる前に報酬金の額、決めておいてよね」


 一方的に会話を打ち切り、アイシャはギルドの外へ出ていく。


「あ、えーと......なんか、すみません」


 戸惑っている受付のお姉さんに一礼し、俺はアイシャの後を追った。

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