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31話 楓乃からの告白

 月曜日の放課後、楓乃の提案で、涼、愛理沙、湊、陽太、聖香の5人は教室に残った。



「今日はジムがあるんだけどさー! 早く用件を済ませてくれよ」



 陽太が珍しく不満そうな声をあげる。



「すぐに終わるわ。私が話したいのは涼と愛理沙だから……皆はその立会人」


「涼と愛理沙と話したくて……俺達が立会人……ただごとではないな」



 湊はそう言って自分の胸の前で腕組して、あごに手を当てて渋い顔を作っている。聖香は湊と陽太の後ろに体を隠している。嫌な予感でもするのだろう。



「涼……あなたは愛理沙に騙されている……だから今すぐ愛理沙と別れて」


 愛理沙に騙されている? そんなことを楓乃に言われて『はい、そうですか』と簡単に別れられるはずがない。



「そんなの無理に決まっているだろう」


「涼がダメなら…愛理沙。 愛理沙から涼に別れ話をしなさいよ……私、あなたの秘密をしってるんだから」



 愛理沙は少し顔を青ざめるが、きっぱりとした口調で楓乃を拒否する。



「涼とは別れません……いい加減にしてください」


「これだけは言わないでおこうと思ったけど仕方がない……愛理沙、あなたのお父さんは涼の両親を事故に遭わせて、涼の両親を殺してるじゃない……私、お父さんとお母さんが話している所を廊下で聞いたんだから」



 愛理沙は顔を真っ青にして肩を震わせて、涼の顔を見ている。

涼は自分のことより愛理沙のことを気遣って、愛理沙の腰をそっと優しく抱く。



「愛理沙……あなたのお父さんが運転していた自動車がぶつかったバスに、涼と涼のご両親も乗っていたのよ。涼は助かったけど……涼の家族は全員亡くなった……全部、愛理沙のお父さんが悪いんじゃない」



 涼は愛理沙を庇うように、愛理沙を背中で隠して両手を広げる。



「あれは不幸な事故だっただけだ。誰が自動車の運転手か、なんて関係ない。それが愛理沙の父親でも、愛理沙自身に全く関係ないし、愛理沙に全く責任はない。愛理沙には何の罪も罰もない。楓乃……言いがかりを言ってくるのもいい加減にしろ!」



 愛理沙が涼のシャツを摘んで引っ張る。振り向くと顔を青くした愛理沙が立っている。



「涼が……あのバス事故の被害者って本当? 事故の日にバスに乗っていたって本当?」



 しまった……まだ、このことは愛理沙に説明していなかった。



「本当は、もっと早くに愛理沙に俺の過去を話そうと思っていただけどさ……俺は幼稚園の時に、あるバス事故に巻き込まれて、家族全員を亡くしたんだ。俺だけが偶然にも生き残って……三崎さんの家に引き取られたんだ……いうのが遅くなってごめんな」



 愛理沙が深々と涼へ頭を下げる。



「私こそ……自分の過去を涼に言わなくてごめんなさい……私が幼稚園の時に両親と自動車で旅行に行こうとしたの……すると運転している途中で……お父さんが倒れて……車は高速道路の分離帯を越えてバスに衝突したわ。生き残ったのは……私1人だけだった」



 あまりの衝撃の事実に教室にいた皆は息をつめて黙っている。



「前にもいったよね……愛理沙にどんな過去があってもかまわないって……俺はずっと愛理沙と一緒だよ」



 そう言って、涼は愛理沙に手を差し伸べるが、愛理沙は涼の手を取ろうとしない。そして涼に向かって深々と頭を下げる。



「あなたの家族を殺したのは、私の家族です……私です……ゴメンなさい……ゴメンなさい……こんな私が涼の彼女でいちゃいけないよね……涼……今までありがとう」



 愛理沙は目から大粒の涙を流しながら、走って教室を出ていく。慌てて聖香が愛理沙の後を追う。

涼も愛理沙を追いかけようとするが楓乃の声に止められる。



「―――どうして、涼の家族を殺した女がいいのよ……私は小さな頃から涼を見て来たの……涼のことなら何でも知ってるのは私なの……これからも涼と幸せになっていくのは私だったのよ……涼は愛理沙に騙されていただけなんだから」



「ふざけんなー! 楓乃、お前とは確かに小さな頃からの付き合いだけどな……お前は1度も俺の気持ちを理解しようともしなかった。いつも兄妹のように後ろに付いて来るだけで……俺の本当の心なんて、お前には見せたことはない! 今までも、これからも俺が楓乃に振り向くことはない! 今回のことでお前のことが大嫌いになったよ!」



 楓乃はそれを聞いて、涙を流して、教室の中を駆け走り、廊下を出ていった。



「これは不味いことになったな。聖香が付いているから危険性は少ないとは思うが、俺達も愛理沙を探しに行こう」



 湊はそう言って、組んでいた腕をほどく。



「涼の家に居られなくなったら、愛理沙の家はどうなるんだ? 愛理沙の住む家がなくなるじゃないか。涼、早く探し出そう」


「ちょっと待て、陽太? それだとまるで涼と愛理沙が同棲していたみたいに聞こえるんだが?」


「おう……そうだぜ。涼と愛理沙は同棲していたぞ。俺と芽衣が証人だ」


「涼……愛理沙を探し終わったら……この件はじっくりと話してもらうからな」



 涼は自分の鞄と愛理沙の鞄を持って教室を出る。湊は聖香の鞄を持って教室を出た。陽太は楓乃の鞄をそのままにして、教室を出た。


 3人はスマホで連絡を取り合いながら愛理沙の居場所を探すが、一向に見つからない。既に学校の中にはいないのかもしれない。


 3人は学校の中で愛理沙を探すことを諦めて、それぞれに自転車を出して愛理沙が建ち寄りそうな場所を探すが、全く見当たらない。


 聖香から連絡が入り、愛理沙は無事に聖香の家で保護しているという。



「今回はちょっと慌てたな。愛理沙と涼にそんな過去があるとは知らなかった。このことは他言無用、絶対に秘密にしておくよ」


「俺もそのほうがいいと思う。学校の奴等に噂が広まるとうるさいからな」



 湊と陽太が秘密にしてくれるという。


 2人と別れて、涼は三崎家へ向かった。


 今回の件では誠おじさんと小梢おばさんの話を、楓乃の立ち聞きされていたことに原因がある。そのことで愛理沙が傷ついてしまった。そのことを三崎家に報告するため向かう。

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