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22話 愛理沙の真実

 誠おじさんの家に着いて、涼と愛理沙は後部座席から降りて、誠おじさんと楓乃の後ろに続いて玄関の中へ入る。楓乃の家は大きな2階建ての家で、昔は涼もここで楓乃と兄妹のように暮らしていた。


 玄関へ入ると、楓乃とよく似ている小梢コズエおばさんが玄関まで出てくる。



「涼ちゃん、お久しぶりね。隣にきれいな彼女と一緒じゃない。最近はうちに遊びに来ないと思ったら、彼女を作っていたのね。早く楓乃も彼氏を作ってきてくれるといいんだけど……」


「うるさいわよ、お母さん、そのうち、お母さんもビックリするようなイケメンを連れてくるんだから」


「はい、はい……それは涼ちゃん離れができるようになってから言いましょうね」


「―――お母さんなんて大嫌い」



 そういって楓乃は自分の部屋へと廊下を走っていった。


 誠おじさんは玄関で靴を脱ぐと、小梢おばさんへ顔を向ける。



「こちらのお嬢さんは雪野さんの娘さんだ。こんなに大きくなっていると思わなかった。涼が愛理沙ちゃんと一緒に墓参りに来ていたので、連れて帰ってきたんだ」



 そのことを聞くと小梢叔母さんは顔を青くして、深々とお辞儀をして、無言でリビングへと入っていく。



「久しぶりだろう…さー入ってくれと言いたいが、先に愛理沙ちゃんと話したい事があるんだ。涼は楓乃の相手をしていてくれないか。後で呼ぶから」



 なぜ、愛理沙1人と話をしたいのだろう?

涼がいては話しにくいことでもあるのか?

誠おじさんは愛理沙の昔のことを知っていると言っていた。


 愛理沙の過去について、何か知っているのかもしれない。

愛理沙の口から直接、まだ過去のことを聞いていない。愛理沙から話してくれるまで待つと決めている。

ここは大人しく楓乃と遊んできたほうがいいだろう。



「わかったよ……誠おじさん。愛理沙が美人だからと言ってちょっかいかけないでよ。俺の仮彼女だから」


「たしかに美しい娘さんだ。俺がもっと若くて、独身だったら、声をかけていたかもしれないな」


「アウウ……2人共、そんな話は止めてください……恥ずかしいです」


「愛理沙ちゃん、冗談だよ。冗談……リビングへ入っておくれ」


「失礼いたします」



 愛理沙は誠おじさんに言われるがままにリビングへと入っていった。

そして、涼は2階にある楓乃の部屋へと遊びにいく。




◇愛理沙side




 誠おじさんは父の拓三の友達と言っていたけど、愛理沙にはそんな記憶はない。父が他界した時は幼稚園の頃だったから、今では顔もおぼろでしか思い出せない。



「気軽にソファに座って。今、紅茶の用意をするから」



 誠おじさんが優しく微笑んでくれる。


 愛理沙はリビングのソファに座って、誠おじさんが来るのを待つ。誠おじさんは盆の上に紅茶をのせて、リビングのテーブルに紅茶を置く。


 そして、盆をキッチンカウンターの上に置くと、愛理沙の真向かいの席に座った。



「実は愛理沙ちゃんには謝らないといけないことがある。さっき、君のお父さんの知人だといったが、それは全くの嘘だ。俺の友達がね……あの事故で死んだんだ。」



 それを聞いた愛理沙は両手で口を押えて、青ざめる。



「そして、あの事故のことを良く知っているのは愛理沙ちゃんしかいなかった。昔は小さくて聞けなかったけど、どうしてあんな事故が起きたのか真相を聞きたくてね。愛理沙ちゃんは思い出したくないと思うけど、できる限り教えてくれないかな」



 その言葉を聞いた瞬間、愛理沙の頭の中は暗闇に閉ざされた。いつまで経っても父が起こした事故が愛理沙の心と精神を苦しめる。


 しかし、誠おじさんは正直に、自分が嘘をついたと話して、真摯に愛理沙の話しを聞こうとしている。だからこのまま話さない訳にはいかない。心が重い。でも仕方がない。これが愛理沙の罪であり罰であるのだから。



「私は幼稚園児でしたが、知っていることを全部、警察にお伝えしました。でも、それを示す証拠がなかったため、警察は私の話しを信用してくれませんでした。それでもよろしいんでしょうか?」


「ああ……頼む。本当に事実を知りたい。俺は雪野さんが、あんな大事故を起こす人とは思えない。あの事故が起きてから、愛理沙ちゃんのお父さんのことを少し調べさせてもらった。真面目で勤勉で、家族思いの良い人だったと皆がそろって証言している。だから俺は不思議なんだ」



 ああ……誠おじさんは、お父さんのことを信用してくれようとしているんだ。だから他の人みたいに、毛嫌いすることもせず、自分にも優しく接してくれている。



「あのバス衝突の大事故を起こす前に、お父さんは、運転している時に、急に胸が痛いと苦しみだして、いきなり意識を失いました。」



 愛理沙は身振り手振りを加えて、必死で説明する。



「そして、お母さんは、運転席に前のめりになって倒れている、お父さんを何とか退かせて、ブレーキを踏もうとしましたが、お父さんの体が重くて、動かせませんでした」


「――――――」


「そうしているうちに、お父さんの足はアクセルの上に乗ったままだったと思います。車はグングンとスピードを出していって、お父さんが右に倒れていったので、体と一緒にハンドルが回って……高速道路の分離帯を乗り越えて、大型バスに正面衝突しました」


「――――――」


「私は後部座席の下に隠れるように倒れたので無事でした。気が付いたら、車の前の部分はバスとの正面衝突で車の前部はグチャグチャでした」


「あの事故は酷かったからね」


「お父さんとお母さんは他界していました。警察にそのことを説明しましたが、お父さんの遺体の損傷が激しく、心筋梗塞であったかどうかも検査不可能と聞かされました。これが私の知っている全てです」


「そうか……やはりそうだったのか……当時、の警察官が言っていたんだよ。愛理沙ちゃんが、お父さんは事故の前から胸が苦しくて倒れていたと言っていると」



 そんな警察官の人がいたなんて、今まで知らなかった。



「愛理沙ちゃんを信じている警察官もいてね。お父さんの遺体さえ、きちんと検査したら、きちんとした証拠がでるのにと悔しがっていた」


「お父さんが申し訳ありませんでした」


「愛理沙ちゃんが謝ることではないよ。それに愛理沙ちゃんの証言が正しければ、事故前に愛理沙ちゃんのお父さんは心筋梗塞で亡くなっていた」



 誠おじさんは愛理沙の説明を、疑うこともなく信じてくれた。



「誰も事故を未然に防ぐことはできなかった。不幸な巡り合わせだったんだ。愛理沙ちゃんが責任に思うことはない。愛理沙ちゃんには全く責任はないよ」



 それを聞いた愛理沙は、心のどこかで許されたと感じた。今まで許されないと思って諦めて生きて来た。

これは自分が生まれてきたことの罪であり、罰であると思って生きてきた。

誠おじさんの一言で、愛理沙は少しだけ自分の罪が消え去り、罰が消え去るのを感じる。


 気が付けば、大粒の涙が頬を伝い、リビングのソファを濡らしていた。



「今まで、自分の責任だと思って暮らしてきたんだね。辛かっただろう。俺はそう思っていない。あの時、愛理沙ちゃんは幼稚園児だったんだ。だから何もできなくて当たり前だ。だから愛理沙ちゃんの責任でもないし、愛理沙ちゃんの罪でも罰でもない。愛理沙ちゃんは無実だ。誰からも責められる必要はない」



 愛理沙は大声で嗚咽して、大粒の涙を流し続けた。

 それは、自分がやっと、許されたという、安堵の気持ちが込み上げてきた涙だった。

誠おじさんは何もいわず、愛理沙が泣き終わるまで静かに待っていてくれた。


 リビングの奥のキッチンでは話を聞いていた小梢おばさんも泣いている。


 愛理沙は胸のピンクダイヤモンドを両手でギュッと握って、大粒の涙を流す。



(お父さん、お母さん、やっと私の話を信じてくれる人が現れたよ。お父さんの無実を信じてくれる人が現れたよ。お父さん……良かったね。お父さん……良かったね。私、すごく嬉しい)



 暗闇の中で冷え切った乾いた心に、今、一筋の光が差し込み、愛理沙の心の暗闇にヒビが入った。



 (涼……嬉しいよ……涼と出会ってから、私の人生が変わっていく)



涼が幸せに導いてくれているように、愛理沙は感じた。

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