ロイヤルブルー
9月25日に完結しました小説「世界で一番偉い、僕」
連載にしたとはいえ、全てを30分程度で読める分量ですが、
完結後、第6章の、主に後半を加筆しました。
この小説では、全体の流れの中で、第6章のみが異質かと思います。
その第6章のみを抜き出し、必要な修正のみして、独立した、短編(ごく短いです)にしてみました。
ロイヤルブルー ーいと高き神聖ー
僕は、全知全能の神となった。
そして、世界を僕の思う通りに再構築した。
僕は、目に見えるものだけではなく、目に見えないもの、精神も再構築しようと思う。
最高の価値とされる、真善美。
そして、宗教における聖。
僕は、それらを超えた神聖な概念を創造する。
でも、その概念の象徴としては、やはり目に見えるものが必要だ、と判断した。
そして神としての能力を使って、神聖なる概念を象徴するモニュメントをデザインした。
高く聳える塔ではない。
際立つような高さは持たず、高さよりも地への広がりの方が大きいモニュメント。
そのモニュメントのデザイン。その美しさに、僕は、我ながら見惚れてしまった。
そのモニュメントの素材は、鉄筋コンクリート。
平凡で、質実で、無骨で、無機的な素材によって構築された構造物。
壮大、豪華、華麗といった形容とは無縁。
が、神聖にして崇高な概念を象徴するモニュメント。
その基調となる色彩は、黒、茶色、灰色。
ロイヤルブルー、青の列島の中に、寂びた高貴を帯びて、静かに佇む神聖なるモニュメント。
そして、思った。
このモニュメントを普通の街に創りたくはない。
この世界の街の景観。前の世界に比べたら、どの街も均整のとれた美しい街に再構築されている。
例えば、世界の首都とした都市。
前の世界に比べたら人口はとても増えたし、宮殿だけでなく、首都として必要な多くの施設が建設された(僕が神として、必要な施設を創造した)。
同時に、首都としても品格を持った美しい街としたので、もはや、前の世界での猥雑さはなく、調和のとれた街に変貌した。
でも、都市は、大都市ともなれば、何百万、時には一千万を超す単位での人びとが、そこで暮らす。
必然的に、過密にならざるをえない。
その街に、独自のスタイルを持つモニュメントとそれに伴う付属施設が建てられる。
それらの建造物を含めて、また、街の景観を美しく再構成するとしても、過密であることは免れない。
その中で、神聖な概念を象徴する権威を持つとしたら、本来であれば他の施設を圧倒する高さも必要とされるだろう。高き塔がそれに相応しいと思われるだろう。
でもあまりに高い塔や建築物は品がない。
僕は、そう思ったのだ。
そのモニュメントは、それが建てられるに相応しい場所に建てよう。
今、その場所がないのであれば。
創ればいい。
僕にはそれができるのだから。
僕は、世界地図を取り出した。
どこに創るか。
既存のものではない、広大な土地。
太平洋だ。
ここに広大な陸地を創ろう。
気候はどうしようか。
温帯、亜熱帯。熱帯。それらの土地は人間くさく成りすぎるように思う。
人を寄せ付けない森厳な土地。
寒帯、冷帯、せいぜい冷温帯までにしよう。
北緯80度から、40度あたりまで。
ひとつの陸地にするか、列島にするか。
僕の視線は世界地図の中の日本列島の姿をとらえた。
日本列島の海岸線が形作る姿。その列島の姿は、なんと美しいのだろう。僕は、少年時代からそう思っていた。
デザインとして、これほど美しい形を持った国は他にはない、
僕は、そう思っていた。
新しく創るのは、列島にしよう。
島の数は?
僕の好きな数字は、10あるいは、16。
16にしよう。
列島の合計面積は、700万平方キロ以上ほしい。
日本の約20倍。
カナダやアメリカ合衆国の約8割。
それらの条件を満たして、僕は、16の島々のひとつひとつが、そして、それらが形作る全体像が、日本列島以上の美しさとなるようまとめてデザインした。
総人口は・・・、百万人もいれば充分だ。
そして、その住民は、僕が創る。
人として、最高を極めた人びと。最高の頭脳。最高の美を伴った容姿。何の欠陥もない、静かで穏やかで、愛と優しさで溢れた人びと。
列島は、神秘的・幻想的・夢幻的美しさの自然景観を持つ。
円錐形の美しき独立峯。
高き峰々が連なり形作る、美しき稜線。
雪嶺。
どこまでも透明な青き湖。
いと高きより、細く、垂直に落下する滝、その瀑布。
そして、数万人を越えることのない街。
天を摩することなく、人とともに静かに佇むモニュメント。
大地は森林に覆われ、樹々は凛烈たる生気を放つ。
清らかな冷気。
荘厳なる光。
十六の島々を包む、深き青をたたえた・・・海。
神、創造せし、列島の名は
僕の脳裏にひとつの色彩が浮かんだ。
最も高貴な色。
そう列島の名は、
ロイヤルブルー。 青の列島。
島の名前は、美しきイメージを喚起する、美しき文字。
でも相応しい文字は・・・ない。
で、あれば、シンプルで、無機質に名付けよう。
北から順番に
ロイヤルブルー1(RB1)
ロイヤルブルー2(RB2)
・・・・・・
ロイヤルブルー16(RB16)
僕は、人間としての意識がだんだん薄れて、
神としてのウェイトが高くなってきたようだ。
その神聖な概念の名は、
それもまた
ロイヤルブルー。 それでいい。
そう、ロイヤルブルーの塔は、その名を持つ場所にしか創らない。
ロイヤルブルー。 青の列島。
いと高き神聖は
いと高き思想は
いと高き芸術は
いと高きひとだけのものだ
僕は神。
いと高きものは……
平凡の中に、日常とともにある。
いと高きもの、神聖は、視覚的な高さを必要とはしない。
ここに書いた
「ロイヤルブルー」
という色彩に象徴させた概念、観念は、こういうことを考えても意味はない、と思っています。
今はむしろ「嫌悪」の対象。人にとっては「害悪」となる思想だと思っています。
拙作「世界で一番偉い、僕」
「ロイヤルブルー」を否定して、人の上に存在することをやめた主人公の田中くんを、人間としての田中俊介くんをメインにしながら、時々、人間とともに存在する全知全能の神様になる田中くんを書いてみたいなという気持ちはあります。
その気になるかどうかは、自然にまかせます。