いつも通りの朝《プロローグ》
明転
朝が来た。
朝は来ていた。
まだ寝ていたいのに、瞼が勝手に開く。
こうなっては、もう起きるしかない。
大きく腕を伸ばし、ベッドから抜け出した。
習慣と言えば聞こえはいいが、こういう時は辛さが勝る。
どれだけ遅い時間に寝たとしても、6時前後には目が冴えてしまう。
例え30分前に寝たばかりだとしても。
今日は、春霞は寝ているらしい。
偶に、彼女の部屋の前を通ると、キーボードの音が聞こえる。
本人が飛び出してきて、報告書を数束渡してくることもある。
彼誰時の報告書なら俺も書けるが、春霞は1人で仕上げたいらしい。
まぁ、書けるということを伝えたことは一度もないが。
目の前に仕事を積まれた状態の春霞からは、逃げるのが賢明だ。
一度手を貸せば、仕上げまで手伝わされる。
あれは完全に修羅場だった。
もう、二度と手伝わない。
俺が彼女にできることは、コーヒーを淹れることくらいだ。
キッチンに明かりをつける。
今日はまだ誰もきていないらしい。
こういう日は、好きなコーヒーを淹れられる。
あぁ、眠い。
深煎りの豆にしよう。
苦くて、濃いコーヒーにしよう。
今の時間に寝ているなら、春霞は苦いのを好まない。
ウィンナーコーヒーにでもしようか。
他の3人には、ダージリンでも淹れるか。
敢えて玉露にしようかな。
朝食当番が起きていないんだから、それくらいの悪戯は許される。
俺ではなく、今日の当番が悪い。
玉露ならカフェインも多いし、そうしよう。
それにしても、眠い。
昨日は何時に寝たんだったか。
現実を見たくなくて、時計の電池抜いたんだっけか。
3時になったのまでは、確認したが。
こんなに眠いのに、寝れないのだからひたすらだるい。
コーヒーの香りが部屋を包み始める。
春霞を起こす前に、シャワーを浴びてこよう。
一杯だけ、真っ黒な液体を喉に流し込む。
静かな朝だ。
こんな日は、きっと客が来る。
面倒な依頼でなければいいが。
――今日も今日とて、舞台の幕は上がる。