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第6話 閑話休題

 ひたり。

 カツン。

 ひたり。

 足音が近づいてくる。

 どうして、なんで。

 いつまで走り続けているんだろう。

 息が上がる。

 喉に穴が(・・・・)空いている(・・・・・)から、息を上手くすえない。

 ヒュー、ヒュー、と気味の悪い音がする。

 喉を押さえた指の隙間から、血が滴る。

 どうして、私なの。

 何もしてないのに。

 私じゃないのに。

 何も知らないのに。


「アッ!?」


 ヒールが折れた。

 勢いのまま、無様に転ぶ。

 同時に、足首を捻ったらしい。

 足を動かそうとすると、痛みが走る。

 どうしよう。

 止まっちゃダメなのに。

 止まったら。

 ひたり。

 追いつかれる。


「1つ、聞きたいことがある」

「ヒッ!?」


 ビクリ、と肩が震えた。

 声のした方へ、恐る恐る振り返った。

 緊張か。

 恐怖か。

 私の視界は歪み過ぎて、ちゃんと見えない。


「情報を。あの男の情報を」


 ひたり。

 カツン。

 ひたり。

 止まってちゃだめだ。

 はやく、動かなきゃ。

 もう一度、走り出す。

 足が上手く動かないけど、動かさなきゃ。

 あの男って誰。

 何を言っているの。

 私はただ、ただ。


「え……?」


 目の前の光景に、絶句する。

 あぁ、壁だ。

 行き止まりだ。


「あ、あぁああああ」


 しまった。

 追いつめられた。

 もう、逃げ道なんて。

 カツン。


「ヒッ!? いや、あ、あああ」


 もう、遅かった。

 必死に、壁に縋りつく。

 私の、後ろにいるそれは。

 ゆっくりと、ゆっくりと私へと近づいてくる。


「なんなの……、なんで私なの……!?」


 もう、わけがわからなかった。

 ただ、叶うはずがないとわかっていても、そいつに叫ぶことしかできなかった。

 涙で霞む視界でも、姿は見える。

 月を背負って立つ、それが。


「……猫を、殺しただろう」


 ひたり。

 また一歩、それは私へ近づく。

 猫……?

 なんの猫?


「して、ない。殺してない!!」


 音を立てる喉は、上手く言葉を叫べない。

 もう、動けないし逃げ場もない。

 私は、しぬのを待つしかない。


「そのUSBは?」

「え……?」


 ひたり。

 また一歩、それは私に近づく。

 あぁ、もうなんでもいいから、1秒でも長く生きていたい。


「これ、は、廊下に、おちて、あのこに、わたさな、と」


 強く握りしめていたそれを思い出す。

 私は、これをあの子に届けに行く途中で襲われた。

 不用心だから、届けようと。

 なんで、これを。

 この人が気にするのだろう。


「ねぇ! なんで私なの!!?」


 私の声が、壁に反響する。

 ひたり。

 それは、また一歩私に近づいてくる。


「ねぇ!!! なん、で!!!」


 もう、言葉が返ってこない。

 それじゃ、時間を長引かせることもできない。

 逃げる隙も、つくれない。

 あぁ、もう、だめ、なの?


「ねぇ……、おね、が……」


 ぼろぼろと、涙が零れる。

 腰が抜けたようで、その場にへたり込む。

 しにたくない。

 しにたくない。

 しにたくない。

 しにたくない。


「やめ、くださ……ッ」


 ひたり。

 それは、もうすぐ目の前にいた。

 真っ黒なそれは。

 狐面をしていた。

 霞んだ私の眼には、狐面だけが浮いているように見えた。

 いや、だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


「や、め……!」


 キラリ、と何かが光った。

 痛みはない。

 ただ、熱い何かが喉に張り付いた。

 もう、どれだけ押さえても、血が止まらない。

 喉の音も、酷くなるばかり。

 起きていられなくなったからだが、前のめりに倒れた。

 それは、私の手の中からUSBを奪う。

 まって。

 まって。

 それは、あのこの。

 あのこが、がんばってかいたもの。

 あのこに、とどけ、な、きゃ。


 薄れゆく意識の中で。

 私は、それの足に。

 爪を立てた、気がした。




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