第2話 登場人物考案
パッと見て、すぐに洋館という言葉を浮かべるような、そんな扉を開けた。
ギィイ、とこれまた洋館のような音を立て、扉は動く。
表札もない、看板もない。
でも、それが正解の証らしい。
唾を飲み、私は、その空間へ足を踏み入れた。
外との照明の差に、眼を細める。
いや、部屋の中の方が、暗いのだけれどもね。
眼が慣れたころに、私はようやく部屋を見渡せた。
広い。
いや、うん。
広いのはそうなのだけれど、どういう構造なのだろう?
あぁ、事務所だと考えれば、そうか、これであっているのよね。
そして、私は気付く。
部屋の中にいた全員の瞳が、此方を向いていることに。
……そんなに変な顔をしているのかしら?
不安は、まぁ、隠せていないだろうけれど。
それとも、間違えた?
あぁ、どうしよう、出直せばいいのかな。
「いらっしゃいませ」
一旦外に、って、え?
そう考えていた私は、声のした方へ視線を向ける。
男性の声だった。
あぁ、今のは、誰?
「何か御用ですか?」
「あ、えぇと、探偵の依頼を……」
部屋の中は、縦長の机が置かれ、それを囲うようにソファーが。
更にその奥にもう1つ、デスクが置かれていた。
それはアニメでよく見る、探偵事務所の様で。
机とソファーは、扉を囲むように置かれている。
そもそも、それがおかしいのだけれど。
部屋の中、机が置かれたスペースの横には、広い空間がある。
そこを使えばいいのに。
「探偵の、ね」
「は、はい」
確認する様に、男性は言葉を繰り返した。
奥に置かれたデスクの横に立つ男性は、スラリとした長身で、肌は小麦色。
短くそろえられた黒髪から、清潔感が窺える。
「お茶」
「俺?」
「うん」
長身の男性は、ソファーに座っていた男性に指示を出した。
……うん、って言った。
あの見た目で、うん、って言った。
可愛い人なのかな?
「こちらへ」
「あ、はい」
長身の可愛らしい男性は、お茶を淹れに行った男性の座っていた場所へ、座る様に促してくる。
さっきの人、戻ってきたら怒らないのかな?
立っている場所から動く前に、この部屋にいる人を1人ずつ確認した。
右側手前に女性。
肩まで伸びた髪を1つに纏めていて、手に本を持っている。
最初に私から視線を外したのも、この人だ。
右側奥にも、女性。
綺麗に切り揃えられたボブ調の髪。
笑っていないから冷たい印象だけれど、私でも分かるくらいに、美人だ。
左側手前が、お茶を淹れに行った男性がいた場所。
長すぎないよう調整された髪型で、少しやんちゃそうな人だった。
そして左側奥。
誰も座っていないけれど、きっと長身の可愛い男性の位置。
隣に座るのだとしたら、少し緊張してしまいそう。
私は静かに移動し、ソファーに腰掛ける。
もう、皆に凝視されていないから、肩から力を抜ける。
あれ?
長身の男性は、奥に置かれたデスクの隣に立っていた。
なら、そこに、誰か座っているの?
「探偵の、とは、誰かから聞きかじったのか、それとも……」
――白い
いや、黒い。
あれ、どっち?
違う。
そうじゃなくて、え?
いつからそこに、座っていたの?
口を開いた女性は、そこに座っている。
ラノベによくある、姿をすっかり隠してしまうようなイスではないし。
そもそも、回転するようなものではない。
多少造りに凝ってはいるけれど、ただの椅子だ。
なら、どうして?
「ネタの方から歩いて来てくれるのなら、それに越したことはないけどね?」
そう言って女性は、微かに笑った。
――綺麗
あぁ、違う。
いえ、綺麗なのですけれどもね?
恐らく長いのであろう黒い髪。
黒いのに、光に当たっている部分は、茶に変わる。
どこか紫も、赤も入っているような、不思議な髪で。
太目の眉に、切れ長にも見える眼。
黒い瞳に、小さい唇。
それに、とても白い、透き通る肌。
先程の美人に比べればそうでもないのに、彼女の顔には魅力があった。
それこそ、こんなに丁寧な説明をしてしまうくらいには。
「あまり、そういう事を口にするなよ」
「しないよ」
「そう」
長身の男性が、奥の女性に釘を刺すように声を発した。
彼がデスクの隣にいたのは、彼女がいたからか。
なら、あの2人は、この中でも特別な関係だったりするのかしら?
「誰の紹介で、ここに?」
「あ、これを」
慌てて、私は鞄から一通の封筒を取り出した。
封蝋で閉じられた、真っ赤な封筒。
私はそれを、目の前の机の上に置いた。
瞬間、部屋にいた方々の背筋が伸びた。
「斜運」
「はい」
彼女は、私の正面に座っている女性に指示を出す。
女性は、封筒を手に取り、徐に取り出したルーペで何かを確認し始めた。
封蝋部分、そして何も書かれていない表面を見、顔を上げた。
「本物です」
「そうか」
女性は立ち上がり、封筒を彼女の元へ運んだ。
彼女は、封筒を一瞥しただけで、開けようとしない。
女性は、また私の正面に座り直した。
「名前は?」
「あ、はい。庭芝 櫻です」
彼女は、唐突に私に尋ねる。
名乗り遅れ、てはいない、よね?
まだ大丈夫、うん。
この流れなら、次は、
「名乗ってもらったのだから、こちらも返さねば」
そう言って、彼女は本を読む女性へ視線を投げた。
いつもその順番なのか、本を読む女性は、視線を滑らせた。
「 斜運 です」
名乗るのと同時、彼女はペコリ、と頭を下げた。
つられて私も頭を下げる。
斜運さんは、また本を手に取り、ページをめくり始めた。
「 春夏秋冬です」
次に、隣にいた美人が名乗りを上げた。
ニコリ、と笑いながら。
うん、美人!
笑うと凄く可愛い。
無表情の時とのギャップに、女の私でもやられそうになる。
「 彼誰時 でっす」
カタ、と音を立ててティーカップが置かれる。
腕の伸ばされた方を見ると、ニコッと笑う男性がいた。
うん、ギャップ。
笑い方が一番幼い。
座っている順番に、名乗られている。
なら次は。
そう思って私は、長身の可愛い男性へ視線を向けた。
彼は1つ咳払いをし、口を開いた。
「 潮ヶ波留、です」
涼しかった。
言いづらさはあるけれど、とても、爽やかさがある。
微笑んでくれるかと思ったけれど、表情は変わらなかった。
少し残念。
気を取り直すように、私は視線を移動させる。
私の視線に気が付いた彼女は、眼を細めた。
「私が、 春霞 だ」
今回はルビが多く、見づらいところもあります。
人物名には少々凝っています、お付き合いいただけたら、と思います。
ついでに作者の名前も憶えていただければ……