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第10話 関係構築


 春霞さんは隣に立っていた男の人を指し示す。

 潮ヶ波留さんは、僅かに眉を顰めた。


「なんで俺」

「理系的な話になるなら、君が適任でしょう?」


 クスクス、と春霞さんは笑う。

 僕に向けていたものとはちがう笑顔だ。

 そうだ、春霞さんは『自分が』依頼を受けるとは言っていない。

 劇団として引き受ける。

 その担当を潮ヶ波留さんにするというだけの話だ。


「ね、潮ヶ波留」

「……ハァ」


 潮ヶ波留さんは大きく溜め息を吐いた。

 凄く、機嫌が悪そう。

 僕は助けを求める様に視線を泳がせた。


「彼誰時は自分の仕事してきて」

「おう」


 春霞さんは彼誰時さんにも指示を出す。

 そうだ、僕が引き留めちゃってたんだ。

 彼誰時さんは、ショルダーバックを背負い直す。

 扉の方へと足を向けた彼誰時さんと眼が合った。

 僕は彼に頭を下げた。


「じゃあな」

「はい、ありがとう、ございました」


 僕の横を通る時、彼誰時さんは手を振ってくれた。

 再度、僕は頭を下げる。

 背後で、扉の閉まる音がした。

 今度は、戻ってこいみたいだ。


「私は書いてるから。よろしくね」


 カタン、とキーボードが鳴った。

 諦めた様に、潮ヶ波留さんは頭をかく。

 そして、僕に視線を向けた。


「順番に聞いていく」

「は、はい」


 ぶっきらぼうに、潮ヶ波留さんは僕に言う。

 思わず、僕は背を伸ばした。

 さっきまでとは違う緊張感。

 二者面談の時みたいだ。


「まず、ウサギの世話はいつから?」


 潮ヶ波留さんは立ったまま僕に質問してきた。

 視線は、春霞さんのパソコンに向いている。

 春霞さんは何を打ち込んでいるんだろう?


「一週間くらい前からです」

「最近だな」

「はい、当番制で」


 ウサギの世話は、学校全体でしている。

 一か月ごとに担当クラスを変える。

 今月は僕のクラスで生物係の僕が世話をすることになっていた。


「今回が初めて?」

「はい」


 僕はしっかりと頷いて答える。

 潮ヶ波留さんは考える様に唇に手を当てた。


「ウサギには触って確認した?」

「え?」

「死んでるのか」


 ドキリ、と心臓が跳ねた。

 生きたのか、ではなく死んでるのか。

 潮ヶ波留さんはなんの遠慮もなく僕に質問をする。

 その態度を、僕は冷たいと受け取った。


「して、ないです」

「全く動かなかった?」

「……は、い」


 横たわるウサギに、触らなかった。

 触りたくなかった。

 ただ、死んでいると思えたし、そう思った。

 口の中が、乾くのを感じた。


「穴があったのは?」

「ゲージの中で、入り口のすぐそばです」


 ウサギの世話をするために、僕が立つ位置に。

 思い出すだけでも身震いがする。

 また、足元に、ウサギの影が見えた。


「穴はどうやって埋めた?」

「近くに倉庫があるので、そこからスコップを借りて埋めました」

「深さは確認した?」

「してません」


 ゲージの外から、近くにあった盛り土をつかって穴を埋めた。

 その上に、干し草を置いて、掃除を終えた後のような形にした。

 深さは、確認できなかった。


「まぁ、まだ穴があるかもと思ったら、ゲージのなかには入らないよな」

「……はい」


 潮ヶ波留さんの言葉通り。

 ゲージの中には入りたくなかった。

 まだ何か仕掛けられてるから。

 手に持ったマグカップを傾ける。

 まだ温かいココアが、少しだけ僕を落ち着かせてくれた。


「最初の、」

「え?」

「殺されかけたってのは?」


 初めて、潮ヶ波留さんと眼が合った。

 何の感情も見えない瞳だった。

 震える手から、落とさないようにマグカップを離す。

 指を一本ずつ、丁寧に剥がす。


「……その落とし穴は、きっと、僕を嵌める為にあったものなんです」

「というと?」

「あいつ等が、俺を落とそうとしたんです」


 震える体を、自分の腕で抱きしめる。

 脳裏に浮かぶ彼らの顔に、僕は吐き気を覚える。

 けれど、彼らにされたことを、潮ヶ波留さんに説明しなきゃいけない。

 僕は、1つのウソをつくことにした。


「えっと、その、友人(・・)が、ふざけて悪戯してくることがよくあるんですが、最近は度が過ぎるものが多くて……」


 本当に、友達だった。

 嘘では、無いはずだ。

 真実では無い、かもしれないけれど。


「そう」


 ただ一言。

 潮ヶ波留さんは僕に返した。

 僕が振り絞った言葉を、一言で済ませた。


「なら、穴の近くに何かその人たちの痕跡はあった?」

「痕跡?」

「足跡か、あとは鈍器か刃物」


 その質問に、僕は眼を見開いた。

 どうして(・・・・)わかったんだろう(・・・・・・・・)

 潮ヶ波留さんは変わらず僕を見ている。

 その眼は、どこか春霞さんに似ていた。


「は、刃物が、落ちて、ました」

「どんな?」

「えっと、鎌と、釘とかが」


 頬を汗が伝う。

 今、僕は酷い顔をしているだろう。

 冷静に、淡々と質問を重ねる潮ヶ波留さんを理解できなかった。


「春霞」


 突然、潮ヶ波留さんがその人の名前を呼んだ。

 カタン、とキーボードを打つ音が一際強く聞こえる。

 打ち込み終わった合図のような音が。


「わかった?」

「あぁ、大体な」

「え?」


 2人は、互いに一瞥し合う。

 思わず、僕は声を漏らした。

 僕に視線を戻した潮ヶ波留さんに、僕から問いかける。


「本当に?」


 静かに、潮ヶ波留さんは頷いた。

 質問に答えただけなのに、解を出したという。

 正直、僕は信じられなかった。

 だから重ねて質問しようとしたけれど。

 潮ヶ波留さんは眉を顰めていた。


「大体わかった。けど、不明瞭な点がある」

「なん、ですか?」


 大きく音を鳴らして、僕は唾を飲み込んだ。

 最初に聞くべきだった、と前置きをした潮ヶ波留さんは口を開いた。


「君は、何を聞きに来た?」

「え?」


 思わず、口を半開きにしたまま固まってしまった。

 潮ヶ波留さんの表情は、いたって真剣そのものに見える。

 何って、それは。


「自分が本当に殺されかけたかを確認したかったのか? それとも、ウサギを本当に殺したのか、確かめたかったのか?」

「そ、れは……」


 僕は言葉に詰まってしまった。

 そういえば、僕は何を聞きに来たんだっけ?

 潮ヶ波留さんはそれ以上言葉を繋げない。

 ただ静かに僕の言葉を待っていた。


「ウサギを、僕が殺してしまったのか、わからないんです。確かに自分で埋めたのに、生きてるか確かめなかったから」


 声を出しながら、僕は自分の答えを探る。

 ここにくれば、助かると思った。

 助けてくれると思った。

 でも、それは何からなんだろう。


 思わず俯いたその先に、僕は視界に白い塊を捉えた。

 まだ、消えてはくれないようだ。

 なら、これが答えなんだろうな。

 懐かないし、噛むし、可愛くなかったけれど。


「僕は、ウサギが、生きていたのかを知りたいんです」


 埋めてしまったけれど、僕は兎が生きていることを、願いたいんだ。

 僕の答えを聞き、潮ヶ波留さんは机の上に置いてあるファイルを手に取った。


「ならばその解、俺が出した」


 そう言って、潮ヶ波留さんはそのファイルから一枚の紙を取り出した。




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