王城編最終章後編
「さてと、」
城下町から帰ってきた綾斗はヴァイトと魔法を練習した中庭に来ていた。
「さっき、獣人にフレアを使った時にあった違和感は何だったんだ?俺が作った火と手のあいだに何か赤い円みたいなのが…」
綾斗は独り言を言いながら右手を前にかざす。
「火球」
綾斗の手の前に火の玉が現れ、火の玉と手のあいだに赤い円が浮かび上がる。獣人に使った時よりもはっきりとそれは綾斗はの目に映っていた。
「魔法…陣?」
映ったのは一瞬だったが確かにそれはアニメなどで描かれるような魔法陣だった。
「見えてなかっただけで魔法を使う時には魔法陣が出てたのか。なら…」
そこまで口にして綾斗は周りの騒がしさに気づく。いつもなら落ち着いた足取りで城内を歩いていると吸血鬼のメイド達が慌しく走り回っていた。
「どうしたんですか?」
綾斗は近くを走っていたメイドに声をかけた。
「お嬢様が、アリシアお嬢様の姿が見当たらないんです!!」
「アリスが!?いつからですか?」
「今日のお昼頃に昼食の用意ができてお呼びに行った時にはもう…」
綾斗はそれを聞いた瞬間に走り出した。どこにいるのか検討はつかないが背中にある小さい翼に向かって飛べと唱える。綾斗の翼は5倍程の大きさになり綾斗の身体を宙へと浮かべる。
「アリス…何もなければいいけど」
綾斗はアリスと出会った森に向かって飛ぶ。
「やっぱりいないか」
綾斗は目的地に着くと辺りを見渡してそうつぶやく。
「ん?なんだろうこの匂い…鉄?いや、血だ!」
綾人は吸血鬼の本能からそれを血だと判断して匂いの方へと走り出した。走っていった先に1人の女性が木にもたれて座っている。
「大丈夫ですか?」
綾斗が声をかけても反応がない。
反応はないけど、息はしてるみたいだな。
首に小さいけど2つの穴があいている。
「なんだ?どこかで見たことがあるような…ん?」
綾斗は血の匂いがこの女性の後に続いていることに気づき目を向ける。
「こんなところに洞窟なんてあったのか、アリスと鬼ごっこしてる時には気づかなかったけどな」
そこには成人男性が横に3人ならんでちょうどくらいの洞窟があった。血の匂いを辿って綾斗は洞窟の中へ入る。洞窟の中は松明が壁にかかっていて先までよく見渡せる。
「洞窟の中に扉?」
綾斗の目線の先には重々しい石の扉がある。血の匂いは扉の先から来ていた。綾斗は扉に手をあてて思いっきり扉を押す。扉は綾斗の力が強さに重々しい見た目とはうってかわって木の扉のようにあっけなく開く。
「あ?誰だ?こんなところに客とは珍しいなぁ」
黒いマントのフードを深く被った人物が聞き覚えのある声でそう言う先には手足を縛られて身動きの取れないアリスが横たわって綾斗の方を見ていた。
「アリス!」
「ああ、あやとだったのか」
フードの人物は振り返りフードを外す。
「ヴァイト…お前」
「どうしたんだい?あやと?」
ヴァイトの口からは血の匂いがするがさっきの女性のものだけの匂いではなかった。アリスの首に目を向けるとさっきの女性と同じ傷がある。それを見て綾斗はその傷がなんの傷か理解した。
「おまえ、アリスと洞窟の前にいた人の血を吸ったのか?」
「そんなに怖い顔をしないでくれよ、たかが血を吸っただけだろ?」
「…っ!」
綾斗はヴァイトの返答を聞いた瞬間に地面を蹴ってヴァイトとの間を詰めて右手で拳をつくりヴァイトの顔に向けて突き出す。それをヴァイトは躱すと綾斗の背後に回り込む。綾斗は回し蹴りをヴァイトの肩を狙って繰り出す。それをヴァイトは後に飛んで避ける。
「いきなり何をするんだい?」
「アリスに傷をつけたこと、後悔するぞ」
「俺が後悔する?どうして?」
「俺がさせてやるよ」
「白眼の君が?赤眼の俺に?」
「火球!!」
綾斗は火の玉をヴァイトに向けて放つ。
「最下級の魔法しか使えないのにどうする気だ?豪炎球」
綾斗の作ったものより一回り大きな火の玉が放たれ2つの火の玉がぶつかり合って弾ける。
「火球!火球!」
「無意味だよあやと、白眼の君のと俺とじゃ力の差がありすぎる火球、火球」
火の玉が弾ける。それと被るように綾斗はヴァイトに向かって詰め寄る。
「至近距離なら」
「甘い!豪炎球」
「うっ!!」
綾斗は魔法を直撃を受けて後に吹き飛ばされる。
「これで分かったろ?君じゃ、僕に勝てない」
「ああ、よく分かったよ」
綾斗はふらつきながら立ち上がる。
「魔法ってのは属性で分かれてるだけで、それ以外は変わらない、上位の魔法は複数の魔法を重ねて使ってるだけなんだ」
「は?」
集中しろ、できるはずだ。魔法陣のイメージは歯車、火の歯車を5つ噛み合わせて…
「獄炎世界」
ヴァイトの身体を黒炎が包み込む。
「ばっばかな、これは火属性の最上級魔法だぞ!白眼のお前が…お前なんかがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「地獄で、後悔してろ」
ヴァイトは叫びを上げながら燃え尽きていった。
綾斗はアリスの側に駆け寄りアリスの手足を縛っていた紐を解く。
「あやとぉ」
アリスは綾斗に抱きついてきた。
「アリス」
「あやとぉ」
綾斗は震えるアリスの身体を左手で抱き寄せると右手で優しく頭を撫でる。
アリスが泣き止むと綾斗は優しく声をかける。
「みんな心配してるし、帰ろうか」
「うん」
アリスは綾斗の腕の中で小さくそう答えた。綾斗の顔を見上げるアリスの目は泣いたせいでいつもよりも赤く目尻にはまだ涙が残っている。
「よし」
「ん」
綾斗が立ち上がろうとするとアリスが服を掴んで離そうとしなかった。
「仕方ないな、」
そう言うと綾斗はアリスを抱き上げてそのままゆっくりと歩き始める。抱き上げられたアリスは小さな手を綾斗の首に回すとぎゅっとしがみつく。
あんなに強いアリスがこんなふうになるなんて、やっぱりまだ子供なんだな…アリスも。
城に帰ったあともアリスは綾斗から離れようとはしなかった。誕生日パーティはやれるはずもなく中止になり、綾斗はアリスをベットへと運んだ。
「アリス、そろそろ寝よ?」
「あやともいっしょ」
アリスは消えてしまいそうな声で言う。
「ここにいるよ?」
(綾斗は普段アリスの部屋の中央にあるソファで寝ている)
「ここでいっしょにねるの」
どうやらアリスのベットでという意味らしい。
「分かったよ」
綾斗は諦めてそう言うとアリスと同じベットに入った。ベットでもアリスは綾人を話そうとはせずに抱きついたままだ。綾斗は洞窟でしたように左手でアリスを抱きしめ、右手で頭を撫でる。しばらく頭を撫でているとアリスはすうすうと寝息をたてはじめた。
「寝たか。寝顔も可愛い、それに首の傷も治ったみたいだしよかったそれにしても今日は疲れたな」
そう言った途端に疲れと眠気が一緒に襲ってきた。綾斗は眠気に身体を預けると意識が眠りに落ちていく…。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
いやぁ、前回の文字数が少なかったため今回は少し長めに書いたつもりです。そしてお待たせしました今回のアリスの行動は可愛いかったでしょう(自信あり)←あくまで自分が可愛いと思うように書いただけなので読む人によって個人差あり。
そして今回の話で一応王城編終了となります。予告して置くと次回からは学園編を予定しておりますので是非これからもよろしくお願いします。
それではまた来週お会いしましょう。