第5章*もうひとつの世界…*
「気づきましたか?美國 流河さん。はじめまして、私は案内人の紅 美琴と申します」
ルカは何がなんだか分からないと言いたいような顔をして首を傾げている。
「軽く御説明致しますね。現在流河さんがいるこの世界は人間界とは別世界の妖界、隠世で御座います」
「…!?!?!?」
「え…俺死んだの?魂抜かれたの?」
「いえ、そういうことでは御座いません。流河さんは現在も人間界で生きていらっしゃいます」
「………ん?」
「仕方ありませんね。少しですが御見せ致しましょう。此方を御覧ください」
女性は片手を空に向けて上げると左から右へとスライドさせる。
すると映像が浮き出された。
「御確認ください。現在も流河さんは人間界で生きていらっしゃいます」
その映像にははっきりと自分が映っていた。
「え、なんで…これ、俺なの?」
ルカは映像を指差し訊ねる。
「勿論で御座います。今現在ここ隠世にいらっしゃる流河さんも、人間界に居られる流河さんも正真正銘、美國 流河さんですよ」
美琴はニッコリ微笑んだ。
「ちょっと待って…。何がなんだか…」
流河は1度頭の中を整理しようと試みるが、整理なんてつくはずがない。
「おかしい…。絶対におかしい…。普通、どっちかが動けなくなるんじゃないの?ほら、あれだよ…」
「もしかして幽体離脱の事ですか?」
「そう!それそれ!幽体離脱!」
「流河さんの場合は幽体離脱と少し違うんです」
「…幽体離脱じゃないんだ。じゃあこれはなんなの?」
「はい、幽体離脱では御座いません。簡単に申しますと流河さんの『想い』がこの世界へと導いているのです」
「…それって幽体離脱じゃないの?」
「違いますよ。幽体離脱とは生きている者の魂や意識といったものが身体から離れる事を云いますが、現在の流河さんは魂や意識ではなく『想い』のみが此方の世界と繋がり存在している状態なのです」
「想い?」
「はい。流河さんは意識が遠退く前に何かを強く想っていたはずです」
「…ちょっと待って。俺の想いが導いたなら…めあはもう…。でも、…それはあり得ない」
流河が崩れ落ちる。
「めあ…」
「まだ分かりませんよ?流河さんが探している女性がこの世界にいたとしても、流河さんのように現在も人間界で生きているという可能性は十分にありますから。この場所の名は『隠世』ですが此処には様々な方々がいらっしゃいます」
「そう…なんだ。わかった!ありがとう」
「どうか流河さん自身がこの隠世で答えを見つけてください。我々はいつでも呼んでくだされば駆けつけますので何かありましたら、名をお呼びください」
「うん。あ、…ごめん、君の名前…」
「フフッ。紅 美琴と申します。『美琴』とお呼びくださいませ」
美琴は頭を下げるとその場から消えた。
「紅 美琴…。ちゃんと覚えておかないとな…」
るかは目の前の風景を眺めてそう呟いた。