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王道と邪道

 私は当て馬が嫌いな訳じゃない、寧ろメインヒーローより魅力的なこともあり大好きだ。

 特に、メインヒーローとヒロインを取り合う彼らの涙ぐましい努力と主人公の背中を押して、恋敵の元へ行けと言える男前さは惚れざる負えない。

『花に嵐~恋せよ乙女~』はある意味で、私に衝撃をもたらした作品だった。

 この漫画は生前、一世を風靡する程の大人気少女漫画である。

 しかし、私が王道中の王道に見せかけた邪道ストーリーと呼ぶには理由があった。


「西園寺さん大丈夫?怪我は無かった?」


 保健室に横になっている私のベッド横には、漆黒のサラサラの髪と白い肌の上に、幼いながらも将来は絶世の美男子になるだろう、黄金比率で整った顔立ちの美少年が眉を下げて心配している。

 しかし、私には分かっていた。

 その目の奥には心配のしの字も浮かんでいないことを。

 そして、私は知っていた。


 彼、皇 終夜がこの物語の真の『当て馬』になる事実なのだということを――!


 そう、この『花恋』では彼は主人公とハッピーエンドを迎えたかのように思えるが正確にはそうじゃない。

 この時点で、皇 終夜と幼馴染みの読者アンケートでの人気投票は互角である。

 諦められなかった幼馴染み派の読者が、続編を希望して作者に怒涛のファンレターを送るという事件も発生した。


 10年後、あまりの人気に昔の客層がメインである為か、子供向け少女漫画雑誌から違うレーベルで大人向け女性漫画雑誌により第二部が作られたのだ。

 しかも儚く散っていた、あの幼馴染みが復活参戦でだ!

 学園を無事卒業した主人公2人は今度は恋人として、過ごすことになる。

 しかし、身分差に苦しむ2人への当たり前のような妨害に主人公は心が不安定になってしまう。

 そこへ現れたのが、幼馴染みという訳だ。

 そして遂に最終回では、何と主人公は幼馴染みと結ばれ、大逆転勝ちするんだから少女漫画界に激震が走った。


 誰が考えただろうか、王道のハッピーエンドを迎えたと思っていた彼が当て馬になる未来がくるだなんて!


 夢のような王道として楽しめるのが第一部だとしたら、格差社会を取り上げたリアルさとシリアスを兼ね備えたのが大人向けの第二部という訳である。

 これには勿論、双方の古株ファンから大反発があったのだが伏線回収が見事でストーリーも練られていた為、新規ファンからの圧倒的な支持で自体は鎮圧化した。

 しかし皇 終夜派は諦められず、二次創作をし出した者まで現れ始める。

 そんな古株ファンの一員だった私は複雑な思いを抱えて死んだのだ。

 第一部では報われなかった幼馴染みに涙し、第二部では最後の最後で結ばれなかった彼、皇 終夜にも涙したのである。


 辛い、切な過ぎる!


「……え!ちょっと、西園寺さんどうしたの。何で泣いてっ」

「う、うううぅぅ」


 そんな波乱の運命に振り回されることになる幼い彼を思わず抱き締める。

 君の将来に幸あれ!


「っ、苦しい!苦しいから!」

「あ、ごめん」


 私はそのままパッと腕を離す。

 皇 終夜は抱き締めたせいで乱れた服装を手で払い、整えた。


「ったく、何なんだ。体裁を守る為にお見舞いに来てあげただけだというのに……」

「てい、さい?」


 思わずそう呟くと、彼は笑顔の中に若干小馬鹿にしたよう表情を浮かべる。


「何でもないよ。君には少し難しいだろうから」


 はい?舐めんな小学4年生。

 さっきまでの感動を返せ!

 体裁なんてこちとら前世含めて36年、オタクを隠し続けた人生で嫌という程分かっているんですよ。

 あの時代の女性オタクが世にまだ浸透していなかった頃の生き辛さといえば、もう胸が抉られる程に!


「だから振られるのよ……うぁあああん」

「は?お、おい」


 私はぼそっと言ってそのまま呆然とする皇 終夜を残し、泣きながら迎えの車に飛び乗った。

 この体は私の精神にも関わらず、感情に引っ張られるらしい、気を付けなければ。




 拝見

 私の前世で大親友のみっちゃんはお元気にしておりますでしょうか。

 この度、何の因果か『花に嵐~恋せよ乙女~』の世界に悪役令嬢、西園寺 瑠璃子として転生してしまいました。

 皇 終夜は貴女の推測通り、昔からひねくれておりました。

 貴女ともう一度、あの最終回についてお酒を酌み交わしながら朝まで語り合いたいものです。

 まだ小学4年生です。

 この歳でお酒が恋しいなんて、死んでも私の上戸は治らないみたい。

 敬具

 篠原 朋

 安藤 美津子様

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