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花より団子

「春陽君、早くしないと遅刻するわよ?」

「……」


 春陽君は無言でコクリと頷く。

 とはいえ、昨日から私は彼に距離を置かれている。

 必要最低限の会話しかしないし、姉と呼んでくれたのも1回きりだ。

 私は彼と一緒に車に乗り込んだ。


「お嬢様、その子が奥様と旦那様が言っていた弟君ですか?」


 私は「そうそう」と言って、春陽君を自己紹介する。


「お嬢様の専属運転手の小嶋と申します。よろしくお願いしますね」

「……よろしく」


 小嶋さんはニッコリと挨拶するのだが、対照的に彼は無表情だ。

 いずれは春陽君にも専属で誰かが付くのだろうけど、暫くは私と一緒に登下校をする。




 車から降りた私達は、そのままクラスに向かった。

 春陽君は私より1歳年下なので、棟が違う。


「じゃあね、私はこっちだから」

「……っ」

「ど、どうしたの!?」


 春陽君は私の腕の裾を引っ張る。

 ちょっと顔が俯いている。

 学校もこちらに新しく転校したらしいし、緊張とかしてるのかな?


「大丈夫だよ。何ならお昼はお花見だし、私の所に遊びに来ても良いわよ?」


 私の通っている『櫻ヶ丘小学校』は学校全体を囲む様に咲いている千本の桜の木が自慢でもある。

 4月になると一斉に咲く、満開の桜は惚れ惚れする程綺麗だ。

 学校の伝統で、お昼は各家庭からお弁当を持ち寄りお花見を楽しむのが恒例行事である。


「……別に」


 そう言うと、春陽君は自分のクラスに行こうとする。

 残念!今日明日で仲良くはなれないし、ゆっくり仲良くなれば良いか。

 あ、言い忘れてたことが。


「緊張した時は、手のひらに肉って書いて飲むのよー」


 私はそう言って自分の教室へと向かった。




 教室に入ると、また女の子達が私の所に群がってくる。

 奥には文ちゃんが軽く手を振っている。


「瑠璃子様! 聞きましたわ。今日弟君がこの学校に転校なさるんでしょう!?」

「凄く優秀だとお聞きしましたわ!」


 早いな! 何そのお嬢様達の情報網。

 私は矢継ぎ早に質問を投げられ困惑した。

 小学生とは思えない程、すっごい目がギラギラしている。

 流石の西園寺家の跡取り息子になるだけあって、彼女達には反応が大きい。


「うん。まぁ、優秀なのかしら……?」


 正直、小学生で優秀と言われてもピンとこない。

 本人から何が出来るか、得意かは聞いたことが無いから想像が出来ない。


「お噂では有名なピアノのコンクールで最優秀賞を取られたとか、もう既に大学レベルの問題を解いていらっしゃると――」


 誰だよ、そのスーパー小学生!?

 皇 終夜以来だよ。そんな人間が何人も居てたまるか!


「おほほ、少しお話が盛りすぎではありませんこと?」

「そうでしょうか? いずれにしても、早く一目見てみたいです」


 そううっとりと妄想に浸るお嬢様達に、私は苦笑いした。




「瑠璃子様、凄いですわ!」


 私は只今、絶賛の声の嵐を受けている。

 理由は今日のお花見のお昼時に持って来たお弁当……ならぬ重箱。


 いつも毎年料理のできない瑠璃子は料理人に任せ切りで作らせる。

 というのも、昔軽いやけどをしたせいで両親の言いつけにより台所に立たせて貰えなかった為だ。

 世界の三大珍味の詰め合わせ弁当を皇 終夜に笑顔で食べさせていた。

 私も大人になった時、ちょっとお高めのレストランで食べたことがあるがあれは子供舌の私にはキツかった。

 巷で有名な高級弁当をそのまま移したのも食べさせてたな。邪道だ!


 今回はちょっと特別で、私が生前作っていた料理を自分で作って持って来ている。

 一段目は豪華さ重視の料理人によるものだ。

 私が無理を言って台所を貸してくれるようにたんだ時に、「せめて仕事はさせて下さい!」と言われて作って貰った物である。


「食べる?」

「良いのですか!? 頂きますわ!」


 私がそう言うと、嬉しそうに彼女達は美味しそうに食べていた。

 その端にひっそりと、置かれてる二段目の箱。

 うん、まぁ……食べないよね。

 少し地味だけど私が作った物だ。

 私はそれをつまんで食べる。


「……姉さん」


 私のことを『姉さん』と呼ぶ人物は1人しか心当たりが居ない。


「春陽君!?」


 何故ここに! 遊びに来て良いとは言ったけども、本当に来るとは思わなかった。

 私の周りの女子達の黄色い声が上がる。


「来て良いって言ったから。あと、あれ効かなかった」

「あれって?」


 何かと思って首を傾げる。


「肉」

「へ?」

「……手のひら」


 私はぽんと手を叩く。

 え!? あれ本気でやったの。春陽君が!?


「ほら、手のひらに人っての! 2倍効果ある気がするじゃない?」

「……」


 春陽君は目を細める。

 う、ごめんってば。


「そうだ、お弁当忘れたから貰おうと思って来た」

「ああ、作り忘れたのかしら……」


 私は春陽君を隣に座らせる。


「どれから食べる?」

「それ」


 私は重箱の中身を見せた。

 春陽君が見つめているのは、私の作った二段目の箱だった。


「ホントに?」

「……うん」


 頷くそんな彼に、私は恐る恐る煮物を箸でつまむとその小さな口に近づけた。

 昨日と違って今度はそのまま躊躇いもなく、パクッと食べる。


「どう?」


 春陽君はもぐもぐしてこくんと喉を上下させる。


「……美味しい」


 そう小さな声で言うと、春陽君は初めてちょっと笑った。

 そんな彼にちょっと胸が詰まった。


「ホント! もっと食べる?」


 すると、春陽君は「食べたい」と言ってくれる。

 そっか、美味しいんだ。

 思わず涙目になってしまう。

 そんな私に、春陽君は不思議そうにする。


「何で泣きそうなの」

「いや、これはちょっと違うの」


 二段目に作った料理は全部、前世の母親に教えて貰った物ばかりだったからだ。

 死んでから母親の味が恋しくなるなんて、思ってもみなかった。

 うる覚えのレシピで何とか再現してみたが、自分で作った物だからか何だか味気無く感じてしまう。

 そんな料理を春陽君は「美味しい」と言って笑顔になってくれたことに、胸がジーンとする。


「西園寺さん、それ美味しそうだね?」


 そんな時に背後からゾクッとする声が聞こえた。

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