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愛すべき親バカ達

「お嬢様大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ……」


 お嬢様達に振り回され、私はグッタリとしていた。

 そんな様子の私に小嶋さんは気遣って声を掛けてくれる。

 これは今まで、瑠璃子に付き合ってくれた彼にボーナスを出すべきだな! そうしよう。




 家に帰ってきた私は玄関先に増えた靴を見て固まった。

 下を向いていたら体に衝撃が来る。

 そのまま体をぎゅっと抱き締められた。


「ルリちゃあああんっ!」

「あぶっ!」


 私の顔を頬擦りしながら名前を呼ぶこの女性は今生の母親である。

 洗練されたファッションとそれに見合う顔立ちとスタイルの良さは、今年40歳だと思えない。

 瑠璃子とお揃いの黒髪は染料に頼らずとも、 艶やかでサラサラだ。

 自身は今では有名なファッションブランドを立ち上げ、デザイナーをしている。

 何故私に絵心は遺伝しなかった!?


「お母様、苦しいですっ……わ」

「あら、ごめんなさい!」


 窒息死しそうになりながらそう訴えかけると、ようやく腕から開放される。

 奥から父親も顔を覗かせた。

 少し癖のある髪をした長身のナイスミドルだ。


「おかえり、ルリ! 可愛いお顔をお父様に、よーく見せておくれ」


 アンタもかいっ!

 お父様はお母様から私を奪う様に抱き締め、顔を頬擦られる。

 痛いっ、髭が痛い! ジョリジョリする。


「貴方! 私は海外から帰ってきたばかりなのよ。今日1日、ルリちゃんは私に譲るべきよ!!」

「無理を言うな。今期、会社の経営で死ぬ程忙しかったんだぞ! 俺もルリで癒されたいっ!」


 あのう、私に拒否権は無いのでしょうか……?


「「ルリちゃあああん!!」」


 もうやだこの(おや)




「ルリちゃん、ルリちゃん! お土産いっぱい買って来たのよー」


 お母様はトランクから、手品かと思うぐらいの量を出す。


「ルリ、ルリ! 俺も色々、買ってだな……」


 ボストンバッグからこれでもかとお土産が出てくる出てくる。一応、仕事用だよね!?

 もはやいつもの恒例行事なので私は驚かない。

 両親はこうして、どちらのお土産で私を喜ばせられるかを競い合うのだ。


「ルリちゃん、新作のワンピースよ。可愛いでしょ!?」

「ルリ、お前の大好きな菓子店の新作スイーツだぞ!?」

「あ、ありがとう」

「「……」」


 何気無くお礼を言うと両親は固まった。

 何だ何だ!


「「きゃあああああ! ルリちゃんがお礼を言った」」


 失礼だね。私だって、お礼ぐらい言うよ!?

 もう疲れる。もう寝たい……!

 そう思っていると、後ろから小嶋さんの声がする。


「お嬢様、頼まれていた物が箱で届きましたよーって、これはこれは奥様に旦那様じゃないですか!」

「小嶋さん……大好き」


 私はそのまま、小嶋さん……ではなく、その箱に抱きつく。

 スルメの美味しそうな匂いがする。


「小嶋さんでしたっけ? あとでお話しましょうね」

「小嶋君、それは一体何だね……! ルリの好きな物なら知り尽くしていたと思っていた筈なのに」

「え、え、あの! お嬢様、お嬢様あああ!」


 ごめんなさい小嶋さん、生贄となって下さい。

 私は彼から箱を取り上げると、そのまま部屋へと戻った。

 その分、ボーナスは上乗せするからね!

 部屋の向こうから小嶋さんの悲痛な叫びが聞こえたのは、気のせいだと思いたい。




 その後、両親に呼び出されて久々に家族3人で食事をとる。


「ルリちゃん、美味しい?」

「ルリ、もっと食べなさい」


 頬杖をついて、ニヤニヤしているのは私の両親だ。

 自分の食事さえ忘れて、ずっと私の顔ばかり見ている。

 味も分からないし、食べづらいったらありゃしない。


「お姉ちゃんの代わりの癖に」


 しまった、思わずそんな言葉が出てしまう。


「お姉ちゃん……?」

「何を言ってるんだ。お前に姉妹など居ないぞ」


 本気で分からないというような両親の反応に私は酷くイラついた。

 下品に料理を食べていたナイフとフォークを音を立てて置くと、私は椅子から降りる。


「ルリちゃん! どうしたのっ……」


 テーブルに山の様に重なっているお土産を手に持つ。


「これもこれも、全部あの子の為でしょ!」

「あの子って誰なの……」

「とぼけないでよ!!」


 激情のままに物へとぶつけてしまう。


「使用人さんが言ってたわよ。私を馬鹿みたいに可愛がるのは、死んだお姉ちゃんの代わりだって!」

「っ……!」


 私はそう言うとそのまま走って、部屋へと閉じ込もった。

 やっぱりあの顔はそうなんだ。

 言うつもりなど無かったけれど、傷付く。

 勝手に自爆して何やってんだか私は。


「クゥーン」

「ごめんね。エリザベス」


 近くに来ていたエリザベスが、私の頬を慰めるように舐める。

 そんなエリザベスに私は顔を埋めて抱き締めた。

 暫くすると、コンコンとドアをノックする音が耳に聞こえる。


「……ルリちゃん良いかしら?」


 お母様の心配そうな声が聞こえるが、私は話したくなくてそのまま無言を貫く。


「聞いて欲しいの。あのね、貴女を妊娠していた時期に流産しそうになったの……あの時は近くに人が居て救急車を呼んで貰ったから助かったけど、もし誰も居なかったら私もルリちゃんも今居なかったと思うわ」


 私は顔を上げてその声に耳を澄ます。


「私もあの人も仕事人間だし、親になる自覚なんて全然無かったの。気付いた時には病院のベッドの上で、私のお腹の中で元気よく蹴ってきた貴女に初めて涙が出そうになったわ」

「俺もお前が倒れたと聞いて心臓が止まりそうになった。それからは、どうやったら無事にルリが生まれてきてくれるかを考えてばかりだったな」


 私はふらっとドアを静かに開ける。


「……だからね、元気に生まれてきてくれてありがとう。エコー写真で小さかった貴女がこんなに大きくなって、凄く嬉しい」

「お母様、お父様……でも、お姉ちゃんは?」

「馬鹿ね。誰が言ったかは知らないけど、私達の大事な大事な娘は貴女1人だけよ……?」


 その言葉に胸がじんわりとする。


「そうだぞ? それにおかしな子だね。お前がお姉ちゃんになるというのに」


 お父様はそう言って笑った。

 ん? すみませーん。

 感動の所悪いのですが、ドウユウコトカナ?

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