第16話 撫でたい? 撫でられたい?
「お、お邪魔します」
リビングへとそわそわしている愛ちゃんを導いて、私たち子供組はローテーブルを囲むように座りました。
天使たちはお客さんな彼女を挟むように腰を下ろし、お茶をどうぞお菓子をどうぞと怒涛のウェルカム攻撃を繰り出している。
「愛お姉ちゃんの為に準備してたんだー」
「愛ねぇ、今日は楽しんでいってね〜」
「う、うん……ありがとう、二人とも」
入学式の時に数回会話をしただけなのに、既に妹たちはもの凄く懐いています。
私が毎日学校であったことを二人に話しているからか、もう何度も会っているかのように感じているのかもしれません。
「メグちゃんも花ちゃんも気配り上手に成長してくれててお姉ちゃん嬉しいよ……!」
あと女の子たちがわちゃわちゃしてるのは見ていて楽しいね!
そんな目の保養にうっとりしていると、愛ちゃんが何やらこちらに助けを求めるような視線を向けていることに気づきました。
「こっちも美味しいよ、愛お姉ちゃん!」
「炭酸もあるよ、お茶もあるよ〜」
「ち、千佳ちゃ〜ん!?」
ウェルカム攻撃とか優しい感じではないな、これは。気配りの絨毯爆撃だ。
「はいはい、二人とも落ち着こうね。やりすぎは禁物だよ!」
そう伝えると天使たちはちゃんとごめんなさいをしてから、少ししょんぼりした様子で私の両隣へとやってきました。
それを見た愛ちゃんは少し余裕を取り戻したのか、優しい微笑みを浮かべて。
「ありがとう恵ちゃん、花ちゃん。沢山歓迎してくれて嬉しかったよ」
彼女は一人っ子らしいのでこうして年下の少女たちと触れ合う機会がそこまで多くないはずですが、しっかりとお姉ちゃんをしていますね。
ふっ、だけど負けないよ。お姉ちゃんの座は渡さないからね!
「褒めてもらえて良かったね、頑張った二人にご褒美だ!」
「「わわ〜!!」
花ちゃんとメグちゃんの頭をめいっぱい撫でてあげます。
嬉しさに満ちた声を聞きながら、もっともっとと犬のように頭を擦り付けてくる彼女たちの可愛さにキュンキュンしていると、何やら袖を引っ張る感触が。
「あれ、どうしたの愛ちゃん?」
「あ、えっと……その……」
もじもじと俯きながら天使二人の幸せそうな姿を見つめています。
ははーん、なるほど。遠慮しちゃってるみたいですが、私に任せなさい!
「ふふっ、愛ちゃんも妹との戯れに憧れてるんだね。ほら二人とも、あっちのお姉ちゃんにも突撃だー!」
「「わー!!」
「え、そうじゃな——あわわ!?」
私の命令に忠実な二人は左右から愛ちゃんへと抱きつきました。
この技を受けたものは妹中毒に陥るのだ!
既に私は毎日妹ニウムを摂取しないと手が震えちゃうくらいに中毒だからね、経験者は語る。
「どう、愛ちゃん? まるで天国でしょ!」
「……そ、そうだね」
天使たちを見る目は嬉しそうだけど、ふと私へと視線を向けた時は何故か頬を膨らませています。
ええ、どうして……
「ふふふ、千佳さんは罪な方ですね」
私が首を傾げていると背後のダイニングから声が掛かりました。
どうやら考えないようにしていたことに立ち向かう時間がやってきたようです。
「えっと……愛ちゃんママとお呼びしても?」
「ええ、大丈夫ですよ。よければ、ことねママやことねお姉ちゃんと名付けていただけると嬉しいです」
この家に来た時からもうアクセルベタ踏みフルスロットルな彼女、愛ちゃんのお母さんである室崎ことねさん。
ほぼコスプレと言っていい程の真っ黒なコートととんがり帽子を身にまとった、まさに美魔女な彼女はジリジリと私へ近付いてきています。
「あの、愛ちゃんママ? どうしてこちらに両手を伸ばしているのでしょうか」
「ふふふふふ」
「普通に怖いんですけど!?」
これはあれか。ことねママとか呼ばないと止まらないやつか。
「くっ、背に腹は代えられない。ことねママ、止まってください!」
「ふふふふふふふふふふふふ」
「より悪化した!?」
助けてと意思を込めて愛ちゃんに視線を送ると、未だ頬を膨らませたままぷいっと顔を逸らされました。
友達に裏切られたショックで気絶しそうになりながら、ならばと天使たちを見つめます。
さあ、5年もずっと一緒にいるからこそ出来るアイコンタクトを見せてやる!
「「??」」
あ、駄目だ。とても澄んだ目でキョトンとしておられる。
ならば最後の手段! お母さんにはお母さんで対抗だ。
「うふふ、ことねさんも千佳ちゃんの魅力を分かってくれるのね。お母さんとして鼻が高いわ」
「…………」
おたくのお子さんがピンチなんですけど! 自慢げにドヤ顔してる場合じゃないんですけど!!
あと花ちゃんママ、面倒だからって完全に知らんぷりはやめてよ! 泣くぞ!?
「ふふふ、本当に可愛らしいわ。まるで西洋で見たお人形のようで、この熱い想いを止められそうにないの」
「へ、変態だ……!」
いや、私が言うなって感じだとは思うんだけど。
気付けば背中には壁があって、目の前には魔女が不気味な笑みを浮かべてにじり寄る。
何が起きるのかは分かりませんが、最後まで抵抗してやる……お姉ちゃんの強さ見せて——
「——ああ、やはり良い。この柔らかい体つき、きめ細やかな白銀の髪、そして控えめな胸。千佳さんのような逸材を求めていました」
「今、何か失礼な部分あったよね」
まだ小学1年生だよ!
これからいっぱい大きくなるんじゃい!!
そんな想いを込めてうがーと威嚇しますが、全く効果はなく私は手を掴み取られました。
そしてまるでプロポーズをするように片膝を付き、私の顔を覗き込んで。
「ぜひ私の専属コスプレモデルになってもらえませんか?」
ことねママの言葉を聞いた私は理解しました。
「あ、やっぱりそれコスプレだったんだ」
ずっと分からなかった彼女たちの服装の謎が解けて、思わず納得の呟きを漏らしながら。
前世で興味がなかった訳ではないコスプレという存在に、自分の目がキラキラと輝くのを感じるのでした。
【ひとこと説明】
室崎ことね 現在:33歳
愛ちゃんママ。
コスプレの魅力に取り憑かれた魔女。
ファッションデザイナーをしており、私服も全部自作。
娘に着せては写真を撮ることが大好きで、千佳ちゃんが餌食になる日は近い。
リメイク前とは違い、ことねママも活躍します。
あと湖月ちゃんのお母さんも出せば、ママ友だけのお話も書けそうですね。
楽しんでいただけましたら、
下の☆☆☆☆☆を押して評価をしてくださると泣いて喜びます。
(恐らく千佳ちゃんが)




