第6話 別れに泣く母、先生のお説教
元の物語を残したまま、リメイク始めました。
まだ(新)第1話から読めていない方は、174ページからお読みください。
お手数お掛けします……
家を出発して、ゆっくりとした足取りでお母さんと手を繋いだまま目的地へと向かいます。時間には充分に余裕があり、小学校は徒歩圏内なので問題なく到着出来るでしょう。
「お母さん、流石に手を繋ぐのは恥ずかしいというか何というか」
「今日から小学生なんだから、これくらい普通でしょ? はっ、それともまさか反抗期……!? そんな、早すぎるわ!」
分かった、手を繋いだままでいいから落ち着いてくれ。周りを歩いている同じ入学生らしき親子たちが何事かと見てきてるから。明らかに調子乗ってる感じの、自分に自信満々な私とはいえ恥ずかしいから!
「良かったわ、それじゃあ今日はずっと繋いでいましょうねっ。入学式も傍で見守りたいから」
「そんな入学式があって堪るか」
自分が小学生らしくないのは当たり前ですが自覚しています。しかし家族や花ちゃん一家は普通に受け入れていますし、何だったらよく挨拶する近所のお婆ちゃんや、商店街の店員さんたちも変な目で見ることはありません。
普通6歳でこんなだと肉親とはいえ奇妙に感じると思うのですが……どっちかと言うと煽ててくるんだよね。流石は私の子、千佳だから仕方ない、みたいな。
でも考えてみれば、テレビで偶に見る子役さんとかは私と同い年でも活躍してる人だっているし、意外と奇異な存在ではないのだろうか。確かこの前ドラマやバラエティで見た子も同い年のはずだし。転生者特有のご都合主義という訳でもないのか……?
「千佳、あそこが今日から貴女が通う学校――桜望学園よ」
なんか美味しそうな名前の学名ですが、お母さんの紹介通りここがこれから私が過ごす場所です。校門には沢山の入学生たちがおり、その上から祝うように万回の桜たちが出迎えています。
その校門を抜ければ、沢山の校舎へと続く車が3台は通れそうな幅広い道。その大きさの理由はこの学園が小中高一貫校という馬鹿げた規模である為です。これがマンモス校ってやつか……! 入学式は混乱を防ぐ為に、小中高とそれぞれ分けた日付で行われるらしいので、ここにいる人たちは皆同級生なのでしょう。
どうやら校舎までの道沿いに長机で作られた受付があるようなので早速そこに向かおう、としらお母さんに優しく引っ張られました。
「待って千佳。入る前にやることがあるでしょ?」
「えっ?……一礼とか?」
「ふふっ、礼儀正しいけど違うわよ。入学式と言えばこれでしょ?」
そう告げたお母さんが掲げたのはピンク色のスマートフォン。どうした電波でも探してるのか? という冗談は置いておいて、そういえば行事には欠かせないものがありましたね。
「千佳の成長と思い出はちゃんと写真に残しておかないとね。それにお父さんも職場で今か今かと送られてくるのを待ってて、五分ごとにメッセージが届くんだから。ほら、列に並びましょ」
「とりあえずお父さんは働いてください」
達筆な字で入学式と書かれた立て看板の横は、これぞフォトスポットと言わんばかりの行列を成しています。しかし立ち食いそば屋の如く回転率は高いので、お母さんと他愛ない話をしているとすぐに順番はやって来ました。
「じゃあ撮るわよ~。はい、4かける3足す2割る7は!」
「多分2!」
今日のお母さんはフルスロットルだな。娘の入学式ということで喜んでくれているみたい。とりあえずニッコリと笑顔を浮かべ、顔の横で手をピースさせてシャッターを切る音を聞く。念のために2枚目も撮って……
「さあ、次はお母さんと一緒に撮りましょう!」
「一体どこから自撮り棒が!? というか入学式の記念撮影で自撮りするの?」
それはそれでアリかもしれないけれど、どうせならキッチリとした状態で撮りたいと思うのは少し真面目過ぎるだろうか。母の同意も貰った上で、丁度後ろに並んでいた親子へと私が声を掛ける。
「すいません、写真撮っていただけますか?」
「おっ、ええで~。うちのオカンに任せとき」
女の子から飛び出た言葉はどうやら大阪弁のようです。ここは関東なので珍しさを感じますが……うん、訛り女子も良い!
流石に初対面の子にグイグイ行くのもはしたないので、彼女のお母さんにスマホをお願いしてお母さんと並びます。順番としては母、私、看板。準備が出来たので掛け声をお願いすると。
「それじゃあ撮ります~。はい、チーズ!」
「ありがとうございます!」
大阪から引っ越してきたであろう彼女たちがボケず、私のお母さんがボケたのは何となく変な感じですが気にしない。改めて感謝を伝えて、私たちはようやく校門を抜けました。折角話し掛けたから同級生との初交流をしたかったけど、並んでいる所で屯していたら邪魔になっちゃうからね。
そうして受付を済ませ、会場である体育館へと続く桜並木の間を歩いていきます。
「遂に小学生か……長い道のりだったな」
「6歳の言葉とは思えないわね、千佳。そんな所も可愛いけど!」
もはや私だったら何でも可愛いと言ってくれるのではないだろうか。突拍子もないことを告げて試してみるか。
「この6年間は無駄に出来ない。目指すぞ、ノーベル賞っ」
「もう将来設計しているのね、凄いわ!」
私はもしかして転生者にありがちな能力を持っているのか!? 撫でるだけで惚れさせたり、微笑むだけで惚れさせたりする力が昔流行っていたと聞くし、私は何でも許される存在なのでは。よーし、もっと限界を探ってみよう!
「うんち!」
「下品な言葉は駄目よ、千佳」
どうして……一番子供らしい感じなのに……。
そうして幾つか試した所、特別な力はあまり感じられなかった。仕方ないね、私が言うのも何だけど親馬鹿だから。
美少女であること、そして楽しい家庭に生まれたこと自体が神から与えられた力なのではないか、という結論に今はしておこう。別に能力があったとしても世界征服とかしないし。私の周りにある幸せを守ることが出来れば、それで充分だから。
「っと、これが体育館か……思ってたより普通だね」
「小中高、それぞれにあるみたいよ。そうじゃないと体育の授業が被ったら大変だものね」
ぶっ飛んだ学校だなあ。入学前からパンフレットで規模は知っているから、今更驚きはしないけれど。実際に敷地を歩いて、風景を視界に収めるとその広大さがよく分かる。大きな野球場が軽く2桁は入りそうだ……いや、野球場の敷地面積は詳しく知らないけど。
ほへーとお母さんと一緒に施設の前で立ち止まり、周りを見渡していると、綺麗なスーツ姿の女性が声を掛けてきた。
「――おはようございます。入学の方ですか?」
「はい! 諸弓千佳って言います」
「しっかりと挨拶出来て偉いね。私はここの先生をしている、九重柚梨って言うの。柚梨先生って呼んでね」
両膝に手を当てて、少し屈むようにして微笑む柚梨先生。雰囲気がとても優しそうで、でも少し緊張感があって。こんな先生に教えてもらえるならきっと楽しい学校生活になるだろうな、と思わせてくれるような明るさがあった。
お母さんよりは高く、花ちゃんママよりは低い平均的な身長に、髪型は片側だけで纏めて肩付近まで垂らした所謂サイドテール。髪色と同じ黒のレディーススーツは皺一つないけれど、それが少し服に着られている感を出している。
「お母様は後ろ側の席へどうぞ。千佳ちゃんは私が責任を持って席へと案内いたします」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
お母さんも彼女から信頼出来る雰囲気を感じ取ったのか、ふわりと笑って頭を下げた。しかし私との手は繋いだままで。
「……お母さん、手を離そう?」
「嫌よ! 千佳の柔らかい手をもっと感じていたいの!」
おい、さっきの大人らしい挨拶はどこにいった。柚梨先生も困っている様子で苦笑しているし、私もちょっと恥ずかしいんだぞ。
「心配しなくても、私は大丈夫だよ?」
「千佳なら大丈夫って分かってるわ。でもお母さんが大丈夫じゃないの!」
「そこは子離れしようよ!?」
私の手に中毒性はありません!
先生にこれ以上迷惑を掛ける訳にもいかないので、手首を軽く回しながら腕を引き、その拘束を離させました。こういったことはお母さんだけでなく天使たちからも頻繁にされるので、抜け出す技術はお手の物よ。
ああ……と名残惜しそうな声が聞こえますが、無視です無視! 私だってお母さんと手を繋ぐの好きなんだから、辛いのはお互い様だよ!
「じゃあ行きましょう、柚梨先生!」
「え、あの……お母様は大丈夫なのかな? 号泣してるみたいだけど」
確かに泣いてるし、何なら膝から崩れ落ちてますが、ここで優しさを見せたら次は手だけじゃ済まないからね。入学式を母の膝の上で過ごしたくはないのだ。
大丈夫と伝え、私は柚梨先生の手を取って体育館へと入っていく。
「わっ、いきなり引っ張ったら危ないよ、千佳ちゃん!」
そんな彼女の声を聞きながら、私は心の中で作戦成功にほくそ笑む。見よ、これが自然なボディータッチだ。子供に許された権限を使えるだけ使って、私は可愛い女性とイチャついてやるぞ。
なんたって前世は男だからな。身体に精神が引っ張られることなく、恋愛対象は女性なのだ。やっふー! 先生の手のひらすべすべで気持ちいいー!!
……そうして私は入学式の前に、転生した幸せを噛み締めて。
「建物内は走ってはいけませんよ、千佳ちゃん。反省してますか?」
「はい……」
柚梨ちゃんからの初お叱りをいただくのでした。
【ひとこと説明】
諸弓千佳 現在:6歳
本作の主人公。男である前世については朧気に覚えているので、性格や考え方はやや男っぽい。
そのことについて彼女自身「これはご都合主義では……?」と考えている。
※リメイク前と同様、柚梨先生の呼び名は後に柚梨ちゃんに変わります。




