千佳ちゃんアイドル計画、始動
「――それでは、こちらの計画を実行するということでよろしいでしょうか?」
プロジェクターの光だけが照らす、およそ二十人の険しい表情たち。
彼女たちの視線の先に立っているのは、企画の説明を行っていた桜望学園の理事長である桜望愛架。
不敵に笑みを浮かべている発表者へと、一人の女性が手を挙げ発言する。
「もしもその計画を進めた場合、発案者である貴女はどうなるのですか? 千佳ちゃんの尾を踏むことになりますよ」
「千佳ちゃんのしっぽですか。是非モフモフさせていただきたいですね」
「冗談を言っている場合ではありません!」
声を荒げる女性へ向けて、愛架は笑みを崩すことなく再び口を開く。
「ええ、冗談など言っていません。確かにこの企画の発案者は私ですが……千佳ちゃんへと伝える役目は私ではありませんから」
「っ!? あなた以外だとするなら、一体誰が――」
その言葉を遮るように会議室の扉が開かれた。
声の主は腰に手を当て、白い髪をたなびかせ、自信満々にドヤ顔を見せつける。
その姿を見た瞬間、会議室中の女性たちが目を潤ませた。
――ああ、そうだ。彼女がいた。
ファンクラブ幹部の一人。そして崇拝する偶像の生みの親。
「任せてちょうだい! 『千佳ちゃんアイドル計画』、私も一肌脱がせてもらうわっ」
諸弓美花――千佳ちゃんママ、ここに爆誕である。
「で、なんですか。この茶番」
テレビで先程の、映画ちっくに編集された愛架ちゃんやお母さんの動画を見せられた私、諸弓千佳。
そしてそれを見せてきた、ニコニコ笑顔のお母さん。
「うふふ、千佳ちゃん。お願いがあるの」
「いや、勿体付けなくても充分に理解したよ? でもね、いきなりアイドル計画だなんておかしいでしょ?」
「そうかな? 千佳ちゃんのアイドル姿、ママも見たいな~?」
「小首を傾げてもダメだよ」
「そんなこと言わないで~」
前から抱き着いてくるお母さん。
下手に引き剥がす訳にもいかないので、なすがままに抱き締められますが……それとこれとは話が別です。
「アイドルに憧れてる訳じゃないんだよ? 夢をちゃんと持ってアイドルをやってる人に失礼でしょ」
「祐里香ちゃんのマネージャーさんから、名刺も貰ってるのよ?」
「いつの間に! ダメなものはダメだからねっ」
「……やっぱり、オーディションとか勝手に送っておけば良かったかしら」
「アイドルの話でよくあるやつ! 絶対にやめてよね」
ぷいっ、とそっぽを向くと、リビングで寛いでいるメグちゃんと花ちゃんに目が合いました。
「ねぇね、お願い~」
「お姉ちゃんのアイドル姿、わたしも見たいな!」
「うっ……だ、ダメったらダメ!」
いつまでも妹の言うがままな私ではないのです!
……あ、あとでいっぱいナデナデしてあげるから、そんな上目遣いで見ないで!
「ねぇ千佳ちゃん。せめて愛架さんが作ってくれた、企画書だけでも見てみない?」
私に抱き着いたまま、頭を撫でつつそう問いかけてくるお母さん。
まあ……せっかく頑張って作ってくれたみたいだし? 見るくらいはしてあげないと可哀想だよね。
「うん。じゃあ見るよ」
「よかったわ。それじゃあまずは第一話から見て行きましょうね」
「まさかの動画!? しかもシリーズもの!?」
「全部で26話あるわ」
「アニメだと2クールもある!!」
結局その日、私は愛架ちゃんへとビデオ通話を繋げ、企画書の再提出をお願いするのでした。




