決着は予想外に
「――ついに運命の時がやってきたわ」
朝、ベッドの上で身体を起こして呟く。
今日は私が所属する演劇クラブの配役オーディション。
台本の中でも名前の付いている配役を誰が演じるのか、それを実力で決める日。
「千佳との決着を付ける……どっちが新のアイドルか、見せてあげるわ」
トイレを済ませ顔を洗った後、パジャマを脱ぎ捨て、制服に袖を通しながらそう呟く。
ワンピースのような白い制服に、同じく白いベレー帽を被って。
「さぁ千佳。勝負よっ!」
気合充分な私は、部屋の扉を開けて――ママが作った朝食を食べてから学校へと向かった。
「それでは、今からオーディションを始めます」
授業、そしてお昼休みが終わって、舞台は演劇クラブでいつも使っている教室へ。
ほんの少し気合を入れるのが早すぎたものの、私の闘志は未だメラメラと燃えている。
私は隣でぽけーっと座っている千佳に声を掛けた。
「千佳。覚悟はいいかしら?」
「……え? あ、オーディションのこと?」
「それ以外に何があるのよ?」
何だか話を聞いていないような。
ぽけーっとした表情にも締まりがないし、いつもの千佳では無いようだけど……。
体調不良で負けなんて許さないわよ!
「もしかして、熱でもあるのかしら? 何だか千佳らしく無いじゃない」
「んー? あぁ、ちょっと考え事をしてただけだよ。だから大丈夫、心配しないで!」
「ならいいわ。覚悟しておきなさい、格の違いってものを見せつけてあげるわ」
「う、うん。楽しみにしてるね」
楽しみに、ですって?
随分と余裕ね……まさか!!
千佳とあろうものが審査員である先生方を買収したり――いや、元々買収されているようなものだったわ。
ファンクラブに所属している先生たちが平等に見てくれることを祈るしかない。
まぁ、これで千佳の余裕そうな態度も説明がついたわね。
いつも余裕たっぷりな気はするけど、人気アイドルはそんなこと気にしないわ。
私の力を見せて、千佳の口から負けましたって言わせてみせる!
ふんすっ、と気合を入れ直し、長椅子に並んで座っている先生たちに笑顔を向ける。
オーディションという戦いは始まる前からが勝負。
一瞬たりとも気を抜かない、それがアイドルってものよ!
千佳には負けない! 絶対に、勝ってみせる!
「では、ジュリエット役のオーディションを始めます。……あ、ロミオ役は千佳ちゃんで決定していますので、皆さん頑張ってください」
「――同じ土俵に立ってないッ!?」
そもそも出なかったの!? だからぽけーっとしてたの!?
オーディションで決着をつけるってことでクラブに入ったんでしょ!?
怒りに身体をぷるぷると震わせていると、千佳が申し訳なさそうに声を出す。
「その、ね? 私も祐里香ちゃんと戦うつもりだったんだよ? でも部長さんとか他の皆にロミオをやってほしいって言われて断れなかったんだ……」
私は千佳が優しい性格をしていることを知っている。
それに部長さん達のお願いするだけでなく、土下座までしてる一部始終が目に浮かぶ。
だから懇願された千佳が断れなかったのも分かるんだけど……
でも、それじゃあ私は何のために千佳を演劇クラブに入れたのよ!
「……千佳は、ジュリエットをやりたくないの?」
「うーん。やるならロミオかな」
そう言われてしまうと、無理やりオーディションに出させるわけにもいかない。
――その日、私は。ジュリエットになった。
……現役子役が出てはいけなかったのでは?




