千佳ちゃんと、最強のメイドさん。
私の背後に立っていた身長二百センチ、されども美人でスポーツをしていそうな引き締まったスタイルのメイドさんが近付いてきます。
釣り目で姿勢が良くて顔には満面の笑みが張り付いているけど、なんか怖い!?
私は正面に立ち止まったメイドさんを見上げました。
「千佳様、お怪我はございませんか?」
「は、はい」
「由緒正しきリーネルト家のお嬢様方が大変、それはもう大変ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございません」
「あ、いえいえ」
「こちらは私が預かりますので、千佳様はどうぞ恵様と一緒のテーブルにどうぞ」
「えっと、ありがとうございます」
……怖いと思っていたけど、凄く優しいメイドさんでした。
楕円形で黒い細縁の眼鏡の端を手で摘まんで持ち上げる仕草が、なんともかっこいいです。
「その、メイドさんのお名前は?」
「ペトラと申します。このお屋敷でメイド長を務めさせていただいております」
「おお、メイド長さんなんですね! で、どうして皆はそんなに怯えているの?」
ヒルデちゃん達四人のペトラさんを見る目が非常に怯えています。
ま、まさか優しいのは偽物の仮面を被っているのか!?
「いえいえ。断じて偽物ではありませんよ」
「なんでメイドさんは心の声を読んでくるの!?」
「メイドとしての基本能力でございます。この屋敷に居るメイドは全て私が育て上げましたから」
お前が原因かいっ!
「それにお嬢様達の勉強係も務めており、厳しくご指導させていただいております。それはもう厳しく」
「な、なるほど。それで皆は怯えてるんですね」
「ええ。私としてはもう少し厳しく出来るのですが……」
あ、皆が涙目になってる。
確かに私の争奪戦は大変だったけど、私が原因で皆が怒られるのはちょっと嫌だなぁ。
「ごめんなさい、ペトラさん。今回のは私が直ぐに決めなかったせいでもあるから、多めに見てあげて?」
「……分かりました。千佳様に免じてお説教は無しにいたしましょう」
あ、皆が泣きながら私を拝んでる。
そんなに怖いのか、ペトラさん。
「そういう訳で今日はマリーの所で食べるね。明日はヒルデちゃんの所、明後日はクリスの所という事で」
「分かりましたわ。……本当にありがとうございます、千佳お嬢様」
「た、助かったぜ。ごめんな千佳、迷惑掛けちまって」
こうして争奪戦が終了し、私がマリーとメグちゃんが待つテーブルへ向かおうとするとペトラさんに呼び止められました。
振り返るとペトラさんは耳に近付いて他の人に聞こえないようにこう言いました。
それはもう嬉しそうに。
「千佳様。千佳様は素材がとてもしっかりしているので是非、是非私の授業を受けてみませんか!」
「お断りしますううう!!」
あんなにトラウマを植え付けてる授業なんかに出たくないよ!
「はぁ、大変な目に遭った」
「お疲れ様、お姉ちゃん」
「チカ、お疲れデス」
「チカ! やっぱり貴女の人気は凄いわネ!」
漸く辿り着いたテーブルにはメグちゃん、マリー、アリシアママが座っていました。
私はメグちゃんのほっぺを両手で摘み、横に広げるように伸ばします。
「お~ね~え~ちゃ~ん~、や~め~て~」
「私を助けてくれなかった罰だよ! 自分だけ先に逃げるなんて!」
「ご~め~ん~な~さ~い~」
「お仕置きだー! ……あぁ、柔らかくて餅みたいで、癒されるぅ」
メグちゃんのモチモチほっぺを堪能してから、私達はとても豪華なディナーを楽しむのでした。




