千佳と、巨人。
ベアトちゃんとダンディな夫のミハエルさんに出会ってから、お二人にお屋敷を案内してもらいました。
三階のラウンジには大きなグランドピアノが置いてあったり、一階はメイドさんたち使用人さんの部屋やこれまた大きな厨房があったり。
そうしてお屋敷を周りきってみれば、もう晩御飯のいい匂いがする時間になっていました。
今からはお屋敷に滞在している皆が集まる晩餐会の時間です。
「とは言ってもお父さんとお母さんの帰りは夜遅くなるみたいだし、親戚の中にも仕事で遅くなる人もいるみたいだけどね」
「お姉ちゃん、誰に話してるの?」
「あ、なんでもないよ。それじゃあ食堂に行こっか」
「うん!」
「承知致しましたわ、お嬢様」
漸く娯楽室から帰ってきたメグちゃんとヒルデちゃんと共に、食堂に向かいます。
二人のゲーム戦績は二十勝二十敗の七引き分けだそうで、ヒルデちゃんという好敵手が現れてメグちゃんもご満悦な様子。
「でもゲームやり過ぎじゃない?」
「大丈夫ですわ! 一時間プレイ毎に二十分程休憩を挟みましたの」
「私は休憩無しでも良かったけどね!」
「駄目ですわ妹様。時間を守って、身体に負担を掛けないのがレディの嗜みですわ!」
「……ヒルデちゃんが居てくれて良かったよ」
私はどうしてもメグちゃんに甘くなってしまうので、上目遣いでねだられたら許してしまうかもしれません。
お世話する人とゲームをする事が本当に正しい事かは分からないけど、メイドとしてしっかりするべき所は弁えているみたいなので、ヒルデちゃんは頼りになります。
そうして三人でお話をしながら歩いていると、一分も掛からない内に食堂へ着きました。
「皆さんこんばんは」
「こんばんはー!」
今日初めて会う人もいるので、挨拶をしながら空いている席に向かいます。
「やぁ千佳さん。私たちと一緒に食べないかい?」
「ヒルデも居るし、こっちで食べるのだわ!」
私たちに一早く気付いたベアトちゃんとミハエルさんの夫婦が手招きしています。
「あ、いいですよ。それじゃあそ」
「いやいや! 千佳は俺たちと一緒に食べようぜ!」
「そうねん!」
しかしクリスとシャロルも負けじと立ち上がりました。
他の親戚はその様子を楽しそうに見てます。
「いや、あの」
「クリスにシャロル、今日はわたくしたちに譲ってくれませんこと?」
「駄目ねん!」
「千佳は渡さない! のだわ!」
「こっちだって千佳と一緒に食べるのを楽しみにしてたんだ!」
「皆ちょっと、落ち着いて」
「千佳たんは黙っててねん!」
「千佳ちゃんは黙ってて!」
「千佳は黙ってて!」
「お嬢様は黙ってくださいませ!」
「酷くないっ!?」
私が当事者なのに……。
およよとメグちゃんに抱き着こうとしますが、いつの間にか私の傍に居ません。
「マリーお姉ちゃん!」
「メグミ! 一緒に食べるデス!」
どうやらメグちゃんはマリーちゃん親子のテーブルに行ったみたい。
この波に私も乗らねば!
「わ、私もマリーの所に……」
「はい皆様落ち着いて下さいね。それ以上この食堂で騒ぐのでしたら、お外に放り出しますよ?」
「「「「!?」」」」
「だ、誰!?」
私の背後から聞こえたその声に、何故かヒルデちゃんたちの顔が強張ります。
シャロルちゃんに至っては顔を青くして歯を鳴らしています。
皆がこんなになっちゃうなんて、何者!?
「千佳様、リーネルト家のお嬢様方がご迷惑をお掛けしました」
振り返ってその姿を確認するとそこには何と!
「……お、大きいですね」
身長二百センチの、メイドさんが居たのでした。




