置いて帰るか
よっぽどショックだったのか、アルマさんが膝を抱えて落ち込んでいる。
こんなアルマさん見たことないよ、可哀想に……。
慰めるつもりでアルマさんの足にスリスリとすり寄ったら、涙目のアルマさんが「スラちゃん……」と呟いた。
ポヨン! と勢いをつけて膝の上に飛び乗って、そのままアルマさんのお顔にスリスリとすり寄る。
アルマさん、元気出して。
あっちで酔精たちと肩を組んで歌い始めたコーチなんか、もうほっとけば良くない? アルマさんのお師匠ともなんか思いっきり意気投合しちゃってるし。
「ありがとう、スラちゃん。ちょっと元気が出たよ」
優しく目尻を下げたまま、アルマさんをあたしをナデナデしてくれる。その手のひらがふわりと上を向いたから、あたしは軽くジャンプして手のひらに華麗に着地した。アルマさんが「おいで」ってわざわざ言わなくてもそれくらいは仕草で分かるよ!
あたしを手のひらの上に乗せたまま、アルマさんがすっくと立ち上がる。うんうん、元気が出たみたいで良かった!
「さて、どうするかなぁ」
アルマさんはあたしが乗っていないほうの手を腰に当てて、うーんと呻る。
「もうトマは無理じゃない?」
「アルマの師匠もつぶれている」
「そうだね、二人を担いで帰るのはさすがに無理だろうね」
あー、なるほど! 最悪の場合、お師匠さんを担いで帰るつもりだったんだね。アルマさんもなかなか豪快な手段を考えるなぁ。
「いったん置いて帰るか」
ええっ!? あ、アルマさん、それ冗談? もしかして本気?
「ひどい」
リーナさんがそう言って笑えばアルマさんは至極真面目な表情で「いや、冗談じゃなくてね」と、酔精たちと歌い騒ぐコーチを見遣る。
「ここまで盛り上がっちゃって酔精に気に入られちゃうと、すぐには連れて帰れないんだよ。今夜は盛大な宴会が開かれるだろうし」
「あら、楽しそう」
「食べるものはないから、ほぼエンドレスで酒を呑むだけなんだけどね」
「それはキツイわね」
リーナさんが顔をしかめる。リーナさんは道中ですら結構酔っ払ったみたいになってたもんね。お酒はあんまり好きじゃないのかも。
「で、これ以上ここにいて夜になろうもんなら、僕たちも問答無用で呑まされちゃうからね。そろそろ退散しないと」
「あ、じゃあちょっとだけ味見してもいい? 料理に使えそうならちょっと欲しいかも」
えっ待って待って、リーナさん切り替え早くない? 本当に、コーチ置いて帰っちゃうの?
「水筒か何かに入れて、ここでは呑まないで。泉の酒は酒精が強すぎて、薬を飲んでいても一瞬で酩酊するから、帰れなくなるよ。……ジョットもね」
「わかった」
「本当に危険なのね」
泉の淵にかがみ込んで、二人が水筒に泉のお酒を汲んでいた時だった。
「アアアアアア~~~~ルウウウウウウ~~~~マアアアアアア~~~~~」
地響きのような声が響いて、酔精の森が震えた。




