ポヨちゃん、嫉妬する
「まぁ、まだ可愛い方の酔精だね。泉に近づくにつれ、サイズも態度も厄介さもどんどんグレードアップするけどね」
「えっ……」
「まぁでもさっきエッフェンスが来てるって誰か言ってたから、師匠がここに来てるのは間違いないみたいだし、とりあえず先に進もうか」
そんなことを言いつつ、アルマさんはコーチを追い抜いて、先頭に立って歩き始める。エッフェンスってアルマさんのお師匠様の名前なのかしら。
「おいおい、サイズもグレードアップって……ひょっとして、この厄介なヤツらのデカいバージョンがいるって意味か?」
「うん、そうだね。ここはまだ空気に酒精が漂ってるレベルだから酔精も小さいけど、泉のそばはすごいよ。やっぱり飲めば飲むほど体が大きくなるのかも知れないね」
「マジか」
「そんなぁ。ここの子たちはこんなに可愛いのに」
リーナさんがあからさまにがっかりしている。リーナさんは可愛いもの大好きだもんね。たぶん酔っ払いの巨人はリーナさんの「可愛い」の範疇に入ってないんだろう。
「ぼくたち、可愛いの?」
コーチにまとわりつけなかった酔精たちが、今度はリーナさんにたかりはじめる。
「おねーさん、美人~♪」
「一緒に飲もうよぉ」
「まだ酔ってないのかの、ノリが悪いのう」
酔精とはいえ、見た目はちっちゃくて可愛い精霊さんに囲まれて、リーナさんはちょっぴり頬を染めている。なんだかんだでやっぱり嬉しいらしい。
そんなリーナさんにしびれを切らせたのか、リーナさんのポシェットからポヨちゃんが飛び出してきた。
リーナさんの肩に我が物顔で座って霧のお酒を飲んでいる酔精のおじさんを蹴散らして、リーナさんの肩でぴょんぴょん跳ねて主張しはじめた。まるで、リーナさんの肩は僕のものだ! って言ってるみたい。
ちょっと焼きもちやいちゃってるのかな。気持ち、わかるなぁ。
「あら、ポヨちゃん。ポシェットの中に入ってなきゃダメよ。酔っぱらっちゃうんだから」
自分の肩のあたりに手のひらをあてて、ポヨちゃんに「おいで」と声をかけるけれど、ポヨちゃんはイヤイヤするようにプルプルプルプル拒否している。
「じゃあ、酔い止めのお薬飲む? 死ぬほどマズいわよ」
それを聞いた途端、ポヨちゃんは怯えたようにリーナさんの肩にぺったりと張り付いた。極限まで薄っぺらくなって、全力で拒否の姿勢を示しているらしい。
うん、飲まない方がいいよ。ホントに死ぬかと思うほどマズいもの。
「わかった? はい、ポシェットに戻りましょ?」
すっかり色をなくしたポヨちゃんが、リーナさんの手のひらにおずおずと乗ろうとした時、急にポヨちゃんの体がくいっと後ろに引っ張られた。




