袋に詰めるか
あたしも迷っていたけれど、魔術師さんからも「うーん……」という呻くような声が聞こえてきてる。
メガネの奥であたしと同じ若草色の瞳が思慮深げに瞬きされ、彼の口がゆっくりと開かれるのを、あたしはドキドキしながら見守っていた。
「現実的に考えれば、トマとジョットは最前線で敵と渡り合う訳だし、リーナだって俊敏に動いて敵を撹乱する戦法だしね、この子を庇ってちゃ動きが鈍るでしょ」
「確かにな、懐から転がりでたらアウトだな」
「袋に詰めるか」
真面目な顔して武闘家さんが怖い事を言っている。若干後ずさったあたしに、魔術師さんの目がピタリと止まった。
「戦闘中は君を庇う事は出来ない。振り落とされないように自分で努力しなくちゃいけないし、危ないから勝手に出てくるのもダメだ」
厳しい顔で言われて、思わず小さく縮こまる。それくらい、あたしを連れていくってことは彼らにとってリスクがある事なんだと思い知る。
でも、それはそうだよね……。
ゴブリンより確実に弱いあたしなんかじゃ戦力にはならないし、たんにお荷物なんだもの。シュンとしていたら魔術師さんから「分かった?」とこれまた厳しい口調で言われて、思わず飛び上がる。怒られているみたいで、あたしの核はビクビクと小刻みに震えていた。
でも。
着地したあたしを魔術師さんが掬い上げる。
「一番戦闘中に動かないのは僕だ。僕と一緒でいいかい?」
頭が真っ白になった。
「めっちゃ飛んだあああ!」
「回転してる!?」
「ミラクル」
気がついたら皆に囲まれてめちゃくちゃ撫で回されていた。
「そんなに嬉しいの〜!?」
「ほんとミラクルジャンプだったな!戦闘に参加出来るんじゃねえのか?」
「かわいい、な」
珍しく武闘家さんまで参加してる。どうやら嬉しさのあまりミラクルジャンプをかましてしまったらしい。
魔術師さんも困ったように後ろで笑っていた。あたしがついていく事になって一番リスクを背負うのは魔術師さんなんだから、そりゃ困るよね。それなのに思いっきり喜んでしまった自分にガッカリする。あたしって勝手だなあ……。
「えっと、それ僕でいいって事だよね」
魔術師さんに念押しされた。そりゃもういいに決まってるから体は勝手に何度もジャンプするわけだけど、魔術師さんはそれでいいの?心配していたら魔術師さんはやっぱり厳しい顔をして、あたしをしっかりと見つめる。
「さっきの注意点はちゃんと分かったね?」
も、もちろんですとも!
一生懸命に跳ねてアピールすると、漸く魔術師さんはニッコリと笑ってくれた。
「よし。じゃあ、おいで」
両手を広げた魔術師さんの懐に、あたしは思いっきり飛び込んだ。