酔い止め対策も大事だよね
「ああ、もちろん。ただまだもう少し歩くし、この先はさらに酒精が濃いよ」
「これ以上!?」
リーナさんが絶望したみたいな声を出した。気持ちはめっちゃ分かる。だって今でさえ、耐えがたい匂いだよ? なんかもうお酒の壺の中にいるみたいだもん。
「うん、奥に酒が湧き出る泉があってね、そこが目的地だから」
「……」
「酒が湧き出る泉! さすが精霊の森だな、アルマの師匠がわざわざ来る筈だ!」
絶句するリーナさんとは対照的に、コーチは爆笑している。そうだねぇ、確かにコーチは嬉しいかもね。人の町にいるときは、コーチはよくお酒をたっぷり飲んで帰ってきてたもんね。
「あんまり笑い事でもないんだけどね。ここの精霊は酔精っていうだけあってお酒が大好きでさ、その泉の周りに集中してるんだけど、みんな酔っ払いだから面倒くさいんだよね」
「一緒に楽しく飲めばいーじゃねえか!」
「うん、トマはなんか酔精と仲良くなれそうな気がするよ。ジョットも気に入られそうかな」
「だろーな!」
「僕とリーナは被害に遭うだけな気がするし、とりあえずその状態異常だけでもなんとかしないとヤバそうだね」
胸を張って大笑するコーチの後ろでアルマさんは考え深げに呟いて、自分の荷物をごそごそとあさりだした。
「リーナも結構限界だよね」
「限界~。行くって言い張ってごめんなさい……」
可哀想に、ここに来るって言い張ったことすら反省するくらい、体調が悪いらしい。ひとつため息をついたアルマさんは、なんだか難しい呪文を一心に唱えている。
それとともに薄い青の光がリーナさんをつつんで、優しい光を放った。
「あ、すごい……楽になった」
リーナさんの顔から急激に赤みが引いて、いつも通りのすっきりした表情に戻る。トロンとしていた目も濁りのない綺麗な目になって、背筋もしゃんと伸びた。
すごい、一瞬でこんなに効果がでるなんて、魔法ってスゴイのね。
「良かったら、これ飲んで。できればトマとジョットも飲んでおいた方がいい」
「なんだ、これ」
「う……! すごい匂い」
アルマさんが取り出したのは、嫌な色をした粉薬。この濃ゆ~いお酒の匂いを超える、強烈な匂いを放ってるからだろう、リーナさんもコーチも、思いっきり嫌な顔をしている。
「強力な酔い止め。ちなみに僕はかなり酒に弱いんだけど、コレを飲んでるから今は無事でいられる」
「リーナ、飲んどけよ。オレは要らねえ」
「う……でも、すごい匂いよ?」
「そうなんだよね。効果は高いんだけど、匂いがすごすぎてよほどの覚悟がないと飲み込めないんだ」
なるほど。だから最初からは勧めなかったのか。




