ヒドいヤツにゃ……!
猫のジータさんを優しく抱き上げると、左腕に抱えて今度は右手で喉をこしょこしょとなで上げる。
「うにゃあぁぁぁぁ~~……」
ゴロゴロゴロ……と気持ちよさそうにノドを鳴らして、ジータさんが嬉しそうに目を細めた。
ああ~、いいなぁ。あたしもアルマさんに、あんな風に可愛がってもらいたい……。
アルマさんが左腕にジータさんを抱いてるもんだから、間近で繰り広げられる愛情たっぷりのやりとりにちょっぴり嫉妬してしまう。
なによなによ、ジータさんなんてめっちゃ酒臭いのに!
「で、ジータ。師匠はどこだい?」
「逃げたにゃあ~」
「逃げた?」
「依頼物の納品が明日なんだにゃあ……」
そこまで何とか言ったものの、睡魔が限界だったのかジータさんはうつらうつらし始める。しっぽもタランと垂れて、なんだかちょっと可愛らしい。
草原でアシャムキャットからいつも命を狙われてたもんだから、猫っぽいのはあんまり好きじゃないんだけど、ここまで警戒心がない相手だとちょっとこっちの敵意も削がれるモノなのね。
「ちょっとジータ、まだ寝ないで!」
ペシペシと軽くジータさんのおでこを叩いて、アルマさんが必死に起こす。
「うう……うるさいにゃあ、もとはと言えばアルマがいないから」
しっぽでアルマさんの手をぱしりと叩いて、ジータさんがうにゃあ、と不機嫌な声をあげる。
「仕方なくボクが叱ったんだにゃ。アイツ、うるさいって……ボクの口に酒を突っ込んだんだにゃあ」
「酷い」
「そうだにゃ……! ヒドいにゃ。ヒドいヤツだにゃ……!」
「それで師匠はどこに行ったんだい?」
「たぶん……森にゃ」
「えっ、まさか」
「もう酒を買う金がないにゃ……」
アルマさんが絶望したみたいに頭を抱えた。
「森ってどこかしら」
「!」
後ろから声をかけられて、アルマさんの肩がビックゥゥ! と揺れる。あたしの位置からはまだ姿が見えないけど、この声はリーナさんだよね。
「リーナ……入ってきちゃったんだ」
「だって戻ってこないんだもの。だいぶ匂いにも慣れたし」
ひょいっとアルマさんの肩越しに覗いてきたリーナさんは、慣れたと言いつつもハンカチで鼻を押さえている。うん。まあ酷い匂いだもんね。
「あら? 今聞こえていた声は?」
「ああ、この猫だよ。使い魔のジータ」
「しゃべる猫……!」
猫がしゃべるのは一般的じゃないのか、リーナさんは感激したみたいにキラキラと瞳を輝かせている。これは多分「可愛い!」って叫びたいときの顔だと思う。
「うわっ、酒くさい!」
ジータさんに思わず手を伸ばしかけて、あまりの酒臭さにリーナさんがのけぞる。
だよねぇ、ホントにこんな小さな体にいったいどれだけのお酒を流し込めば、こんなに酒臭くなるのかしら。




