あと少し、もう少しなのに
確実にこのでっかい魔物の口の中に入ってしまうだろう事が怖くって、あたしは核で周りを見るのをやめた。感覚さえ遮断してしまえば、気が付かないうちにお腹の中に入れるかもしれないもの。
そう思って視覚を自ら切ったんだけど。
その途端、後ろから凄い勢いで吸い込まれる感じに体が震える。視覚を切ったから、きっと他の感覚が鋭くなってるんだ。
ゴウッって、音がするみたいに空気が後ろに勢いよく流れて、あたしの体も思いっきり魔物の方に吸い込まれていく。あの、大きな口の中にあたし、吸い込まれちゃうんだわ……。
不思議と時間がゆっくりに感じる。
みんなの顔が思い出されて、短い時間だったのに、なんだかすごく胸が苦しい。
アルマさん……。
「グガアアアアアッ」
な、なななな、なに!?
いきなりの魔物の雄たけび、響き渡る爆音、そして悶絶するような魔物の呻き声。
そして、その爆音とともに、あたしの体は一気に推進力を得た。っていうか今現在吹っ飛ばされている。
なんなの、なんなの、いったい何がおこってるの!?
驚き過ぎて、もう視覚の回路をきってる場合じゃない。
視覚をもとに戻したとたんに分かる衝撃の事実。あたしは凄い勢いでギュルギュルにまわりながらアルマさんたちの方へむかってかっ飛んでいた。
あのでっっっっかい魔物がどうなってるのか見たいのに、自分があんまり高速で回りすぎていて、状況を判別できない。
それでも、なんだか苦しんでてのたうち回ってる……っていうか、長い首を狂ったようにふりまわしてるっぽいのだけは理解できた。
きっと……きっと、アルマさん達が何か攻撃をしかけたんだわ。
すごい、あんなに離れてるのに。
そう考えてる間にも、あたしの体は凄い勢いで飛んでいて。
ああ、トップ君がちゃんとコーチの肩にいる。リーナさんもジョットさんも、まるちゃんとポヨちゃんも、あたしの方を心配そうに見てくれていた。
そして。
アルマさんが、両手を広げてあたしを待ってくれている。
なんて嬉しいの。
あたし、みんなの元へ戻れそう。
「スラちゃん!」
アルマさんの表情が急に険しくなった。
広げてくれていた手が、急に忙しなく印を結ぶ。アルマさんの薄い唇が高速で呪文を唱え始めて、あたしは急に怖くなった。
後ろを振り返れば、あの海の魔物が、怒り狂ってあたしを追って来たのが見える。
っていうか、早!!!!
なんというスピード、なんという迫力。あたしが爆風で吹き飛ばされるよりもうんと早い速度であたしに近づいて来る。
もう少しなのに。
もう少しで、みんなの元にもどれるのに。
「アルマ、だめ! スラちゃんが巻き込まれちゃう!」




