アルマさん、大好き。
体に触れそうなほどの至近距離で、ギザギザの巨大な乱杭歯が、ガキィン!と嫌な音をたてた。
アシャムキャットを10匹集めたよりも、もっともっと大きい顔が、あたしとトップ君の体をかすめて……あたしもう、びっくりし過ぎて核が体から飛び出しちゃうかと思ったよ!
あたし達を、食べようとしたんだわ、あいつ。
すんでのところで凶暴な歯を逃れたあたし達は、勢いそのままにみんなが待つ陸地へと戻っていく。トップ君なんか気絶しちゃったのか、もう体の張りなんかどっかいっちゃって、ダラーンと溶けたみたいになっちゃってるし。
あたしがしっかりしなくちゃ、ってトップ君をしっかり抱えてたんだけど。
やだ。
やだやだやだ。
あたし達を食べ損なったと気づいたそいつが、怒りを露わにこっちに向かってきてるのが超見えるんですけど!スライムなんか食べたって、アンタみたいにおっきい魔物じゃ腹の足しにもならないと思うよ!?
ねえ、マジで。本気だすのやめて……!
恐怖におののいたあたしの体が、急に陸へと引っ張られた。
陸へ戻ろうとする力に、今は引っ張られる力も加わって、追いかけてくるでっかい魔物との距離が少しずつひらいていく。
ああ、ジョットさんがめっちゃ頑張ってくれてるんだ。
さっきまで『海』の間際にいたのに、草原の方に一生懸命猛ダッシュしてくれてる。リーナさんがあたし達を受け止めようと、両手を広げてくれたのが嬉しかった。
アルマさんが大きな声で何か叫んでる。声は聞こえないけれど、その表情はとっても真剣で、必死。
みるみるリーナさんやアルマさん、コーチの姿が近くなる。
でも、でっかい魔物もグンと速度をあげたのが見えて……間に合わない、かも。そう思った。
待って。
そうよ、トップ君だけなら、助けられる。
パパさんママさんや、チビちゃん達を悲しませるわけにはいかないもの。
気絶しちゃってるけど、幸いあたし達の体は大抵の衝撃なら吸収できるから。
グニャグニャで投げにくいけど、今出せる全力を振り絞って、あたしはトップ君の体をリーナさんめがけて投げつけた。リーナさんならきっと、しっかりと受け止めてくれる筈。
どうかお願い!
ひゅるひゅると飛んでいくトップ君のために、リーナさんがうんと腕を伸ばしてくれている。
よかった……なんとか、届きそう。
ホッとしたけれど、もう魔物は目の前まで迫っていた。
みんな……チビちゃん達のこと、どうか、どうか、よろしくお願いします。
アルマさん、大好き。




